表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
実は、邪神でした。  作者: 夕陽 八雲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/20

第19話 剣客

 その名に「光の地」という意味を持つ『ルークスティア王国』。

 そんな王国の中でも異質で、他から忘れられ、全てから取り残されたかのように、光を失った場所がある。それが王都から外れ、遠く離れたスラムの町…『名も無き町』。

 その町は、王国の各地から追われた者、大罪を犯して流刑となった者やお尋ね者となった、つまるところ日の当たる場所を歩くことが出来ない者達が最終的に行き着く場所である。


 王国から存在を否定された者達の掃き溜めとも云われる『名も無き町』。そこの住人達は、自分達の存在を否定する王国を恨み、相容れない自分達を取り残していく世界と人々に憎悪を抱きながら過ごし、いつの日か世界の全てを壊す機会を求めていた。

 そんな中、邪神を祀る宗教団体『暁の福音』が設立され、名も無き町の住人達は、世界の終焉こそが救いであり、世界を破滅に導くという()()の復活が自分達の祝福であるとして、王国への復讐と世界の破滅という宿願を果たす日を待ち望むのであった。


 ――そして、遂にその日を迎える。


『暁の福音』総勢666人の団員による大規模な暴動が開始された。

 魔法による建造物への破壊行為と、人々に無差別な攻撃をする暁の福音の団員達。東側の地方と西側の地方の特徴的な建物が入り混じりながらも、美しい景観を誇っていた王都の町並みが壊されていく。

 

「くっ、なんて数だ…。それに、強い。おい、聖騎士達はまだ来ないのか!?」


王都に配置された警備兵達が、暁の福音の団員達と応戦する。


「それが…各町で人が魔物に襲われている事件の調査で、ほとんどの聖騎士が出払っていまして…。王都に残っている聖騎士は、国王陛下の城と教会の防衛に当たっています。」


「王都が手薄になっている時に邪教徒の暴動が起きるとは、なんて間の悪い…!」


 歯軋りをする警備兵。その様子を見て、暁の福音の団員は細く笑む。


(間の悪いだと?馬鹿め、全ては我々の計画通りだ。)


 各町で起きている、人が魔物に襲われる事件…。しかしその事件に隠された真意は、暴動を起こすこの日まで王都から聖騎士達を遠ざけるための、暁の福音による陽動作戦であった。


 魔物使いが町中で魔物を召喚して事件を起こし、王都以外の場所に王国の上層部や教会の注意を向ける。貴族を狙った列車の襲撃事件から、王国の上層部や教会は、王国内に潜伏している暁の福音の団員達を探すことに躍起になっていた。魔物使いの仕業だと匂わす事件が起きれば無視することは出来ず、教会は聖騎士を動かすだろうと暁の福音は考えた。

 作戦は成功し、聖騎士だけでなく、国王の懐刀と云われるシルフィード家の者までもが王都を離れたことで、暁の福音の団員達は難なく王都に侵攻することが出来た。


「クク…。聖騎士達が戻ってくる前に、一気に王都を叩き潰すとしよう。」


 フードで頭を覆い隠した長いローブ姿の団員達が、各々の魔法を使用して空中に大きな魔法円を描く。


「あれは…!?」


『ザザス…ナスナタ…ザズズ―—』


 団員達が一斉に呪文を唱える。すると空中に描かれた複数の魔法円が光り出し、そこから空間を突き破るように魔物達が姿を現した。


『グルオオオオオーッ!!!』『キシャアアアアーッ!!!』『ブルアアアアアアー!!!』


 人型の魔物から巨大な怪物の魔物まで、様々な種族の魔物がいたる所で出現して雄叫びを上げる。

 大柄の人型の魔物が木の幹の様な剛腕を振るって警備兵達を払い飛ばし、翼竜型の魔物は飛び回りながら口から火球を吐き飛ばして建物を壊していく。


「「「うわあああー!」」」


 降注ぐ瓦礫に、人々が逃げ惑う。


「魔物の召喚…だと!?奴らの中に、魔物使いがいるのか!」


「なんてことだ…。暁の福音の団員に加えて、魔物まで出て来るなんて…」


 暴れ回る魔物とともに攻撃を仕掛けてくる暁の福音の団員達。

 暁の福音の団員達になんとか対処していた警備兵達であったが、増強した敵の戦力の大きさを目の当たりにして愕然とする。


「いったい…どうすればいいんだ…」


 絶望感で立ち尽くす警備兵達。魔物を引き連れた団員達がさらに勢いを付けて攻め込み、王都を蹂躙しようとする。


『グルオオオオオーッ!!!』『キシャアアアアーッ!!!』『ブルアアアアアアー!!!』


(く…、これまでか!)


 暁の福音の団員達とともに、何体もの大きな魔物達が進軍して来るのを目前に、死を覚悟する警備兵達。

 …だが、快活な笑い声とともに現れた人物が起こした凄まじい爆発によって、向かって来ていた死が弾けて消えた。



 ――『王都中央高等魔法学校』の校舎


 校内の至る所で放たれた魔法がぶつかり合い、校舎全体は戦場と化していた。校舎の各階で、王都中央高等魔法学校の職員と生徒達は、侵入してきた暁の福音の団員達と交戦していた。


「みんなー!決して一人にならず、常に近くの者とお互いの死角をカバーしながら、敵の攻撃に対処しろー!」


『はい、先生!』


「負傷者はすぐに下がれ!職員は生徒達のフォローしながら、侵入者を撃破して下さい!」


 教師達が指示を出し、生徒達はその指示に従いながら陣形を組んで団員達と戦っている。

 優秀な者が集まるという王都中央高等魔法学校。戦闘経験の浅い生徒達だが、教師達の的確な指示とフォローにより、その才能と実力を発揮していた。


「焦らず、授業で学んだ魔法戦闘方法を思い出すんだ!自分の魔法の特性を活かせ!」


『はい!』


「おのれぇ…、教師と学生風情めがぁ!」


「ここまで我ら暁の福音と渡り合うとは…!」


「さすがは、名門魔法学校の生徒達ということか…。」


 奇襲を仕掛けたはずが、予想以上の反撃に暁の福音の団員達が焦りを見せる。


「ならば、こちらも出し惜しみせず全力で行かせてもらおう!」


 徐々に押され始めたように見えた暁の福音の団員達だったが、各々の魔法を用いて、空中に魔法円を描く。


「…っ!まずい、皆下がれ!」


 教師の一人が叫んで、生徒達を魔法円から遠ざける。

 その間に暁の福音の団員達が呪文を唱えると、空中に描かれた魔法円から数体の魔物が出現した。


「召喚魔法か…!」


「こいつら、魔物使いかよ!?」


「ははっ!蹂躙してやるぞ、教師と生徒どもぉ!」


 数では有利だった教師と生徒だが、魔物の出現により形勢が傾き、さらに戦闘は激しくなる。



 ――校舎のとある階。


 教室の扉や壁が壊され、廊下に吹き抜けた有様になったこの階では……

 暁の福音の団員達により、豚の頭をした人型の魔物『オーク』が複数体召喚され、生徒達だけでその対処に追われていた。


『ブロオオオオオー!!』


「げっ、また魔物が召喚されたぞ!」


「え、ちょっ、二匹倒したばかりじゃん!もう嫌なんですけど!?」


 筋肉隆々の屈強な肉体を持つ三体のオークが、血走った目で生徒達を目掛けて走る。


『ブロオオオオオォーー!!』


「ひぃ!?」


「きゃあっ!」


「怯むな!魔法を撃ちまくれ!」


 生徒達は一斉に魔法を放って攻撃し、その進撃を止めようとする。


「ブロッ…」「ブ…ッ」


 生徒達の放った光線や炎が直撃し、二体のオークが倒れる。


「よし、やった――」


「ブロロロローー!!」


 しかし、他の個体よりもさらに屈強な肉体を持つ黒光りしたオークが、放たれた魔法をその分厚い筋肉で弾きながら生徒達の前まで辿り着くと、丸太の様な太い腕を振り回して数人の男子生徒達を薙ぎ払った。


「がはっ!」「ぐあ…っ!」


 壁へと叩きつけられる生徒達。直前で魔法の壁を出現させて防御をするが、オークの太い腕はそれらも壊していった。


『きゃあああああ』


 体の大きな魔物を目前に、恐怖で尻もちをついた女子生徒達が悲鳴を上げる。

 オークが太い腕を振り上げ、長く伸びた爪を立てて動けずにいる生徒達を切り裂こうとする。

 その前に、小太刀を持ったホノカが躍り出た。


「―はぁっ!」


 逆袈裟切りでオークの手首を下から斬り上げた後、続けて素早く膝関節を斬り付ける。


「ブロァ…ッッ!?」


 関節の腱を正確に斬られたオークの体がその場で崩れる。頭の位置が下がったところで、ホノカは小太刀を水平に振って、その首を斬った。


「ブ…ッ」


 あまりの剣技の速さにオークは何が起こったのか解らないまま、体中から鮮血を噴き出しながら倒れる。


「イ、イヅモ…――え!?」


 男子生徒が、ホノカが来た方向を見て驚く。そこには三体のオークの死体が転がっていた。


「二体だけでも数人がかりで苦労して倒したのに…イヅモ一人で、三体ものオークを倒したのかよ…」


『ホ、ホノカ様…』


「…さがっていろ。」


 唖然とするクラスメイトに短くそう言うと、ホノカは半身になり、小太刀を腰の前に引いた構えをする。

 その構えの先には空中に浮かんだ魔法円があり、その中から新たに屈強で黒光りした二体のオークが飛び出した。


『ブロロロロオォーー!!!』


 咆哮を上げるオーク達が同時に長い爪を立てて、太い腕を振り上げた。

 その瞬間を捉えたホノカが前に出る。


(身体強化魔法…「駿足」!)


 魔法により強化された脚でオーク達を擦り抜けながら、小太刀を振るう。


「ウロァア…ッ」「ウロォ…ッ」


 オーク達が振り上げた腕の下を、流れるような体捌きで擦り抜けながら、脇部分を斬り付ける。

 魔法攻撃を弾いたオークの屈強な肉体の中では、肉厚が柔らかい部分。人間同様に急所となり、斬られたところから血が大量に噴き出す。


『ブ…ロロ…ッ』


「…ん。」


 脇から止めどもなく血を流しながら倒れる二体のオークを背に、ホノカは血で濡れた小太刀を振って血振りをする。


『ホホホ…ホノカ様ー!』


「イヅモ、すげえー!」


「みんな、油断するな。まだ団員達を倒していない。」


 ホノカが通路の先にいる敵を見据える。ホノカの目線の先には、フードに長いローブを纏った三人の団員。三人の内、二人は魔法円を出現させており、先程ホノカが倒した魔物を使役していた魔物使いである。

 残る一人は、三人の真ん中に静かに立って、フードの奥からホノカを見ていた。


「…その娘さんの言う通りだ。まだ、喜ぶにはまだ早いぞ…若者たちよ。」


 真ん中の団員はそう言うと…、次の瞬間にはホノカの前まで間合いを詰めて、真っ向から斬りかかってきた。


「――っ!?」


 寸でのところで気づいたホノカは半歩進みつつ、小太刀で団員の攻撃を受け止める。


「我が不意打ちの真っ向斬りを、威力を半減させて防ぐか…。」


 団員の手には刀が握られている。長いローブから腰に付けた鞘が露出しており、団員が一瞬にして間合いを詰めながら抜刀して、刀を振り下ろしたことが窺える。


(この者…、強い!)


 ローブのフードから、白い顎髭と目を覆い隠す程の白い眉の男性が顔を表す。刃と刃の短い押し合いの後、団員は後ろに跳んで距離を取った。


「なかなかの腕だな、娘さんよ。王都の破滅という我らの宿願が叶うこの日に、お主ほどの武人と相まみえるとは何と運がいい。久々に、武人の血が騒ぐぞ…!」


 団員が刀を正眼に構え、白い眉から鷹の目の如き鋭い視線を放つ。 


「我が名は、ムサシ。小太刀の娘さんよ…いざ死合わん。」


(視線を向けられただけで身震いがするほどの闘気を感じる。それに一瞬で私の前まで来たあの身のこなし…。あのムサシという者、かなりの実力者だ。)


 ホノカは冷静に敵を分析しつつ、半身で体の内側に小太刀の刃を隠す様に構える。


「ぬうん…、一分も隙の無い佳い構えだ。まさに達人。では、いざ…」


 ホノカとムサシが僅かに腰を落とす。重心を落とした二人の剣客が床を蹴って、同時に前に出る。


 ムサシよりも速く懐に入ったホノカが、下から逆袈裟に斬りかかる。


「はあーっ!」


「ぬぅ…ん!」


 ムサシは腰に差した鞘を逆手に持ち上げて小太刀の刃を防ぐと、ホノカの頭を目掛けて片手で刀を振るい落とす。

 ホノカは素早く小太刀を頭上に(かざ)す。振るい落とされた刃を受け流すと、直ぐ様、横一文字にムサシの首へと斬り返す。

 しかし、ムサシはホノカの斬撃が首に到達する前に大きく一歩踏み出した。


「――っ!」


「ぬっ!」


 素早い体捌きで小太刀の刃圏の内に入ったムサシは、肩で体当たりをする様に刀の柄でホノカの腹を突く。


「かは…っ!?」


 カウンター気味に腹を突かれた衝撃が体を突き抜ける。腹部の痛みに、たたらを踏むホノカ。


「ぬ…。あの程度の攻撃で剣を止めるとは…、まだまだ未熟(若い)な。」


 ムサシが連続で斬りかかる。一息で振るった角度の違ういくつもの斬撃がホノカを襲う。


「くっ…!」


 痛みを堪えながら、ホノカは小太刀の刃でムサシの連撃を受け流し、捌いていく。

 たまらず間合いを離そうするホノカだが、その動きを読んだムサシが突きを放つ。


「ぬぅんっ!」


 直線的な鋭い突きが、鳩尾を狙う。ホノカは横に構えた小太刀の刃の腹で、その剣先を止めた。


「この突きを止めるか…。その歳で、我が剣に食らい付く程の水準。娘さんや、見事だ。 」


「はぁ…はぁ…」


 突きを止めたまま、息を整えようとするホノカの頬に汗が伝う。


(やはり強い。このムサシという男、おそらくあの斧槍のシスターと同じくらい…いや、それ以上の強さだ!)


 ムサシの剣先をホノカが横に構えた小太刀で止めたまま、二人の動きが止まる。

 お互いに相手の動きを窺おうとし、膠着状態になっていた。


(…っ!?この気配は!)


 ムサシに意識を向けつつ、ホノカは周囲に気配が増えたのを感じ取る。残りの二人の団員が、新たに複数体のオークを召喚していた。


「くそ、またオークを召喚しやがった!」


「やばい、来るぞ!」


「ブロロロロー!!」


 オークが二人の生徒を殴り飛ばす。生徒達は後方へと投げ出された様に廊下を転がった後、意識を失って横たわる。

 他の生徒が気絶した生徒を助けに行こうとする。しかし、反対側の通路からもオーク達が召喚され、生徒達はオークに挟まれた格好になってしまった。


『ブロロロロー!!』『ブロロロロー!!』


「うぅ…」


 左右の通路に魔物使いの団員二人とオーク達が立ち塞がり、生徒達が追い詰められていく。


(まずい状況だ…。だが助けに行こうにも、このムサシという達人は、ここで食い止めなければならない。)


 助けに行こうとして、僅かにでも隙を見せれば斬られる。ホノカはそれを確信していた。


「ぬぅ…娘さんよ。クラスメイト達の事は諦めるんじゃな。片手間で戦えるほど、このムサシは甘くないぞ。」


(くっ…、その通りだ。クラスメイト達を守りながら、相手できる簡単な敵ではない。どうすれば……)



「…豚さん達、邪魔。」

「そこを退いてもらおう。」



 反対側の通路で立ち塞がっていた二体のオークが突然、何かに打たれた衝撃でその重そうな体が跳ねて、天井にめり込んだ。


『——っ!!?』


(あの人たちは…)


 その場にいた者全員が驚き、オークを天井にめり込ませた人物達に注目する。


「我がオークをふっ飛ばすとは…。また厄介そうな生徒が来たか…」


「もうよい…。他の生徒もまとめて皆殺しだ。」


 二人の魔物使いが前に手を向けると、前方に複数の魔法円が現れ、そこから無数の光線が放たれた。

 通路を塞ぐほどの無数の光線の群れが、生徒達に向かって行く。光線によって撃ち抜かれて、ハチの巣になるのを覚悟する生徒達であったが……


「鏡魔法、『写し鏡』!」


 生徒達を守る様に大きな鏡が現れ、その鏡面に迫り来る光線の群れを写す。すると、鏡に写った光線が鏡面から飛び出し、団員が放った光線とぶつかって相殺し合った。


「な…に!?」


「これは…、他人の魔法を写し出す鏡魔法か…!」


 生徒達を皆殺しにするために放った無数の光線が全て打ち消され、二人の団員が驚愕する。


「コハルさん!」


「ホノカさん、助太刀に来ましたよ~!」


 団員達の魔法を打ち消した大きな鏡が消える。通路の反対側にはコハルと一緒に、二人の人物がいた。


「コハルちゃんの後輩ちゃん。君のクラスメイト達はボクたちが守るから、後輩ちゃんはそっちの強いおじ様を倒しちゃってよ。」


 円い眼鏡をかけ、制服の上着を肩にかけた女子生徒がひらひらと手を振る。


「ふん…。」


 その横には、銀色額縁の眼鏡をかけた生真面目そうな男子生徒。

 女子生徒の肩には『生徒会長』、男子生徒の肩には『副会長』と書かれた腕章が巻かれていた。


「生徒会長と副会長!?」


「ほら、一年生達。まだ戦闘中だよ?気を抜かないで。」


 ざわつくホノカのクラスメイト達。生徒会長の女子生徒は手を叩いて、叱咤する。


「ホノカさん、ここは私達に任せてください!」


「ありがとう、コハルさん…。助かったぞ。」


 ホノカの鋭い視線が、ムサシを真っすぐ捉える。

 クラスメイトを心配して周囲に気を配っていた目が、目の前の敵だけを映す。


「ぬう…実に佳い闘気だ。クラスメイト達への心配が無くなったことで、完全に意識を私に集中させたか。」


「決着をつけよう、ムサシ!」


「…望むところ。」


 膠着していた二人の刃が離れた刹那、再び刃と刃が幾度もぶつかり合う。

 互いに攻撃を出し、相手の斬撃を受け流し、体捌きで立ち位置を変え、壁を足場にして変則的な動きで虚を突くなど、廊下を縦横無尽に移動しながら刃を交える。

 そうこうして、とある教室へと入る二人。室内には人の形をした石膏像や、スタンドに立てかけられた絵画がある。


「ぬぅ…ははは!余計な者に気を捉われず、一人の敵に集中した娘さんの実力がこれほど高いとは。なかなか楽しめたぞ!」


(…ここなら、誰もいないな)


 ホノカの手から小太刀が消える。それを見て、怪訝な顔をするムサシ。


「いかがなされた…?娘さんよ。」


「ムサシとやら…。楽しんでいるところ悪いのだが、いつまでも貴様の相手をしているわけにはいかない。そろそろ終わらせてもらうぞ。」


 ホノカはそう言って、人差し指と中指を揃えて立てた手の型…刀印を作る。


「私には、守らなければならない…()がいるからな。」


 ホノカの前に、紅蓮の炎と共に一振りの刀が出現する。


「ぬう…っ!それは、もしや…」


 美しい緋色の鞘に納まった刀を見て、白い眉に隠れたムサシの目が大きく見開かれる。


(その昔、東側の地方を燃やし尽くそうとした魔物を斬り倒し、その炎を刃に取り込んだという伝説の名刀…『炎切り』!…ということは、この娘さんはもしや…)


「お主…名を何と言う?」


「…イヅモ・ホノカだ。」


「イヅモ!?…やはりか。お主は、かつて東側の地方を治めていた『テンオウ』を守護する一族、『イヅモ』の血を引く者だったか。」


 ムサシはそう納得すると、持っていた刀を捨てた。


「お主のような剣士と戦えるとは、つくづくなんという僥倖か!お主があのイヅモならば、全力で相手せねばなるまい。」


 ムサシが同じく二本の指を揃えて立てた刀印の型を作ると、その前に紫色の気配が漂う刀が出現した。


「先ほどまでの鈍らではなく、我が愛刀『鬼切り』で決着をつけようぞ。」


(『鬼切り』!?古き時代に、東側の地方で暴れていた鬼の魔物を斬って呪い殺したという…炎切りと並ぶ伝説の一振り。なぜ、暁の福音の団員が…?)


「貴様はいったい…」


「…私は元々国王の城を守る衛兵の幹部であった。だが、強者との死合いを求め、人を斬りすぎたため、王国を追放されてしまったのだ。」


 鬼切りは、衛兵だった頃に手に入れたのだという。

 ムサシが鬼切りを振って近くにあった石膏像を斬る。すると、石膏像は切り口から腐っていき、ポロポロと形が崩れた。


「この『鬼切り』に斬られたものは呪われ、腐り散る。少しの切り傷でも命取りとなるぞ 。」


「…そうか。ならば、斬られる前に貴様を倒すとしよう。」


 ホノカが刀を鞘から抜き、燃え盛る紅蓮の炎を纏った刃がその姿を表す。

 室内を高温にし、高熱の熱風を放つ炎切りにより、ムサシの顔に汗が流れる。


(強力な炎をその刃に宿した故、持ち主や周囲を燃やし尽くす危険がある扱いの難しい『炎切り』か…。なるほど、クラスメイト達が居たあの場所では、使えなかったわけか。 )


 ムサシがニヤリと笑う。これからが、互いの本領を発揮するのだと胸を躍らせる。


「…いざ」


「参る…」


 二人が間合いを詰め、火勢を上げて燃える炎の刃と不気味な気配を漂わせる呪いの刃を振るう。


「はああーーっ!!」


「ぬぅああーーっ!!」


 紅蓮色の一閃と紫色の一閃が幾度も交差し合う。

 伝説の名刀を手にした達人同士による、激しくも流麗で、高い次元の剣技の攻防が繰り広げられる。

 両者の刀が振るわれる度に、炎が広がって絵画が燃え散り、斬られて呪われた石膏像が崩れて灰となって散っていく。

 相手に一撃でも斬撃を当てれば勝負が決まる、一瞬の気も抜くことが出来ない緊張感で二人の集中力が極限にまで達する。


『……………ッッ』


 極限まで高まった集中力により、全ての音が消えた静謐な空間の中にいる様な意識状態で、二人は相手を全力の一撃で倒すことが出来る最高の状態に至った。

 自身の立ち位置、体勢、呼吸、剣の持ち手…そして、魔法を使用するために、体内に取り込んだ神気。

 最高の一撃を行うための要因が噛み合い、ホノカとムサシは渾身の斬撃を振るう。


「んっ!!」


「ぬうんっ!!」


 真っ向から振るった紅蓮色の炎の刃が、袈裟懸けに振るわれた紫色の呪いの刃を砕いた。

 そのままホノカは刀を振り抜き、ムサシの鎖骨から腹部までを斬る。


「ぐっ、ぬおおおっ!!」


 刃が通り抜けた後、焼き焦げた切傷から鮮血が噴き出す。


「はあ…はあ…」


「…見事だ。イヅモの者よ。」


 斬られた傷口が燃える。炎にその身を焼かれながら、命の灯が消えようとしている剣客はそれでもなお、堂々と立っていた。


「イヅモの娘さんよ…。先程お主が言った、守らなければならない者とは…我らが信仰する邪神様の生まれ変わりの少年のことかな?」


「…そうだ。彼は、お前達の神などではない。彼は私の…大事な人だ。」


「ぬふふ…、そうか。では、行くがいい。私を倒したその剣で、彼の少年を守ってみせよ…。」


 そう言って、ムサシは燃える体で立ったまま満足した表情で命尽きた。

 ホノカは鞘に刀を納めると姿勢を正し、全力で戦った剣の先人に敬意を込めて頭を下げた。

 そして、自分を助けに来た友人と守るべき人を守るため、ホノカは目の奥に火を灯し、部屋を後にした。



 ―――別のとある教室。


 一台のピアノが置かれ、楽譜が辺り一面に散乱した室内。

 室内には、長いローブを身に付けた三人の暁の福音の団員と、四人の女子生徒が対峙していた。


「クケケ…」


「ケッケッ…」


 三人のうち二人の団員が下卑た笑みを浮かべ、大きく見開いた目で生徒達をギョロギョロと見る。手には鉄の手甲を備えており、その尖った五指をカチカチと動かして見せている。


「う…」


 女子生徒達は気味悪がり、団員達からさらに距離を取って教室の奥まで下がる。団員達の尖った鉄の五指により、女子生徒達の体には切り傷が出来ていた。


「あいつら…」


「なんて…強さなの」


「変態なのに、強いわ!」


「みなさん、逃げてください!あの団員達は、みなさんが敵う相手ではありません!」


 傷付いた友達にアイシアが言う。


「クケケ…残念だけど逃がしはしないよ。」


「ケッケッ…、逃げようと背を向けたら、後ろから君達を刺すよぉ。」


 カチンカチンと尖った鉄の五指を鳴らす。


『うっ……』


 女子生徒達が青ざめる。団員の言う通り、逃げようと背を向ければ間違いなく尖った五指で切り裂かれるか、身体を貫かれるのだろうと想像する。


「……………」


 もう一人の団員は脚を組んで椅子に座り、黙ってその場の様子を見ていた。


「クケケ…。さあ、どうするぅ?僕達を倒さないと、ここからは出れないよ。」


「出れなければ、君たちは僕らに殺される。僕達は君たちの泣き叫ぶ声をこの部屋で堪能出来るんだ。ケッケッ…」


「この、ど変態共め!」


「こうなれば…私達みんなで力を合わせてあの変態共を倒すしかないわね。」


「み、みんな…が、頑張りましょう!」


「ケッケッ…。来なさい、お嬢さん達。」


「クケケ…。遊んだ後に、君達の皮と骨をいただくよぉ。 」


 鉄の五指をカチカチと鳴らして涎を垂らす団員達を気味悪がりながらも、女子生徒達は戦う覚悟を決めて手を前に向ける。


「皆さん、行くわよ――あっ…」


『――っ!?……』


 団員達と戦おうとしていた三人の女子生徒達が、突然体を痙攣させた後、意識を失ってその場で倒れた。


「…ごめんなさい、みなさん。でも、みなさんをあの団員達と戦わせて、死なせるわけにはいきませんので。」


 後ろに立つアイシアの手から、白い電流が閃く。


「…なんの真似だい?お嬢さん。」


「もしかして、僕達が遊びやすいように気絶させてくれたのかい?ケケッ…、優しいねぇ。」


「クケケ…、そうなのかい?ならば、ご厚意に甘えて、ゆっくり楽しみながら彼女達の皮と骨をいただくとするよぉ。」


「…下衆共め。」


 静かな怒気を含めて呟くと、アイシアは制服の首元に手を入れ、中から首に懸けたロザリオを取り出した。


「我が親愛にして偉大なる神よ…。汝の名の下に、悪しき者を消し去る聖なる力を、我に与えたまえ…」


 祈るアイシアの手に握られたロザリオが光り出し、形を変える。一瞬強く光を放った後、その光が消えると…――アイシアの手には、身の丈ほど長い柄の斧槍が握られていた。


「……………!」


「お嬢さん…、その斧槍は…」


「お前は、まさか…」


 斧槍を見た団員達に緊張感が走る。

 アイシアは握りしめた斧槍を持ち上げ、己が放つ殺気の方向を槍の先で示す。


「暁の福音の邪教徒達…」


 そして鉄の斧槍と同じくらい冷たい視線を団員達に向けると、アイシアは非情な言葉を告げる。


「あなた達を、断罪します。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
八雲先生はじめまして いつも楽しみに読ませていただいてます! アイリスさんがシスターだったんですね! 続きが楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ