34話 鯱
教会の地下牢を進む俺とスズカだったが、奥に感じる威圧感に驚いていた。
正直、ここまでとは思っていなかった。
だが、不思議と気圧されてはいない自分がいた。
むしろこれくらいでなければ拍子抜けだ。
「お、おいカルラ、お前陽動はどうした?」
「ん?全員ぶっ倒してきた。あれくらいじゃ相手にならんな」
「ほんと弱かったよねー。弱すぎてつまんなかったよ」
俺が呆れながら言うと、スズカも同調して溜息をついた。
そして、牢の中で座り込んでこちらに押しつぶすような威圧感をぶつけているその海賊に目を向ける。
「それで、お前がオルガ・レヴィアスでいいんだな?」
「ああ、そうだが、お前は誰だぁ?」
そう言ってオルガは俺を見て、目を鋭くし、さらに威圧を強める。
だが、それでも俺は、怖いとはかけらも思わなかった。
そして、それはほかの3人も同様なようだ。
おそらく、俺は試されている。
自分と対等で話すに値するか、見定めるためにあえて威圧している。
ここで怯んだら”話す価値無し”と判断されてしまうだろう。
「俺は、カルラ・ネメシスだ。早速だがオルガ、あんたを助けに来た」
「…ほう?怯まないとは…お前やるなぁ…」
オルガはニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、さらに言葉を続ける。
「さっきもそこのあいつにも言ったがなぁ…てめぇらに頼んだ覚えはねぇ…」
「ああ、俺も頼まれた覚えはない。だが助ける」
俺がそう返答すると、オルガは威圧を緩めて怪訝な表情に変わった。
「…なぜだ?なぜ助けようとするんだ?」
まあ、それは気になるだろう。
もし対価もなく助けてやると言われても、俺なら絶対に信じない。
「もちろん、意味もなく助けるわけじゃない。お願いしたいことがあるんだ」
「…聞こうじゃねぇか」
おお、話を聞いてくれるのか。
辺境の村を助けてるだけあってやっぱり見かけほど悪い奴じゃなさそうだ。
「俺たちと一緒に、監獄島ガルガンドを襲撃して乗っ取らないか?」
「……はあ!?」
俺の言葉にオルガは思わずといった様子で驚愕の声をあげた。
まあ、普通に考えて正気の沙汰じゃない。
だが、俺たちとレヴィアス海賊団が手を組めば、恐らくそれも不可能じゃない。
「……本気なのか?」
「ああ、本気だ。そして、くそったれな講釈を垂れるレイジア教の本性を曝け出して、それをぶっ壊す」
そうだ。それこそが俺の目的だ。
レイジア教なんか、あっていいものじゃない。
「……ぷっ…グハハハハハ!」
オルガは心底楽しそうな表情で大口を開けて笑った。
「おめぇ、頭のネジぶっ飛んでやがるなぁ!一目見て面白そうなガキだと思ったが、これほどとは思わなかった!恐れ入ったよ!」
オルガはそう言い、表情を緩めたが、ひとしきり笑った後、また威圧するような表情に戻った。
「だが俺と、俺の仲間たちを都合よく利用しようってのは気に入らねぇ…俺たちを従えたいって言うなら…」
そう言ってオルガは一拍置いて続けた。
「俺に勝ってからにしろ。俺とカルラ、一騎討ちで勝負して、俺が負けたらお前の下についてやる」
なるほど、わかりやすい。
「わかった、受けて立つ。じゃあ、牢からは出すが、異論はないな?」
「ああ、もちろんだ。ていうか、出るだけならいつでもできたんだけどな」
そう言ってオルガは身体を魔人の姿へと変異させた。
手には水かきが現れ、歯は鋭く、何でも切り裂けそうな歯に変わる。
そして体表は一部黒く変色する。
まるでシャチのようだ。
変異が終わると、オルガは手枷を腕力でねじ切り、牢の扉を鍵ごと蹴破った。
とてつもない力だ。
この牢はおそらく、魔人を捕らえておくための牢だ。
そう簡単に壊せるものではない。
「さあ、行こうぜ」
俺はその力強さを見て冷や汗が浮かんでいることに気付いた。
これは、一筋縄ではいかなさそうだ。




