18話 2人の魔人
ダンジョンの入口は、森の奥にあった。
岩肌にぽっかりと空いた穴。
中は闇。
……浅い、とは思えないな
空気が重い。
ダンジョンのはずだが、何やら嫌な気配がある。
「じゃ、行こっか!」
横でスズカが軽く言う。
「待て」
「えー、また?」
「中に入ったら勝手な行動はするな」
「はいはい」
適当な返事。
……本当に人の話聞かないなコイツ。
ため息を一つ。
そのまま踏み込んだ。
◇
内部は、思った以上に暗かった。
湿った空気。
それに岩壁。
数歩進んだ時、少し異様な気配を感じた。
次の瞬間。
影が飛び出す。
ゴブリンだ。
しかし、その体色は俺の知るゴブリンより
どす黒い色をしていた。
本に書いてあった。
恐らく、ダンジョン固有種だ。
「任せて!」
スズカが前に出る。
その動きが、変わる。
さっきまでの軽さが消える。
「はぁっ——!」
スズカは一歩踏み込んだ。
加速、そして……
視界から消える。
次の瞬間。
――ズバッ!!
一閃。
ゴブリンが、真っ二つに裂ける。
スズカは即座に血を振り払い、刀を鞘に納めていた。
「ふーん、弱いね」
淡々と。
つまらなそうに言う。
……こいつ、只者じゃない。
戦闘の質が違う。
躊躇がない。
迷いもない。
次の気配。
複数。
「来るよー!」
楽しそうに笑う。
ゴブリンのダンジョン固有種の群れだ。
すぐに前後左右を囲まれる。
…さすがにこのままじゃ厳しいか。
「カルラもやってみなよー」
「……言われなくてもな」
息を吐く。
……よし、やるか。
力を引き出す。
左腕が変異する。
肉が膨張し、
鉤爪が姿を現す。
右腕には黒い肉が集まり、
腕の形を取る。
歪な、仮初めの右腕。
スズカが目を見開いた。
「……なにそれ」
心底楽しそうに笑う。
「腕、ないはずじゃないの?」
「……この姿になると生えてくるんだよな」
短く答える。
次の瞬間。
「へぇ、じゃあ私も…」
スズカの額に、角が生える。
左右非対称。
歪な、けれど美しい形。
鬼のような印象だ。
空気が変わる。
音が消える。
圧だけが残る。
「少し本気でいくよ!」
その声は。
さっきまでと同じなのに。
“質”が違った。
踏み込む。
消える。
斬る。
肉が裂ける音。
遅れて、魔物の身体が崩れる。
さっきよりも速い!
理解する前に殺している。
カルラも動く。
左腕で捕らえる。
喰らう。
右腕が刃へと変化し、貫く。
戦闘が終わる。
静寂。
スズカが近づいてくる。
「ねぇ」
「なんだ?」
「それ、めちゃくちゃ変なんだけど」
笑いながら言う。
「見たことないよ、そんなの」
「……そうか?」
初めて。
違和感が生まれる。
「ま、いいや!」
すぐに切り替える。
「強ければ何でもいいし!」
そう言ってスズカは笑う。
軽い…本当に軽い。
……こいつは本当に深く考えないんだな。
アホの子なのか?
◇
さらに奥へ進む。
……おかしいな
生まれたてのダンジョンにしては——深すぎる。
この間攻略したダンジョンと記憶で比較する。
恐らく、あのダンジョンも生まれたてだ。
それと比較しても、明らかに深い。
そして。
足を止める。
「……見ろ」
壁。
岩じゃない。
加工されている。
「これ……石?」
スズカも近づく。
触れる。
「なんか模様ついてる」
刻まれた紋様。
魔力の痕跡。
……間違いない、人工物だ。
理解する。
「ここの部分はダンジョンによるものじゃない、遺跡だな」
スズカが楽しそうに笑う。
「へぇー、そういうのあるんだ」
本で見た知識が繋がる。
……古代魔法文明の遺跡。
それが飲み込まれた。
……なるほど、だから深いのか。
納得する。
同時に興味が湧く。
「……調べる」
自然と口に出ていた。
「いいねー!」
スズカが笑う。
「宝とかありそう!」
……目的がズレてる。
だが、正直わからなくはないな。
俺はスズカと共に一歩、踏み出した。
未知の遺跡へと。




