33話 囚われた海賊
カルラとスズカがレイジア教の教会前で暴れていたちょうどその時。
教会の裏手側…
そこにクロウとアイズは闇に紛れて潜伏していた。
「おうおう、派手にやってるねえあいつら…」
「…ほんとね、私はもう眠いよ」
クロウとアイズも、既に魔人の姿に変わっていた。
クロウの両腕は翼にはなっていないが、体表には黒い羽毛が覆っている。
アイズは頭頂部に猫のような黒い耳。
ローブに覆われて目立たないが尻尾も生えていた。
「よし、そろそろいい感じに陽動に引っかかってくれてるだろ、そろそろ行くぞ」
「うん、わかった…早く帰って寝たい…」
クロウの指示に、アイズが目をこすりながらついていく。
クロウは、風属性魔術で自らの発する音を遮断する。
クロウの魔術を見て、アイズも魔術を行使する。
属性は水。
体表に水を覆わせ、光の屈折率を操作して
自らを視認できないようにする。
アイズが研究によって独自に会得した魔術。
「それ、俺もお前が見えなくなるんだけど…」
「…大丈夫、ちゃんとついていくから」
二人は小声で軽口を叩きながら、地下に続く階段まで向かった。
陽動により教会内に駐屯していた聖騎士はそのほとんどが正門前に釣り出されていた。
影に潜るまでもなく、侵入は容易だった。
そして、教会の地下空間…
そこに無数に備え付けられた牢獄。
そのほとんどは空だった。
しかし、その奥地…
隠しきれない威圧感をクロウは敏感に察知した。
そして同時に、クロウは見逃さなかった。
5人…
聖騎士かどうかは不明だが、それなりに強い奴がその牢獄前に陣取っていることを…
「アイズ、気付いているか?」
クロウは、今は見えないアイズに向けて小声で問う。
「…うん、いるね…やる?」
「もちろん。だが、殺しはなしだぞ?」
そう言ってクロウたちは、5人に向けて気配を消しながら疾走する。
クロウは目にも止まらぬ…
疾風の如く距離を詰め、背後から致命傷にならないよう、ナイフを突き立てる。
ナイフに仕込んだ睡眠薬によって1人、意識を手放した。
「なっ!どこから現れた!」
「こいつ、裏切り者のクロウだ!殺せ!」
いきり立つ4人に向けて、突如として姿を現したアイズが魔術を放つ。
水球が4人の頭部に向けて飛来する。
当たったのは2人。
頭部が水球に覆われ、溺れる寸前で水球が弾ける。
戦闘不能だ。
「くそっ!だが、魔術師なら接近戦で!」
そう言って聖騎士の1人がアイズに向けて一気に距離を詰める。
その瞬間…
「…甘いよ」
アイズは猫のような身軽さで剣による攻撃を躱し、勢いを殺さず、そのまま杖で殴打する。
頭部に打撃を受けた聖騎士は、失神。
「ちくしょう!コイツ!」
アイズに気を取られた聖騎士は、背後に迫るクロウに気が付けなかった…
背中から睡眠ナイフによる刺突を受けて、意識を手放した。
「いいなあ、私も寝たいのに…」
「こんな形で寝たくはないだろ…」
アイズの斜め上の小言に、クロウは苦笑いして答える。
「おう、あんたらやるじゃねぇか」
その言葉は、牢屋の内部から放たれた。
クロウとアイズが声の主に目を向ける。
そこには腕に手枷が嵌められた男が床に腰を下ろしていた。
長年潮風に晒されたようなこげ茶色のロングコートを羽織った金髪の男。
そして鋭い眼光で、相手を押しつぶすような威圧感を放っていた。
クロウはその威圧感に一切怯まずに、男に問いかける。
「オルガ・レヴィアスだな?」
「おう、そうだ」
オルガは短く答える。
「あんたを助けに来た」
「頼んだ覚えはねぇぞ」
クロウはこのオルガによる返答で察した。
オルガという男は他人の下につくようなタイプの人間じゃない。
どこまでも自分を貫いて、周りの人間を従えていく。
そういったカリスマ性を備えた人間だと。
クロウが諦めかけたその時…
「ほう、凄い威圧感だな、流石はレイジア教に喧嘩を売る海賊だ」
背後の通路からクロウにとって聞きなれた声が放たれる。
振り向くと、そこにはカルラとスズカがこちらに向けて歩を進めてきていた。




