16話 同類発見
高い声。
軽い。
だが、妙に楽しそうだった。
「勝てたら一緒にのんであげるって言ったよね?」
ロビーの中央。
女は、にこにこと笑いながら立っている。
周囲には何人かの傭兵や冒険者。
「ふざけんな!
テメェの条件が面倒なんだよ!」
怒鳴っている男は、さっきから同じことを繰り返している。
「えー?だってぇ」
女は首を傾げる。
「弱い人とのんでもつまんないじゃん?」
一瞬。
空気が凍る。
……天然か?いや、違うな。
自覚して言ってるな、これ。
わざとだ。
「んだとコラァ!!」
男が踏み込む。
拳が振り上げられる。
だが——
その動きが、途中で止まる。
「そこまでにしとけ」
ヒルファだった。
間に入る。
片手に酒瓶。
もう片手で、男の腕を軽く押さえていた。
「朝から血の気多すぎだろ」
「ヒルファ、てめぇ関係ねぇだろ!」
「関係あるさ」
肩をすくめる。
「耳障りだ、理由はそれだけで十分だ」
男は舌打ちし、腕を振り払う。
だが、それ以上は踏み込まない。
「……チッ」
そのまま引き下がる。
周囲も、少しずつ散っていく。
「…なんだよ、つまんないの」
女が口を尖らせる。
「もうちょっとで戦えそうだったのに」
……なるほどね、そういう手合いか。
さっきの一瞬。
あの動き。
間違いなく、こいつは強い。
しかも。
……こいつは魔人だ。
確信している。
ヒルファも、女を見ていた。
目が細い。
「おい」
ヒルファが声をかける。
「そこの嬢ちゃん」
「ん?」
女がこちらを見る。
くりっとした目。
無防備な表情。
だが——
その奥に何かがある。
「なんか用ー?」
にこっと笑う。
無邪気だ。
……面倒なタイプだな。
俺は静かに判断する。
「酒なら別に一緒にのんでやってもいいけど?」
くすっと笑う。
「その代わり、ちゃんと勝ってよね?」
「誰もお前に勝とうとしてねぇよ」
ヒルファが即答する。
「こっちは別件だ」
そう言って。
一歩、踏み込む。
ヒルファは女との距離を詰める。
耳元に寄る。
「……魔人同士なら、動きやすいだろ?」
小声。
だが、はっきりと聞こえた。
女の表情が、止まる。
一拍。
そして笑った。
「へぇ?」
さっきまでとは違う笑み。
少しだけ。
鋭い。
「分かっちゃうんだ。すごいねー」
楽しそうに言う。
隠そうとしない。
俺は、そのやり取りを黙って見ていた。
……軽いな。
だが、同時に理解する。
こいつも、俺と同じだ。
隠している。
だが、完全には隠していない。
「で?」
女が腕を組む。
「つまり、なに?」
ヒルファがにやっと笑う。
「組めって話だよ」
「お前と、こいつ」
俺を指さす。
「へぇ?」
女が鋭い目で俺を見る。
じっと。
観察するように。
「……ふーん」
少しだけ首を傾げる。
「弱そうじゃない?」
一言。
……初対面なのに失礼な奴だなコイツ
だが、ほんの少しだけ思う。
こいつ……間違いなく強い。
「ま、いいよ」
軽く言った。
「面白そうだし!」
あっけないほど簡単に。
「よろしくねー?」
にこっと笑う。
完全に軽い。
カルラは、少しだけ沈黙してから口を開いた。
「……カルラ・ネメシスだ」
俺は渋々名乗る。
「スズカ・ムラサメ!」
即答だった、それに名前も日本っぽい。
こうも日本っぽい奴がいるなら
過去に俺みたいな元日本人が作った国があるのかもしれない。
「へぇ、お前さんカルラっていうのか。」
ヒルファがぼそりと言う。
…そういえば名乗ってなかったな。
毛色が違うとはいえレイジア教関係者に
あまり知られたくないんだけどな。
「安心しろって、黙っとくよ」
俺の表情を見て察したのか付け加えてきた。
ヒルファは満足そうに笑う。
「決まりだな」
「ちなみに俺は入らねぇぞ」
あっさり言う。
「俺も一応は神官だからな、冒険者じゃねぇ」
「えー、冷たーい」
スズカが不満そうに言う。
「まあ、酒は付き合うが」
酒瓶を揺らす。
「それで十分だろ」
同類。
強さ。
情報。
こいつと組むのも悪くない。
そう判断した。




