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デモンズ・リベレーション~俺は転生して魔人となり、くそったれな世界に叛逆する~  作者: 宇月ナギ


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01話 小さくて暖かい世界

 目を覚ました時、最初に感じたのは、痛みだった。


「……っ、ああ……」

 身体中が軋むように痛い。

 特に、右腕。


 いや、違う。

 ……無い?


 視線を向ける。

 そこには、本来あるはずのものがなかった。


 包帯がぐるぐる巻かれた肩口。

 血の滲んだ布。


 そして……


「カルラ!」

 悲痛な声。


 すぐ近くで膝をつく男。

「しっかりしろ、カルラ!」


 大きな手が肩を支える。


 その目は、明らかに焦っていた。


 でも——


 怖くない。

 殴られないと、本能で理解できた。


「にーさま……ごめんなさい……」

 震える声。


 視線をずらすと、小さな少女がいた。

 涙でぐしゃぐしゃの顔。

 震えている。


「ネリア、カルラの呼吸は!?」


「ま、まだ……ある……!」

 背後で女性の声も響く。


「カイル、しっかり……!」


 ——そこで、何かがおかしいと気づく。

 ……なんだ、これ?


 視界がぼやける。


 でも、それだけじゃない。


 頭の奥……

 何かが溢れてくる。


 血の匂い。


 冷たいコンクリート。


 刺さる刃。


『……なんでだよ』


 自分の声が、重なる。

 これは……誰の記憶だ?


『保証人になってくれ』


『ふざけんな』


『てめぇ何やってやがる!!』


 断片的な光景。


 怒声。


 痛み。


 そして……


『……もっと、マシな人生がいいな…』


 その言葉が、はっきりと響いた瞬間に

 すべてが、繋がった。


 ……思い出した。


 俺は。

 ……八神慶。

 借金まみれの父に刺されて、死んだ。


 そのはずだった。

 なのに——


「カルラ!」


 もう一度、名を呼ばれる。


 カルラ。


 それが、今の俺の名前。


 ゆっくりと、息を吸う。


 視界が定まってくる。


 目の前にいるのは……


 必死な顔の男。

 父。

 カイル・ネメシス。


 その隣には——


 涙を浮かべた女性。

 母。

 レイカ・ネメシス。


 そして——


 泣きじゃくる少女。

 妹。

 ネリア・ネメシス。


 ……ああ。

 理解する。

 これは、夢じゃない。


 俺は……


 俺は、カルラ。カルラ・ネメシス。


 口には出さない。

 でも、はっきりと自覚する。


 慶じゃない。


 あの世界で死んだ。

 あの人生は終わった。


 ……八神慶は死んで、カルラ・ネメシスとして

 転生したんだ。


 前世の趣味だった古本屋での立ち読みで

 ラノベによく出てきた設定だ。


 まさか自分が転生することになるとは。


 心の中で、静かに整理する。


 驚きはあった。


 混乱もあった。


 でも、不思議と、受け入れられた。


「おい、カルラ! 目、開いてるか!?」

「あ……」

 声を出す。

 高い。

 子供の声だ。


「よかった……!」

 カイルが、目に見えて安堵する。


「無茶をしやがって……!」

 怒ったように言いながらも、その手は震えていた。


「にーさま……!」


 ネリアが飛びつこうとして……


「ちょっ、ネリア! 今は安静に!」

 レイカに止められる。


「でも! でも……!」

 泣きながら、こちらを見る。


 ああ、そうか。

 さっきの出来事が頭に蘇る。


 行商人の乗った馬車が暴走していた。

 その進路にはネリアが立っていて…

 ネリアは馬車に気付いていなくて…


 考えるより先に、身体が動いた。

 とっさにネリアを右腕で突き飛ばして馬車の

 進路から逸らしてネリアは助かった。


 その代償として、俺の右腕は

 馬車の車輪の下敷きになって…


 失った。


 現実を理解する。

 痛みが遅れて押し寄せる。


 でも……


「…………」

 不思議と、誇らしい気分だった。


 腕一本で妹の命を救えたのなら安いものだ。


「カルラ、喋れるか?」

 カイルが覗き込む。


 ゆっくりと頷く。

「……ネリアは」

 最初に出た言葉は、それだった。


「……っ、無事だ!」

 カイルが即座に答える。

「お前が庇ったからな!」


「にーさま……ごめん……」

 ネリアが泣きながら言う。


「……いいよ」

 自然に言葉が出た。

「無事でよかった」


 その一言で。

 ネリアが、さらに泣き出す。


「もう……無茶しないでよ、カルラ……」

 レイカが、そっと頭を撫でる。


 優しい手。

 震えている。


「……心配したんだよ」

 小さく呟く。


 ……ああ。

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 こんな風に。

 誰かに心配されるのは。


 初めてだ。


 前世では、なかった。

 一度も。


 殴られることはあっても。

 怒鳴られることはあっても。

 心配されたことなんて一度もなかった。


 施設でも、俺一人を心配してくれる

 職員の人はいなかった。


 ……なんだよ、これ。


 視界が、少し滲む。

 でも、それは痛みのせいじゃない。


「ほら、まだ無理はするな」

 カイルが優しく言う。

「治癒師も来てる。ちゃんと治してやるからな」


「……うん」

 小さく頷く。


 暖かい。

 空気が。

 声が。

 この場所が。


 ……これが、本当の"家族"、というものか。


 胸の奥で、何かがほどけていく。


 ……いいな。


 素直に、そう思った。


 この世界での家族は、貧しい。

 家も立派じゃない。

 食事も質素だ。


 でも、前世ではついぞ得られなかった

 暖かい家庭がそこにあった。


 誰かがいて。

 笑いがあって。

 温もりがある。


「早くよくなってね、にーさま」

 ネリアが手を握る。

 小さくて、暖かい手。


「またお話して」


「……ああ」

 頷く。


 そうだ。

 この子に、よく読み聞かせていた。


「今度は、あの話がいい」

「どれ?」

「青い石のお話」


 ……賢者の石、か。


 この世界で語り継がれている御伽噺。

 どんな願いも叶える、奇跡の宝石。


「いいよ」

 微笑む。

「治ったら、また読んでやる」


「やったー!」

 ネリアが笑う。


 その笑顔を見て。


 ……守りたい。


 強く、思った。


 この温もりを。

 この場所を。


 もう、失いたくない。


 前世で、手に入らなかったもの。

 ここには、ちゃんとある。


 だからこそ——


 絶対に、守る。


 そう、心に誓った。


 もし神がいるなら…

 その神が転生させてくれたのなら…


 前世も含めて初めて神に感謝したいと

 本気で思った。


 このときの俺は、まだ知らなかった。

 この世界にも神なんていなかったことを…


 いたとしても、その神は残酷であるということを…

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― 新着の感想 ―
めちゃくちゃ面白かったです!! この物語に感想がないのが、不思議なくらいです! スラスラと読めちゃいました……! 転生した慶くんの行先を、これからも追っていきたいです。 応援してます!
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