14話 不良神官
「お前、魔人だな?」
その言葉が落ちた瞬間。
空気が、変わった。
自分の顔がこわばっていることを
認識する。
……バレた、何故わかった?
思考が一瞬で加速する。
距離。
周囲の人間。
門からの位置。
ここで戦うのはまずい。
無関係な人まで巻き込みかねない。
即座に判断する。
半魔人化。
一瞬だけでもいい。
抜ける。
意識を切り替える。
——逃げるか。
しかし…
「安心しろ」
ヒルファの声が、それを止めた。
俺は動きを、わずかに止める。
「お前さんの正体については、俺の胸の内にしまっとく」
軽い口調。
だが——目は真剣だった。
「正直に言うとだな」
酒瓶を軽く揺らす。
「俺はレイジア教の教えなんざ、これっぽっちも信じてねぇ」
一瞬、言葉の意味を計りかねる。
……どういうことだ?
こいつ、何を考えている?
レイジア教。
あの連中。
家族を焼いた張本人。
その神官がレイジア教の教えを
“信じていない”だと?
「……本気で言ってるのか」
自然と、声が低くなる。
ヒルファは肩をすくめた。
「本気も何も、見りゃ分かるだろ」
酒を一口。
「祈れば救われる?
感情捨てれば幸せ?」
鼻で笑う。
「そんなもん、クソ喰らえだ」
言い切った。
迷いなく。
「そんなんで救われてりゃあ世界はとうの昔に
平和になってるだろうよ」
俺はその物言いに、思わず黙ってしまった。
……俺の直感は正しかったようだ。
こいつはレイジア教の“表の連中”とは違う。
「だから安心しろ」
ヒルファが続ける。
「お前さんが魔人でも、わざわざ騒ぎ立てる趣味はねぇ」
一瞬。
とはいえ…
俺の真実を知ってしまった奴を
信じていいものか…
だが。
……いったん様子を見るか。
逃げるのはこいつが真実を言いふらした後でも
遅くない。
すぐに結論を出す。
殺すには理由が足りない。
逃げるには情報が足りない。
「……何が目的だ」
短く問う。
ヒルファは、くつくつと笑った。
「別に大したもんじゃねぇよ」
酒瓶を揺らしながら。
「お前さんを突き出したら貸した金を回収できないだろうが」
軽い。
だが、同時に納得できる理由でもあった。
嘘を言っている気配もない。
「そもそも、突き出すつもりなら金を貸してまで
中に入れたりしねぇよ、門前で正体を言って終わりだ」
ヒルファは、なんてこともないように
言ってのけた。
なるほど、筋は通っている。
「……それとだな」
ヒルファが続ける。
「さっきの門前でのやり取りでもわかるだろ」
「今のお前、何もできねぇぞ」
言葉が刺さる。
「金なし」
「身分なし」
「ギルドカードなし」
一つずつ、突きつけるように。
「魔物とか魔獣を倒せても、証明できなきゃ意味がねぇ」
俺は黙るしかなかった。
否定できない。
「だからまず一つ、ギルドに登録しとけ」
ヒルファが指を立てる。
「ギルドに登録しておけば、冒険者や傭兵として
活動できる。それに、ギルドカードは身分証になるから町に堂々と入れるようになるぞ」
確かに、身分証は必要だ。
「それと、魔物とか魔獣の素材をギルドで売れるようになるから
金銭を得ることもできる」
確かに合理的だ。
今の自分に足りないもの。
それを埋める手段。
「……登録は簡単なのか?」
「簡単だな」
即答だった。
「登録だけなら試験もねえし、金も大してかからん」
酒をあおる。
「むしろやらねぇ理由がねぇ」
俺は少しだけ考えを巡らせる。
ギルドに入れば、金を稼ぐ手段が手に入る。
情報も集まる。
動きやすくなる。
そして——
レイジア教。
奴らを潰すためにも力を得る必要がある。
「……わかった、登録しよう」
短く答える。
「おう、素直で助かるね」
ヒルファは軽く笑う。
そして、くるりと背を向ける。
「ついて来い」
そのまま歩き出す。
「ギルド支部はそう遠くねぇ」
なるほど、支部があるということは
それなりに大きい組織のようだ。
ラノベにもよく出てくる組織だが
この世界でも似たようなものなのだろうか。
俺は一瞬だけ立ち止まり。
その背中を見る。
……信用はしない。
少なくとも今は。
だが、利用はさせてもらう。
そう決めて。
俺は——歩き出した。




