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デモンズ・リベレーション~俺は転生して魔人となり、くそったれな世界に叛逆する~  作者: 宇月ナギ


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21話 鋼の巨人

 巨大な影へ向かって、俺とスズカは同時に踏み込んだ。


 最初に動いたのはスズカだった。


 床を蹴った瞬間、その姿がぶれる。


 いや、速すぎて視界が追いつかないだけだ。


「いくよっ!」

 楽しそうな声。


 そのくせ、放たれた斬撃には一切の迷いがない。


 打刀が走る。

 次の瞬間、刃に黒い炎がまとわりついた。


 ただ燃えているわけじゃない。

 黒炎は刃に細く張り付き、揺らめきながらもまるで実体を持つようにそこにあった。


「はぁっ!」


 一閃。


 甲高い金属音とともに、ゴーレムの脚部装甲に黒炎の軌跡が走る。


 斬れた、とまではいかない。


 だが、表面が灼ける。


 焼けただれたように赤熱し、厚い装甲の上に一本の“傷”が刻まれた。


「おっ、焼ける焼ける!」


 スズカがうれしそうに笑う。


 その笑顔は無邪気そのものだ。


 なのに、やっていることは完全に怪物のそれだった。


 ……凄い威力だ。


 効いている。


 なら、勝ち筋はある。


 ゴーレムが鈍重な咆哮のような軋みを響かせ、腕を振り上げた。


 壊れた銃を鈍器のように握り込み、そのままスズカ目掛けて叩きつける。


「っと!」


 スズカは軽く横へ跳んでかわす。


 砕けた石片が飛び散り、遅れて衝撃が足元から伝わってきた。


 あれをまともに食らえば終わる。


 だが、厄介なのはそれだけじゃなかった。


 ゴーレムの胸部…淡く光るコアの周囲に、魔力の流れが集まっていくのが見えた。


 まさか、魔術か!


「スズカ! 一旦下がれ!」


「はーい!」


 返事は軽い。


 だが動きは速い。


 スズカが後退した次の瞬間、ゴーレムの胸部から青白い光が解き放たれた。


 直線ではない。


 弾けるように広がる、散弾めいた魔力の奔流。


 壁も床も巻き込みながら、通路の一帯を薙ぎ払う。


 だめだ、これだと避けきれない。


 魔力量からして当たったらアウトだ!


 だったら……


「いちかバチかだ!」


 大丈夫、できるはずだ!


 地を蹴る。


 踏み込みながら、肥大化した左腕を前に突き出す。


 魔力の奔流が掌にぶつかる。


 一瞬、衝撃で腕ごと持っていかれそうになる。


 だが次の瞬間、流れが変わった。


 ぶつかったはずの魔術が、左腕に吸い込まれていく。


 散弾めいた光は鉤爪に触れたところから崩れ、渦を巻くように呑み込まれて消えていった。


「……よし!できた!」


 消えた。


 完全に。


 左腕の奥へ流れ込んだ魔力が、熱を持って脈打つ。


 喰える。


 魔術は、俺の左腕で殺せる。


「えっ、そんなこともできるの!?」


 後ろでスズカが目を丸くする。


「便利だね、それ!」


「俺も今、再確認したところだ!」


 軽口を返しながら、俺は右腕を砲身から腕の形へ戻した。


 この距離で砲撃は効率が悪い。


 コアを狙うには角度が悪すぎる。


 それに、今は前に出た方がいい。


「スズカ、装甲を削れ!」


「おっけー!」


「俺が足を止める!」


「いいね、それ!」


 役割は決まった。


 俺は床へ魔力を叩き込む。


 無詠唱で土魔術を構築した。


 足元の石床が盛り上がる。


 ゴーレムの脚部を包み込むように石柱が生え、重い足を絡め取った。


 完全には止まらない。


 だが一瞬でいい。


 その一瞬が、あいつの剣には必要だ。


「もらった!」


 スズカが低く滑り込む。


 黒炎をまとった刀が、先ほど俺が破砕した関節部へと吸い込まれていく。


 黒炎の斬撃が、今度は明確に装甲を焼き切った。


 金属が悲鳴を上げるような音を立て、関節部の装甲が溶け崩れる。


「よしっ!」


 その開いた傷口へ、俺は突っ込んだ。


 左腕に魔力を集中する。


 今度は火属性。


 ただし、ただ燃やすんじゃない。


 圧縮する。


 極限まで、熱だけを左腕にまとわせる。


 鉤爪の表面が赤熱し、黒い異形の腕の隙間から灼けた光が漏れる。


 これで――溶かす!


 叩き込む。


 鉤爪が食い込んだ瞬間、内側の装甲がじゅう、と音を立てて溶けた。


 焼き切る。


 抉る。


 そして同時に――喰う。


「っ……!」


 流れ込んでくる。


 ゴーレム内部を巡っていた魔力が、傷口から左腕へと吸い上げられていく。


 ただの鉄の塊じゃない。


 こいつは魔力で動いている。


 なら、奪えばいい。


 ゴーレムの動きが、目に見えて鈍る。


 腕が止まる。


 脚の拘束を破ろうとしていた力が抜ける。


「効いてる効いてる!」


 スズカが楽しそうに叫び、さらに黒炎をまとった刀を振るう。


 装甲の継ぎ目がさらに剥がれる。


 胸部まで、あと少し。


 だが、ゴーレムも黙ってはいない。


 巨体を無理やり捻り、俺ごと押し潰すように身を傾けた。


「……っ!」


 離れるしかない。


 俺は左腕を引き抜いて跳ぶ。


 その直後、巨体が片膝をつき、床が砕けた。


「惜しいねー!」


 スズカが笑う。


 惜しい、じゃない。


 今のは危なかった。


 だが。


 見えた!


 胸部コアの位置。


 装甲の重なり。


 そこまでの導線。


 いける。


「スズカ!」


「なーに!」


「次で決める!」


 スズカが、にやっと笑った。


 さっきまでの可愛らしい軽さはそのままなのに、その目だけが

 獲物を前にした獣みたいに鋭くなる。


「やっと本番だね!」


 ゴーレムが再び立ち上がる。


 胸部のコアが強く光る。


 次の一撃を撃つつもりだ。


 だが、遅い。


「スズカ、上!」


「了解っ!」


 スズカが跳ぶ。


 壁を蹴り、崩れた肩部装甲へ一気に駆け上がる。


 黒炎をまとった刀が、コアの直上を守る装甲へ振り下ろされた。


 轟、と黒い火が走る。


 焼け、裂け、守りの層が開く。


「今だよ、カルラ!」


 俺は地を蹴った。


 右腕を足場に使うように壁へ突き立て、無理やり跳躍の軌道を上げる。


 巨体の胸元へ。


 開いた装甲の奥。


 脈動する光。


 ゴーレムコア。


「これで――終わりだ!」


 左腕を突き込む。


 鉤爪がコアに触れた瞬間、抵抗するように眩い光が弾けた。


 だがもう遅い。


 喰う。


 喰らう。


 削り取るんじゃない。


 核そのものを、左腕の奥へ引きずり込む。


 ゴーレムコアが悲鳴のような高音を発した。


 青白い光が乱れ、脈動が狂う。


 そして――


 消えた。


 完全に。


 俺の左腕の中へ、呑み込まれる。


 次の瞬間、巨体から力が抜けた。


 ゴーレムの全身が軋み、膝から崩れ落ちる。


 胸部の光は、もうない。


 遺跡全体に響く重低音のあと、すべてが静かになった。


 沈黙。


「……終わった?」


 スズカが肩の上から軽く飛び降りて、俺の隣に着地した。


「――ああ」


 短く答える。


 左腕の奥に、まだ脈打つような熱が残っている。


 コアを喰った。


 さっきのダンジョンコアほどではないが、明らかに質の違う魔力だった。


 スズカが壊れた巨体を見上げ、それから俺の左腕を見る。


「やっぱりさー」


 にこっと笑う。


「それ、めちゃくちゃ面白いね」


「……褒め言葉として受け取っておく」


「うん、褒めてるよ?」


 あっさり返された。


 本当に、こいつは気にしないらしい。


 だが、その気楽さが今は少しだけありがたかった。


 俺は崩れたゴーレムの向こうを見る。



 恐らく今のがダンジョンボスで、この奥は

 最深部だろう。


「……先に進むぞ」


「はーい!」


 軽い返事。


 それでも、今の戦いを経て

 少なくとも背中を預けるだけの価値はあると、そう思った。

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