25話 それぞれの過去
晴天の空の下、俺とスズカは馬車に揺られていた。
図書館から立ち去った俺たちは
そのままギルドへ向かい、商業都市アリステアまでの商人護衛の依頼を受注していた。
「ねえカルラ、人間の護衛がいるなら魔人の姿になれないよね?
片腕で戦闘は難しいんじゃないの?」
スズカが小声で問いかけてくる。
まあ、そりゃあその辺は心配になるよな。
スズカには魔人状態の戦闘しか見せたことがなかったし。
「問題ない、この状態でも十分やれる。それに、ここに武器もちゃんと入ってるしな」
そう言って、俺はマジックバッグを軽く叩く。
「そっか、素の状態でも戦えるんだ!なら安心だね!」
「……素の戦闘能力なら俺はお前より弱いだろうがな」
俺の戦闘能力は魔人としての特殊能力に完全に依存している。
スズカの例を見ても、俺の魔人形態が異常だということは
この前のダンジョン攻略でよくわかった。
…俺が知っている魔人はスズカだけだから断言はできないが…
「そういえばさー、カルラってなんで右腕がないの?」
スズカが唐突に聞いてきた。
そう言えば言ってなかったな。
「まあ、名誉の負傷ってやつだな。妹を庇ったときに失ったんだ」
「……そっか、優しいお兄ちゃんだったんだね」
スズカは急に優しい表情になり、にこやかに答えた。
…こいつ、こんな表情もできるのか。
てっきり戦闘以外興味がないのかと思ってた。
「……優しくはしてたつもりだが、肝心なときに俺は家族を守れなかったんだ。絶対に守るって誓ったのに、守れなかった」
思わず口に出てしまった。
…言うつもりはなかったんだがな。
「…まあ、その話はいい。それより、蓬莱帝国出身だって言ってたな。鎖国国家だってのに何でお前はこの大陸にいるんだ?」
そう言って俺は思わず話題を逸らした。
「あー、それね。私、向こうで賊を斬りまくってた人斬りだったんだけどねー」
おいおいこいつやることやってんなあ…
いや、賊退治ならセーフか?
「ある日斬った賊が賊に扮した幕府…ああ、幕府ってのは蓬莱帝国の政府機関ね。そこの諜報機関の人間だったんだ」
あー、話が見えてきた…
「そいつらを斬り殺しちゃったもんだから人相書き付きで指名手配されちゃって、面倒くさくなっちゃったから船を盗んで渡ってきたんだよねー」
お、おお…凄いなこいつ…
船の知識もなさそうなのに船でこっちの大陸に渡りきるとかどんな豪運だよ…
「そ、そうか…何ていうか…よく生きてたな」
「それね!自分でもそう思うよー!」
スズカはケラケラ笑いながら答える。
能天気な奴だ。
「ひ、人斬り?」
御者の行商人の人が顔を強張ってるのが背中からでも伝わってくる。
やばい、怯えさせちゃったか?
「大丈夫だ。人斬りでも、こいつは悪党か強い奴しか斬らないんだってよ。だから安心しな」
「そうそう!だから盗賊が出ても大丈夫だよー!人斬るのは慣れてるからねー!」
それは安心させてるつもりなのか?
…まあいいか。
◇
そうして、何気ない会話を交わしながら馬車に揺られていると…
近くの物陰に気配を感じた。
魔人化しないよう抑えながら左目に力を込める。
進行方向の街道脇の木の陰から漏れ出る複数の魔力…
5人だな。
「馬車止めてくれ。多分盗賊がいる」
「ひ、ひぃぃ!」
行商人は怯えながら急いで手綱を引く。
すると、馬が嘶きながら足を止める。
「どうする?二人で出る?」
スズカが真面目な表情に変えて問いかけてくる。
「二人で出るまでもねえよ。ついでだ、この状態でも戦えることを証明してやる」
そう言って俺は馬車の脇から飛び降りる。
そして、マジックバッグからゴブリンキングから奪った片刃の剣を取り出す。
「おい、隠れてるのはわかってるんだ。さっさと出てこい」
そう言うと、人間が物陰からぞろぞろ出てくる。
「おいおい、一人で俺たちを相手しようってか?」
「お!女も乗ってるぞ!どうせならそいつがよかったんだがなあ」
賊たちは舌なめずりしながら言う。
「呼んだ?」
「呼んでねえ!おとなしくしてろ!」
…こいつ、ボケなきゃ死ぬ病気か何かなのか?
「…コホン。お前らごとき俺一人で十分だ」
「…舐めやがって!」
一斉に各々の武器で襲い掛かってくる。
…過剰かもしれないが、使うか。
怒りの感情を胸の内から引き出し、制御する。
半魔人状態。
そして…試してみるか。
遺跡での戦いで見たスズカの足さばきを再現する。
足に力を溜めて…一気に蹴る!
その瞬間、目の前の景色が変わる。
目の前には、賊が一人。
一閃。
そして、賊の身体が上下に分かたれる。
…やばい、やりすぎた。
まあいい、とりあえず、1人目。
「はぁ!?なんだそりゃ!」
「こいつ、やべえぞ!」
「一気にかかるぞ!」
賊たちが一斉に俺に襲い掛かる。
さて、力を適度に抑えて…と。
適当に力を抜いて一人ずつ切り伏せる。
横薙ぎ。2人目。
袈裟切り。3人目。
逆袈裟。4人目。
そして…
物陰から繰り出されるナイフによる攻撃。
それを受け流して…斬る。5人目。
…制圧完了。
「ほら、できただろ?」
俺はそう後ろにいる二人に向けて振り向きながら言った。




