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実は、邪神でした。  作者: 夕陽 八雲


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第9話 トウキョウ

 王国の東側地方で最も栄えた都…

――『トウキョウ』。


 遥か昔…、王国が東と西に別れていた頃、東側の地方を治めていた『テンオウ』という王が存在していた。

王は自身を日の神の子孫と称し、そのテンオウが御座す場所…()()()()()()()という意味から『トウキョウ』という名が付いたと云われている。

 トウキョウの町並みは、東側の地方で見られる傘を広く開いたような重厚感ある瓦屋根の建築物が建ち並び、人々が行き交う道には、枯れる事の無い桜並木が満開に花を咲かせて、ヒラヒラとその花弁を降らせている。

 東側の地方で最も栄えた場所だけあって桜の花弁が落ちた石畳の道路には、多くの馬車が通行しており、常に至る所が人で賑わっている。


 シスターの襲撃から明日みょうにち。ナカツクニ神の宮を出発した俺は、王都に戻るため、二人の同行者と一緒にトウキョウの駅を訪れていた。


「次に出発する列車に乗れば、昼過ぎには王都に到着できそうだ。」


 多くの人が往来する駅の切符売り場の近くに、大きく張り出された時刻表を確認する。


「そのようだな。ナカツクニ神の宮からずっと移動しっぱなしだったから、早めに列車に乗って休もう。」


 同行者の一人であるホノカがそう提案する。ナカツクニ神の宮からトウキョウまで、馬車を乗り継いで移動して少し疲れたので、その提案には賛成だ。


「そうですね。あっ、二人とも朝ごはんまだでしたよね?私、お弁当作って来たので、車内で食べましょう。」


 そしてもう一人の同行者、ナカツクニ神の宮本殿で俺とホノカをシスターから守ろうとしてくれた神ノ社の団員にして巫女である、

『コハル・ヒノモト』はそう言って、お弁当が入った手提げ袋を見せる。


「ありがとうございます、コハルさん。」


「いえいえ~。これくらい、お安いご用ですよ~。」


 セミロングの髪型で、ほんわかとした穏やかな雰囲気のコハルさんは、『王都中央高等魔法学校』の二年生であり、俺達の一つ上の先輩だ。

同じ学校の生徒なので、一緒に王都に行くことになった。


 現在同行者の二人は、神ノ社本部で見た袴姿ではなく私服姿。落ち着いた清楚な服装で、どちらも花が恥らう程の器量の持ち主であるため、たくさんの人が往来する駅では、すれ違う人々達が振り返り二度見していた。


「コハルさん、とても助かるぞ。実は私も、お腹がすいていて、何か食べたいと思っていたところだ。」


 ちなみ、学年ではホノカが後輩でコハルさんが先輩なのだが、神ノ社の中では団員の序列があり、序列的にはコハルさんよりホノカの方が上らしい。

それ故に、ホノカはコハルさんに対してタメ口で話すのだが、コハルさんは特に気にしてはいないようで、序列や学年関係なくホノカとは良き友人だという。


「お口に合うか自信はありませんが、お二人のために一生懸命作って来たので、遠慮なく召し上がってくださいね。」


「コハルさんの料理の腕はなかなかのものだ。本人は謙遜して言ってるが、味は期待していいぞ、トウヤ君。」


「ホノカの御墨付なら、きっと美味しいんだろうな。お弁当楽しみにしてますよ、コハルさん。」


「そ、そんな…ご期待に沿えられるかどうか…。」


 コハルさんは顔を赤くして、()()()()()()()のフレームを触る。


「そういえば、コハルさんって眼鏡かけるんですね。視力は低いんですか?」


 ふと疑問に思ったことを聞いてみる。昨夜シスター襲撃の際は、コハルさんは眼鏡をしていなかった。


「私も長く一緒にいるが、コハルさんが眼鏡をかけているのは初めて見たな。目は悪かったのか? 」


「いいえ、目は悪くないです。むしろ、視力は高い方で…」


 かけ慣れていないからか、フレームの枠を軽く指先で押して位置を調整するコハルさん。


「大宮司様から頂いたんです。なんでも、『認識阻害の魔法』がかかった眼鏡らしくて。私、昨夜来たシスターに顔を見られているので、もし王都であのシスターに出くわしても、相手に私だとわからないように付けなさいって。」


 認識阻害の魔法。コハルさんの眼鏡には、ある対象に対して自分の存在を正しく認識させない効力があるらしい。その効力はあの斧槍使いのシスターに限定されているため、他の人はコハルさんを正しく認識できるという。


「すみません…。俺を匿ったばかりに昨日は危ない目に合わせた上、そんな変装をさせてしまって …」


「気にしないでください。私は、神ノ社の団員の一人としてやるべきことをやってるだけですから。」


 神ノ社の団員としてやるべきこと…。それは、邪神ベルゼファールの生まれ変わりである俺を守る事だという。



 ――昨日の事。


 ナカツクニ神の宮の本殿で、大宮司は神ノ社が俺を守る理由を明かしてくれた。


「神ノ社が君を教会から守る理由…。それはね、ベルゼファールが死ぬと古の時代に人々が封印した悪い神様達が復活してしまうからだよ。」


「古の時代に封印した悪い神様…?」


「神ノ社に大昔から受け継がれてきた古文書によると…、かつてまだ人間と神様が共存していた頃、邪神の他にも人間に災いを為す神々がいたらしくてね。その神々は神ノ社の元となったと言われる『封印魔法』を創り出した人間達によって封印されたんだ。」


「それと邪神がどう関係するんですか?」


「どうやら…、人間達はベルゼファールの神気の一部をもらい、悪い神様を封印したらしいんだ。」


「え…邪神の神気を!?」


 それって…人間を滅ぼそうとしていたはずの邪神が人間に力を貸したっていうことなのか?


「どうやってベルゼファールの力をもらって使ったのかは古文書には書かれていなくてね。ベルゼファールの気まぐれか、それともベルゼファールと悪い神様達が敵対していたから力を貸してくれたのか…。とにかく、ベルゼファールの生まれ変わりである君が死ぬと、封印を保っている神気が消え、悪い神様が出てきて世界が困る事になるわけだ。」


「……………」


 邪神 ベルゼファールの神気によって封印された古の神々。俺が死ぬことで邪神の神気は消えてその封印が解かれ、新たな脅威がこの世界に降りかかる。


「一度は地獄の底まで落とされたというベルゼファールは、実際には死んだわけではない。この世界で人間として召喚された現在の君は、神としては非力な存在だ。そんな君がこの世界で生きるにはいろいろと苦労するだろう。なので、私達は君を守る。悪い神様たちが復活して、世界が滅びないためにもね。 」


「世界が滅びないために、かつて世界を滅ぼそうとした邪神を守る…。なんだか、矛盾した話のようですね。」


「ははは、そうだね。でもね…、他の悪い神様は知らないけど、そいつらよりは、きっと君は善い神様だと私は思うよ。」


 そう言って、大宮司はニッと笑いかけた。



 ――そして現在。


「それにトウヤさん」


 コハルさんが朗らかに微笑む。


「トウヤさんは私の学校の後輩です。神ノ社の使命とは関係なく、危ない目に会っている後輩を助けるのは先輩として当然のことです。」


「コハルさん…」


「変装するのも悪くありませんよ?これはこれで、なんだかドキドキします♪」


 コハルさんはそう言って眼鏡の両端を両手の指先で触れ、ニコっと笑顔を向けてくる。


「トウヤさん。これからは、私もホノカさんと一緒にトウヤさんをお守りしますので、よろしくお願いしますね。」


「…はい。こちらこそ、よろしくお願いします。コハルさん。」


「私に遠慮とかせず、困ったことがあったら何でも言ってくださいね。」


 コハルさんはほんわかとしている人かと思ったいたが、それだけでなく、人の心を和ませてくれる。そんな雰囲気を纏っているような気がした。


(まるで、太陽の陽だまりような人だな…。 )


 俺はそんなことを思いつつ、初めて頼りになる先輩が出来たことを嬉しく思うのであった。



 三人で込み合う駅を歩き、俺達が乗る列車が停車しているホームに向かう。


 その途中、


「えっと…、困りましたね…」


「…ん?」


 辺りをキョロキョロと見渡している人を見つける。大きな四角い鞄を両手に持ち、頭には広いつばの帽子を被ったワンピース姿の女性。後ろ姿で顔は見えないが、困っているのはわかる。


(…あの人、迷子かな。)


 トウキョウの駅は建物自体が大きく内部の通路も複雑だ。

理由としては、王国のあらゆる場所へと続く路線を引いているので、停車する列車の数が多いからである。そのため建物の至る所にホームがあり、そこまでの経路が複数に別れて、建物内の通路が入り組んでいる。

 東側の地方に住んでいる人であればある程度、感覚で目的のホームに辿り着くのだが、王都や王国の西側の地方から来た人は、この駅でよく迷子になるらしい。

 見たところ立ち尽くしているあの人は、自分の乗る列車のホームがどこか分からないのだろう。


「どうしよう…。このままじゃ、列車の出発の時間に間に合わなくなってしまう…。」


「あの…」


 困っている人を見過ごすわけにもいかず、近づいてその後ろ姿に声をかける。


「よろしければ、案内しますよ?」


「え…?」


 俺の声に反応して、その人が振り返る。


「え…、あれ!?」


 振り返ったその人の顔を見て、驚く。


「君は…」


「…?」


 驚く俺に対し、小首をかしげる女性。

 その女性は、王都中央高等魔法学校の図書館の窓から見た、あの美女であった。


「えっと…、どこかでお会いしたことありましたっけ?」


「あ、いや…。実は俺、王都中央高等魔法学校の生徒なんだけど、君の事見たことあったから…」


「あっ…同じ学校の生徒だったんですね。」


「どうした?トウヤ君。」


「いきなりいなくなったので、びっくりしましたよ~。」


 途中で俺がいなくなったことに気づいたホノカとコハルさんがこちらに来る。


「おや、君は…」


 ホノカも、この女性に見覚えがあるらしい。


「あ、確か他のクラスの…イヅモさん?奇遇ですね。」


「君の方こそ、まさかここで会うとは思わなかったぞ。」


「あの…ホノカさん。こちらの美人さんは?」


 会ったことが無いコハルさんが、女性をちらちら見ながらホノカに聞く。


「この子は私達と同じ魔法学校に通う生徒で、名前は確か…」


 顔は知っているが親しいわけでは無いらしく、ホノカは自己紹介を促すように女性を見る。


「あっ、はい…。イヅモさんとも、話すのは初めてですよね。」


 女性は被っていた帽子を取ると、ブロンドの髪が風に吹かれて靡き、麗しく輝いた。


「私は王都中央高等魔法学校一年生、『アイシア・ヘヴンゲート』と申します。」



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