37話 勇者召喚
人生とは理不尽で満ちている。
日々、そう感じずにはいられない。
疲れきったサラリーマン。
いじめられている学生。
その他、大勢の人々。
この社会に生きる人々は、皆何かしらの理不尽に耐えながら生きている。
まるで、それが当たり前のように…
こんなの間違ってる。
そう思わずにはいられない。
何とかしたいとは思うものの、自分はただの学生…何もできない。
そうして、日々を無力感と共に生きる。
それが俺、”東雲新”の日常だった。
その理不尽の最たる例が…今自分が見ている記事だ。
勉強のために図書館に来て、自然と目についた新聞記事。
無性に気になって目を通した。
…16年前…俺が生まれた年に発行された新聞記事だ。
見出しはこうだ。
[特待生の悲劇 父親に殺害される]
なんでも、当時17歳の”八神慶”という少年が、父親に殺害されたという凄惨な事件だ。
この少年は幼い頃、父親から虐待を受けた後にその父親が蒸発し、施設に預けられて育ったという。
それから勉強して特待生として優秀な成績を修めていた。
だというのに、その少年は、虐待していた本人である父親に、理不尽に殺害された。
しかも、その結末が、とんでもなく後味が悪い。
当時、その父親は闇金から多額の借金を負っていて、保証人になるよう息子に詰め寄り、断られて逆上した父親が衝動的に殺害したと、目撃者の証言から判明している。
父親は逃亡を図るも、数日後に殺人の疑いで逮捕。
後日、父親は懲役20年の実刑判決を受けて、この事件は幕を下ろしている。
そして、別の記事でその闇金業者は、債務者の訴えを受けて廃業しているとあった。
つまりだ、息子を殺した父親は、20年で釈放されるうえ、借金地獄から解放されたことになる。
息子を殺しておきながら、まるで一人勝ちだ。
これを理不尽だと言わずして、何と言うのだろう。
単に運がいいだけなのか、そういった理不尽には自分は遭遇したことはない。
もしかしたら、勘のよさも関係しているかもしれない。
そして、将来は、そういった理不尽から皆を助ける人になりたい。
強く、そう思った。
そして、記事をしまい、勉強も終えたので、帰路に就く。
すると…
何やら澄んだ音が足元から鳴り響くと同時に、目を細める程の光が視界を遮った。
「えっ!ちょ!なにこれ!?」
あまりの出来事に、思わず叫んでしまった。
それがどれくらい続いたのだろう…
気がつくと、なにやら荘厳な雰囲気の…教会?みたいなところに座り込んでいた。
え?なにこれ?どういうこと?わけがわからない。
あまりに突飛な状況に、思考が追いつかない。
すると、偉そうな口調の老人の声が耳に入ってきた。
「ようこそ参られた、勇者よ」
声の聞こえた方向に目を向ける。
すると、そこには豪華絢爛な法衣を纏った老人が玉座に座っていた。
老人は、俺の様子など気にも留めず、続けた。
「私は、サンクレイ神仰国の国王であり、レイジア教教皇、レイシス・サンクレイである!勇者よ、今この世界は、魔王によって未曾有の危機に瀕している!魔王を滅ぼし、世界に平穏をもたらすのだ!」
やたらと偉そうに、俺に命令してくる。
何?俺が勇者?魔王を滅ぼす?どういうこと?
なんかアニメとかでやたら流行ってる異世界転生とか言うやつ?
いや、俺の肉体はそのままだし、異世界転移か?
状況はよくわからないが…
俺の直感が告げている。
この教皇とやらは信用しないほうがいい。
こいつは理不尽を振りまく側の人間だ。
そう思わずにはいられなかった。




