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実は、邪神でした。  作者: 夕陽 八雲


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第10話 列車(一般車両)

 王都へと向かう列車が、トウキョウの駅を出発する。

 列車は八両編成で、前から五両が一般客用の『一般車両』、それより後方三両は特別な家柄を持つ貴族等の上級階級者用の『特別車両』となっている。

 上級階級者用の車両へと入っていく扉の前には、一般車両の乗客が入らないように、屈強な警備兵が常に見張りに立っている。


 そんな身分でしっかり区切られている王都行きの列車。その一般車両に、俺はナカツクニ神の宮からの同行者二人と、さらに駅で会った一人と一緒に乗っていた。


 桜舞うトウキョウの景色が流れる車窓を横にして、俺とホノカ、向かい合わせになった前の席にコハルさんとアイシア・ヘヴンゲートさんが座っている。


「先ほどは、本当にありがとうございました。」


 ヘヴンゲートさんはそう言って、俺に頭を下げる。


「私、東側の地方は初めてで…。あの場で声をかけて頂けなかったら、私はあのまま迷子になって、列車の出発の時間には間に合わなかったでしょう。本当に、助かりました。」


「いや、礼を言われるほどのことじゃないよ。俺はただ、困ってる人を放っておくわけにはいかなかったから、声をかけただけだ。 」


 俺がそう言うと、ヘヴンゲートさんは手を合わせて目を輝かせる。


「素晴らしい!」


「え?」


「困っている人を見たら手を差し伸べることを、当たり前だと思うその清き精神、そしてその高潔な考えに従う行動力。ヘルフィールド君、まだお若いのに立派です!」


「お若いって…」


 …君、俺と同級生でしょ?


「初めてと言っていたが、何故東側の地方に?」


「ええっと…、少し用事があったので」


 ホノカの質問に、ヘヴンゲートさんは歯切れの悪い返事をする。


「そうなのか?」


「…はい。大事な用事でした。」


 そう言って複雑そうな表情をするヘヴンゲートさん。

 車窓からそよ風が流れ、彼女のブロンドの髪が揺れる。


(…………)


 彼女が一瞬見せた物憂げな顔と相まって、その瞬間がまるで絵画の様に見えて、一瞬見惚れてしまった。


「……………」


 他人には言えない用事なのか、それ以上は話そうとしないヘヴンゲートさん。

 何か悩んでいる様であったが、表情を切り替えて微笑む。


「三人は、王国の東側の出身でしょうか?」


「え、ああ。そうだね。」


 地元は違うが、ホノカとコハルさんも王国の東側の地方出身と聞いている。


「休日を利用しての里帰りですか?」


「まあ…そんなところかな。久しぶりに実家に帰ったよ。」


 そこでまさか、自分が邪神の生まれ変わりと聞かされたり、邪神を崇拝する宗教団体に襲撃されたりするとは思わなかったけど。


「私も、そんなところだ。」


「私も~。」


 神ノ社の団員であることは、あまり他の人には言わないようにしているのだろうか。ホノカとコハルさんが、俺と同じく家族に会いに行ったていにする。


 本当は、俺の邪神の力が覚醒する日と暁の福音がヨミノ町を襲撃する事を、()()から知らされた大宮司様に急遽呼ばれたらしい。


「ヘヴンゲートさんは、見たところ西側の人の様だが、ご実家は西側の地方なのか?」


 王国の東側の地方と西側の地方の人では、微妙に顔付きや目の色が違う。ヘヴンゲートさんの容姿を見て、西側の出身者だと思ったホノカが質問する。


「私は生まれは西側の地方ですが、育ちは王都です。でも、母だけが西側の地方に住んでいるので、ときどき西側の地方に行くことはあります。」


 にこやかに、落ち着いた声音で話すヘヴンゲートさん。


「皆さん、西側の地方には行った事はありますか?」


「俺は、まだ無いかな。」


「ん、私もないな。」


「いつかは、行きたいと思っているんですけどね~」


「というか俺、王都も進学して初めて行ったから、東側の地方以外のことは、実はそんなに知らないや。」


 家族で旅行した記憶もない。今にして思えば、俺が教会や暁の福音の団員の様な者に狙われないよう、父が配慮していたからだろう。


「そうなんですね。それでしたら…」


 西側の地方に行った事が無く、王都にも詳しくないという俺達に、ヘヴンゲートさんが西側の地方について、丁寧にいろいろ教えてくれた。

 人に教え聞かせる様な話し方で、すごく分かりやすい。普段から人に何かを教えたり伝えたりする事に慣れているようだ。


「それにしても、ヘヴンゲートさん美人で話し方が丁寧というかお淑やかで、所作もなんだか品があって…、王都の人って感じがしますよね~。」


 コハルさんがそう言うと、ヘヴンゲートさんは少し顔を赤らめる。


「そ、そんなことありませんよ。ただ、子供の頃から家族に礼節を厳しく叩き込まれたので…。特にお爺様からは、常に品行方正であれと言われてきましたから。」


「へ~、厳しいお家なのね~。」


「なるほど。ヘヴンゲートさんから漂う貴族顔負けの品行方正な雰囲気は、ご家族の厳しい教えのおかげなのだな。」


 ヘヴンゲートさんの話を聞いて、ホノカが感心する。


「貴族顔負けなんて、そんな大げさな…」


 両掌を振って照れるヘヴンゲートさん。

 トウキョウの駅ですれ違う人達が二度見する程の器量を持つホノカとコハルさんを、花も恥じらう程の美人だと例えたが、ヘヴンゲートさんの場合、彼女が顔を赤くして照れる様子は、どちらかというと『花が恥ずかしがっている』ようだ。


 今思えば、人が込み合い行き交うトウキョウの駅で立ち尽くす彼女を見つけることが出来たのはおそらく偶然ではなく、彼女が纏う品位に俺の目が奪われたからだろう。

 佇むヘヴンゲートさんを見つけた時は、一輪の花を見つけたのかと思ったものだ。それ程、彼女は美しく見える。


(学校の図書館の窓から見た時も思ったが、やはり綺麗な人だな…)


 そんなことを思っていると、横から脇腹を肘で小突かれた。


「いてっ…、え?」


 横を見ると、隣に座っているホノカがジト目で俺を見ていた。


「えっと、何?」


「…いいや。ヘヴンゲートさんをジーッと見て呆けているようだから、起こしてやっただけだ。」


 学校の図書館で初めて会った時にも思ったが、やはりきつめの美人であるホノカは、不機嫌そうにそう言ってくる。

 コハルさんはそれを見て、「あら…」と言って様子を伺う。


「べ、別に呆けていないぞ!?」


「ふん、どうだか…。美人なヘヴンゲートさんを前にして鼻の下が伸びているぞ。」


「伸びてないって!」


 確かにヘヴンゲートさんに少し見惚れていたかもしれんが、鼻の下をのばしてはいない…はず。


「まったく…。恥ずかしい鼻だぞ、トウヤ君。」


「恥ずかしい鼻!?」


「…ふふっ。」


 鼻が恥ずかしいと言われた俺を、花が恥じらうヘヴンゲートさんが小さく笑う。


「ヘヴンゲートさんまで、笑わなくても…」


「いいえ。なんだか、仲が良さそうだな~って、思いまして。」


「え…」


 小突かれて、小バカにされた今のやり取りのどこを見てそう思ったの?


「あらあら~…ふふ」


 コハルさんは、不機嫌そうなホノカを見てなんだか面白そうに笑っている。


「む…、なんだコハルさん。そのニヤけた顔は? 」


「いえいえ~。別に何でもないですよ?」


「それにしても…、噂に聞いていたのと違って、ヘルフィールド君は親しみやすい人だったんですね。 」


「俺の噂?」


 なんだ、俺の噂って…?


「ああ…、あれか。」


 どうやら、ホノカも知っているらしい。


「ヘルフィールド君がその…えっと」


「君が、『図書館の地縛霊』と言われている事だ 。」


 言いにくそうにするヘヴンゲートさんに代わり、ホノカが言う。


「図書館の地縛霊!?」


 何だ、それは!?邪神の次は地縛霊か。


「君は毎日放課後、一人で図書館に込もって勉強しているだろう?それで付いたあだ名だ。」


 正確に言うと、図書館のガリ勉地縛霊らしい。


「勉強してただけでなのに、なんで地縛霊なんてあだ名が付くんだ?」


「毎日同じ場所で、暗くなる閉館の時間まで居付いているからではないか?図書館の事務員さんよりも見た顔とまで言われているぞ。 」


 そんなに人に見られていたのか…。


「とても不愛想で、勉強中ぶつぶつ独り言呟いたり、唸ったり、突然ニヤけたりして、怖いって聞きました。…そうなんですか?ヘルフィールド君。」


「…トウヤ君、不気味だぞ。」


「なるほど。それで、地縛霊なんですね~。 」


「うっ…」


 そう言われると…心当たりがありすぎる。


 王都中央高等魔法学校に入学出来たはいいが、名門校だけあって授業内容のレベルがとんでもなく高い。その上、生徒全員が優秀だ。

 聖騎士を目指すどころか卒業できるのかも不安になった俺は、なんとか授業や他の生徒達に置いてかれまいと、友達を作って遊んだりもせず、毎日放課後は図書館に籠って勉強をしていた。

 どうやら、噂になるほど変に目立っていたらしい。


(確かに…他の生徒とはろくに話もせず、勉強中は教科書の内容を暗記しようとブツブツ読んだり、分からない問題には頭を抱えて唸ったり、散々悩んだ末に問題を解いたら嬉しくてニヤけたりしてたかもしれない…)


 ホノカの言う通り、傍から見れば不気味だ。だけど、いくら何でも地縛霊は酷くないかな…。

 ただでさえ邪神関係でひどい目に遭ってるというのに、学校では地縛霊なんて呼ばれていたとは 。…ちょっと、ショック。


「はあ~…」


 若干落ち込む俺に、ヘヴンゲートさんは優しい眼差し向ける。


「先程も言いましたが、噂と違ってヘルフィールド君は親しみやすくて…とても優しい善い人だと思います。駅で困っていた私に声をかけてくれた時もそうですが、こうして実際にお話していると、あなたの人の善さがとても伝わります。」


「そ、そうかな?」


 俺は大したことをしたつもりは無いのだが。


「はい。うまく言えませんが…私は、あなたが善人であると確信してます。きっと、他の方達にもそれが伝わると思いますよ。」


「ヘヴンゲートさん…」


 優しさで包み込むような微笑みと綺麗な声音でそう言われ、俺の中で沈んだ気持ちが晴れやかになっていく。


「そうですよ~。トウヤ君は良い人です。昨日、私の事を守ってくれていましたし。」


 コハルさんがヘヴンゲートさんに同意するように頷く。


「まあ、噂なんて気にするな。トウヤ君が良い人だという事は、私達がよく知っているし、私が保証する。」


 ホノカが柔なかな笑みで真っすぐに俺を見て、そう言ってくれる。


「えっと…その、ありがとう」


 同い年の人達からこんな風に言われたことが無い俺は、どう返事すればいいのかわからず、礼を言ってしまう。

 照れくささに頬をかいていると、通路の奥の方から話声が聞こえる。


「お嬢様、そんな勝手に出歩いていては警備の方々が心配します。それに、王族…上級貴族が一般車両に入るのは、あまりよろしくないかと 」


「そんなことはありませんわ!平民が特別車両に無断で乗るのはいけませんが、貴族が一般車両を訪問するのは、なんの問題もありませんわ!」


「しかし、一般車両のお客様たちに迷惑では…」


「この私が迷惑者とでも言いたいんですの?いいですか、貴族たるもの、平民たちの暮らしを見て、知る義務がありますの。そのためには私達が平民達の所に直接出向いて、平民たちと同じ場所でコミュニケーションを取らなくてはなりませんわ! 」


「はあ…左様ですか」


「そうですわよ!オホホホホ。」


 なんだか元気溌剌な声とあまり乗り気でない声が、こちらに近づいて来る。


「…この席がよろしいですわ。」


 カッとハイヒールの底を鳴らし、高価そうなドレス姿の若い女性が俺達の席の前で止まる。

 一目で貴族であるとわかるその人の後ろには、付き人らしき、落ち着いた服装の若い女性が控える。


『………………』


 突然現れた人物に唖然とする俺達を他所に、貴族の女性は「ふふ~ん」とドヤ顔で俺達を品定めする様に見ると、手に持っていた扇子をバッと開いた。


『……ッ!?』


 扇子の表面に小さく描かれた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を目にして 、俺達は息を飲む。


(あの紋章は…!)


「苦しゅうないですわ。」


 ()()()()()が小さく描かれた扇子で自分をパタパタと扇ぎながら、女性は俺達を指さして言う。


「平民たちよ、喜びなさい。この私、『シャーロット・デュ・シルフィード』があなた達平民とお話をするために、直々に参りましたわ!」




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