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実は、邪神でした。  作者: 夕陽 八雲


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第14話 魔物使い③

「…う…ぐっ」


 背中の激痛で目が覚める。

 体がだるい。指一本動かすことも出来ないほど、体中の気力無い。

 視線だけを動かすと、近くには座席があり、その開け放たれた向こう側には密集した木々が見える。

 崖から森へと落下して損壊した車両の壁の上に、仰向けに倒れているのだと理解する。


(…そうか、車両が脱線して崖から落ちたんだ…)


「お、目が覚めたのか?」


(…!)


 声のした方に視線を向けると、少し離れた所にロイ・シペッツェが切り株に座ってこちらを見ていた。

 その周りには、ロイが使役するゴブリン達がいる。


「車両がクッションになったおかげで、絶命を免れたか。しかし、君は血を流しすぎている。放っておけば、そのまま出血多量で命尽きるだろう。」


(……………)


 無気力感で動けない体が冷えていく。


「…はぁ…っ、はぁ…っ」


「息をするだけでも苦しそうだな。君の遺体は、私が責任を持って暁の福音の本部に運んでやる。森の中で野晒しにはしないから、安心して死ぬといい。」


(俺の遺体を、暁の福音の本部に…?何故、そんなことを…)


 ロイの意図を考えようとするも、眩暈で思考が鈍くなっている。

 ロイの手がゴブリンの頭を優しく撫でる。


「…魔物と仲がいいんですね。」


「ん?ああ…そうだな。」


 俺の言葉にロイは頷いて、ニヒルに笑う。


「魔物使いは生まれた時から、特定の魔物と心を通わす事が出来るんだ。本人が望むか望まないに関係なくね。私にとってゴブリン達は、幼い頃からいつも近くにいる従順で可愛い下部だよ。」


「…そうですか」


「魔物使いを見ると、人は怯えた顔をするか、気味悪がるか、(かたき)を見つけたような反応をする。だが君は、私が魔物使いと名乗った時、驚きこそしたが拒絶するような反応を示さなかった。…君と一緒にいたお嬢さんは、私を凄く睨んでいたがね。」


「それは…、俺が魔物に何度も助けられたから…」


 俺は邪神の力で作り出した魔物を使って戦い、何度かその魔物達に助けられた。そう考えると、俺も魔物使いと同じだ。だからこそ、魔物を使役する魔物使いに対しての拒絶反応はないのだろう。


「…そうか。やはり、邪神は魔物使いが信仰すべき神なのかもしれないな。」


「……………」


「トウヤ少年とは、拳を交わした仲だ。君が死ぬ前に、大事な話を聞かせてやろう。」


 ロイはポケットから葉巻を取り出し、それをゆっくり吸い始める。


「昔起きた凄惨な事件…『魔物使い狩り』の真相についてだ。語られるのも憚れるほどの王国の負の歴史。あの事件がどうして起こったか…。それは、教会が当時の国王にだけ、邪神の復活についての預言を伝えたからだ。 」


「な…に」


「十五年前に死んだ暁の福音の教祖は、もともと教会の高い位にいた司祭の一人だったらしい。その教祖が知るところによれば、教会には()()()()()()()()()()()()()()()()()()があるそうだ。教会はその預言を恐れ、長年秘匿とされていたその預言を当時の国王に伝えたそうだ。 」


 邪神の復活について記された預言書。そんなもの存在するのなら、教会はもっと昔から邪神が復活することを知っていた事になる。

 ここで大宮司様が『ある方』から邪神の復活を聞き、教会が俺を抹殺しないように現国王から勅書を賜った事を思い出す。


(大宮司様は、教会を止めるために国王陛下から勅書をもらっていた。…ならば、大宮司様は、教会の人間ではない別の誰かから邪神の復活について聞いたことになる。)


 邪神の復活を知る者が他にもいる。教会の人間でもなく、暁の福音の団員でもない誰か… 。


「教会以上に邪神の復活を恐れた当時の国王は、邪神の復活に関係があるかもしれない魔物使いを拘束するよう、教会に勅令を下した。その際、教会の信者が多い西側の地方の貴族達は、邪神の復活の預言を知らず、ただ教会と国王のためにと協力した。…シルフィード家は国王と教会に疑問を抱いたため、魔物使い狩りに参加はしなかったそうだがね。」


「…………」


「先に言っておくが、別に君を責めるわけではない。だが、君は知っておかなければならない。魔物使い狩りにより多くの罪なき人が命を奪われ、生き残った者とその子孫たちが人目を避けて暮らすようになった事、暁の福音という世間では邪教と呼ばれる宗教団体が設立され、その活動によりこれまた多くの命が奪われた事。…これらすべての発端は、邪神だということを。」


(……っ)


 邪神の…俺の存在が多くの人の命が奪われる原因…。


「直接でないにしろ、邪神が関係することで歴史上、そして現在も数多の死者が出ているわけだ。それに、邪神を信仰する暁の福音に属していても邪神を憎み、復活した邪神にその恨みを晴らそうと考えている者もいる。君は、教会だけでなく一部の暁の福音の団員に命を狙われていたのだよ。」


「…あなたも、その一人というわけ…ですか」


「いいや、私は邪神に恨みはない。純粋に邪神の完全復活により、王国を滅ぼすことだけを願って、暁の福音に協力している。」


(なら、なぜ俺を殺そうとするんだ?)


 疑問を含んだ俺の視線を受け、フゥ…と口から葉巻を離して煙を吐くロイ。


「君を殺すように言われている。トウヤ少年が死ねば、君という人間の人格は無くなり、その時こそ本当の邪神が復活するという事らしい。」


(俺という人間の人格が無くなる事で本当の邪神が復活する…)


 教祖の娘がそれに似たようなことを言っていたのを思い出す。


「君が真の邪神になったその時、今まで以上に多くの人々が死ぬ。邪神(君の存在)は、全ての不幸の始まりにして、不幸と共に全てを終わらせる者でもあるのだよ。」


(俺の存在が全てを…終わらせる…)


「…死ぬ前に、人間としての君は知るべきかと思って話したのだが、邪神に成った後は今した話は忘れていい。」


(…そうだ。俺が、終わらせればいい。)


「…ぐっ…うっ」


 俺は気力を振り絞り、無理やりにでも自分の腕を動かす。

 人差し指の指先に意識を集中させると、そこに弾丸のような形に圧縮された火の塊が出現した。


「最後の悪あがきかい?少年。せめて私を道連れにしようとしているのか。」


 瀕死の俺が攻撃魔法を使おうとしていることにロイは焦りを見せず、切り株から立ち上がろうともしないで葉巻を吸っている。


「敵に一矢を報いろうとするその姿勢は素晴らしい。だが、そんな瀕死の状態で私にその火炎魔法を当てることは出来ないぞ。」


「いいえ…。俺が攻撃するのは、あなたじゃありません。」


「何?」


 怪訝な顔をするロイ。

 俺は人差し指の先を、自分のこめかみに向ける。


「少年、何をする気だ…?」


「…俺を、跡形もなく消し去ります。」


「何だと!?」


 驚いたロイは思わず立ち上がる。


(俺が死んだ後に、邪神が完全な状態で復活してしまうというなら…、そうなる前に俺の体を燃やして、消し炭にすればいい。)


 どういう仕組みで邪神が完全復活するのかわからないが、復活するための器…つまり俺の体が無ければこの世に存在することは出来ない。ならば、俺自身が消えて無くなれば邪神の完全復活は阻止出来るはずだ。

 すでに致死量近くも血を流し、意識が朦朧とする。

 もう自分の命が助からないことを悟り、邪神と心中することを決心する。


「ゴブリン達よ、少年を止めろ!」


 ロイが慌てて叫ぶ。それに従って、ゴブリン達が俺の方に走り出す。


(…もう、遅い。)


 俺は人差し指から、残る力を全て振り絞って出現させた火炎魔法を自分に放った。

 ホノカほど器用な魔法は使えないが、俺も火炎魔法は割りと得意な方だ。

 自分の体を燃やし尽くすくらいの事は、たとえ瀕死状態でも出来る。


(ホノカ…)


 火炎魔法がこめかみへと近づく刹那の中、俺は、自分を必死で守ってくれたホノカの事を思い浮かぶ。


(せっかく守ってくれて、次も守ると約束してくれたのに、すまない…)


 ナカツクニ神の宮の本殿で互いに交わした約束。ホノカの約束を果たさせることは出来なかったが、俺はホノカにした約束を果たすことが出来そうだ。


(もう、邪神の力を暴走させない…。この約束は、最期まで守る…)


 俺の存在が無くなれば、邪神は復活できない。邪神の力で、誰かが傷つくことはもうない。これで全ての不幸は断ち切れる。

 火炎魔法の弾丸が当たる直前、もう一人…ある人物を思い浮かべる。


(斧槍のシスターさん…。あなたの言う通り、俺は断罪されるべきだった…)


 邪神がいなければ、暁の福音という邪教は存在することはなかった。両親が傷つくこともヨミノ町が攻撃される事も、魔物使い狩りも起こること無く、ロイ・シペッツェが列車の乗客や駅員を殺す事もなかったかもしれない。

 全ての元凶は、邪神 ベルゼファール…。


【ベルゼファール…様…】


 頭の中に、あの不気味な声が響く。

 結局、この声の正体はわからないままだ。だが、今となってはどうでもいいこと。


(ここで、邪神ごと全ての不幸を終わらせる !!)


 火炎魔法がこめかみに着弾し、そこから一瞬にして体が燃え上がる。


(…ああ…ああ…っ)


 炎に包まれる中で、背負うべき罪に対して罰を受ける様に、焼け苦しみながら俺は死んだ。




 ―――王国の東側の地方、とある森の中。


 ロイ・シペッツェは目の前で激しく燃え盛る炎を見て、葉巻から吸った煙とともに大きく溜め息を吐いた。


「ハァ~…。思い切ったことしたな、トウヤ少年。しかし、困ったものだ。あの方…教祖の娘になんて報告すればいいんだ?」


 邪神の生まれ変わり…トウヤ・ヘルフィールドを殺して、その遺体を持ってくること。それが、教祖の娘から任されたことであった。

 特別車両の乗客を殺したのは、そのついで。乗客の中には、魔物使い狩りに参加した貴族の子孫などがいたためである。

 シペッツェ家や魔物使い達の恨みを晴らした後、邪神の生まれの遺体を持って帰るだけであったのに、まさか自分で自分の体を燃やすとは…。


「邪神の生まれ変わりであることを除けば、ただの素朴な平民の少年だと思っていたが、どうやら見誤っていたようだ。世界のために自分を犠牲にするその心意気、敬意に値するぞ、トウヤ・ヘルフィールド。」


 炎はさらに火勢を強め、周囲の木々に燃え移っていく。

 赫赫とした大火を見て、もはやトウヤの遺体を回収するのは困難と考えたロイは、森全体に炎が拡がる前にこの場から去ることを決め、炎に背を向けて歩き出す。

 ボオオォ…という音を出して激しく燃え続け、パチ…パチ…と木々が焼かれている音、鳥たちが煩く鳴きながら飛んでいくのが後ろから耳に届く。


(邪神を失ったのは非常に残念だ。仕方ない。一旦、暁の福音の本部に戻り、教祖の娘と話し合って新たに別の神を信仰の対象にして、他の方法で王国を破滅させ――)


 ロイは思考を中断させて、脚を止めた。

 突如、森全体が静かになったと気づく。

 先程まで炎が激しく燃える音と木々が焼かれている音が耳に届いていたはずだった…――そう思った次の瞬間、ロイは全身が総毛立つ程の寒気を感じ、慄然とした。


(な、なんだ!?この背筋が急激に冷える感覚は?)


 背後に気配を感じる。

 異様に静かになった森で、背後に立つその気配は、息が詰まる程のただならぬ重圧感を醸し出していた。

 ロイの顔に汗が伝う。背中も大量の汗で冷えていくのが分かる。


(何が、起きている…?)


 近くにいたゴブリン達は、いなくなっていた。もう既に全員が、背後にいる気配の持ち主に消されたのだとロイは確信する。

 後ろを振り向いてはいけない…。本能が強く警告を発し、体が硬直して呼吸することすら躊躇う。


(後ろに…、何がいるというのだ…)


 ロイの背後に、トウヤ・ヘルフィールドが立っていた。


 まさかと思ったロイは、その場から距離を取りながら振り返った。

 その場に立つトウヤを見て驚愕する。


「トウヤ少年…」


 炭の様に黒く焼け焦げたはずのトウヤの身体は、何事もなかったかのように火傷一つ付いておらず、その服も炎に包まれる前の最後に見た時のままであった。

 致命傷となった背中の切り傷からの出血は止まり、乾いた血の痕だけが残っている。

 周囲を燃やしていた赤い炎は消えていた。

 その代り…、トウヤの体にはその輪郭をなぞる様に黒い炎が纏わりついていた。


「君は…いいえ、貴方はまさか…」


 虚空を見つめるような冷たく無感情な表情のトウヤ。

 だがロイは、目の前のトウヤが人の言葉では言い表す事が出来ない、強大な存在になったのだと瞬時に悟った。


(邪神…ベルゼファール!!)


「…………」


 狼狽えるロイに対して、トウヤ…―邪神 ベルゼファールは何も応えず、静かに佇んでいる。

 ロイはその場で片膝を着き、頭を下げた。


「我が偉大なる神、ベルゼファール様。私は魔物使い、ロイ・シペッツェと申します。貴方様を信仰する者です。御身の至高なる魂の復活を、心より喜ばしく思います。」


 ベルゼファールの視線が動き、口上を述べるロイを見下ろす。

 しかし、すぐに視線を前に戻すと歩き出し、ロイなど最初からいないかのように、その横を通り過ぎた。


「お待ち下さい!我が神、ベルゼファール様。僭越ながら、願い求めます。どうか、私と一緒に暁の福音の本部までお越し下さい!」


 ベルゼファールの脚が止まる。


「…断る。」


 静かだが、厳かな声がその場に響く。

 短く言い放ったその一言には、他に有無を言わせない威圧感があった。

 その威圧感が、喉を突き刺す刃のようだと錯覚して思考が停止するロイ。だが気を振り絞って立ち上がると、背を向けたままのベルゼファールに食い下がる。


「ベルゼファール様!どうか我ら暁の福音の宿願の成就のため、お力をお貸しください!」


「お前達の宿願…、王国の破滅か。」


(トウヤ少年の記憶はそのまま持っているのか…。)


「はい。その通りでございます。是非、貴方様のお力を――」


「人間ごときの願いに、神である私が力を貸す必要は無い。立ち去れ。」


「…っ!」


 立ち去れというベルゼファールの命令に、ロイの体中の細胞がこの場から離れる事を選んで走りだそうとした。

 だが、意思の力で自身の本能と体を抑えつけて留まる。


「わ、私が貴方様に対して行った非礼の数々、心より謝罪いたします!しかし、全ては、貴方様の完全なる復活のためにしたこと。私の行いに怒りを覚えておらるのでしたら、我ら魔物使いと暁の福音の宿願が叶えられた後、私を罰して下さい!」


「…人間よ。私は、お前達の考えていることを知っている。」


「…なに?」


「神である私を支配下に置き、魔物を創造する力を手に入れる事。それが、お前達…暁の福音の目的だ。」


「…っ!」


「十五年前…、私が召喚された暁の福音の本部だった場所には、神をこの世に召喚する魔法陣の他に、私をその場に縛り付ける魔法陣もあった。」


 十五年前、暁の福音の教祖によって邪神が召喚された部屋…聖騎士だったオウルが赤子だったトウヤを見つけた場所。


「お前達の真の目的は…、私の力を使い、無限に使役することの出来る強力な魔物の軍勢を率いることなのだろう。」


(なぜその事を知っている!?それは、暁の福音の中でも一部の者しか知らない事だぞ!)


「…愚か者め。神である私を人間ごときが支配できると思うなど、許し難き傲慢だ。」


「く…ッ」


 ロイは胸のポケットから取り出した葉巻に火を付けて、それを咥える。

 周囲に紫煙が漂い、複数の魔法円を描く。


「…ベルゼファール様。例え貴方の言う通りだとしても、私と一緒に来てもらわなければなりません。もし拒むというのならば…、力ずくにでもお連れ致します。」


「…人間分際で大きく出たものだ。」


(相手は神といえど、まだ覚醒したばかりで不完全な状態だ。捕らえるなら、今しか機会はない!)


 周囲に描かれた複数の紫煙の魔法円から、ゴブリンが次々と現れる。

 緑色の肌に長く尖った耳、人間の子供くらいの大きさだが、人とは懸け離れた恐ろしい形相をしており、その手にはその小柄な身に合った長さの剣を携えている。


 召喚された数十体にも及ぶゴブリンが、背を向けたままのベルゼファールを囲む。


「ベルゼファール様…、お覚悟を。」


「まったく。人間というのは、実に度し難く…」


 静かに立つベルゼファールが、ゆっくりと振り向く。


「…愚かだ。」


 そう言って振り向いたベルゼファールは…両眼が洞穴の如く漆黒に染まりきり、耳まで裂けたかの様に口角を高く上げた顔で嗤っていた。

 その手には、心臓の如く脈打つ丸い塊が握られている。

 それがベルゼファールの手から高く浮き上がると、一瞬にして肥大化した。


「なんだ、あれは…?ゴブリンども、一切の容赦は要らない。一斉に飛びかかれ!」


『ブルァアアアアー!!』


 ロイの命令でゴブリン達が、雄たけびを上げて剣を構える


「ゴブリンか…。これが魔物とはな…。長い年月を経て、魔物はずいぶんと弱弱しくなったものだ。」


 空中に浮かぶ、心臓の如き丸い塊の脈が速くなる。


 ――ドクンッドクンッドクンッ


 その脈打つ音が、ベルゼファールを除くその場にいる者全員の不安を、体の芯から掻き立てる。


「贋物共が…。真の魔物というものを見せてやろう。」


 ベルゼファールがそう言って空中の丸い塊を指差す。

 すると、脈打つ丸い塊を突き破っていくつもの凶悪な魔物が顔を出して、甲高い不気味な産声を上げる。


『プルルゥウアアーッッ!!』


「あ、あれは…」


 現われた魔物達はさらに中から手と脚を出すと、次々にそこから飛び出してベルゼファールのもとへと集まる。


 子供のくらいの大きさをした人型の魔物。爬虫類の様に鱗で覆われた灰色の肌で、脚よりも太い両腕の先には鋭く長い爪が生えている。

 耳は蛾の羽の様に広がっており、尖った鼻の下には、大きく開く口がノコギリの様な歯並びを見せて涎を垂らす。

 その赤く細い瞳孔がキョロキョロと動いて、周囲のゴブリン達を見ている。

 その獲物を品定めするような視線に、ゴブリン達がたじろぐ。


「なんだ、その化け物どもは…!?まさかそいつらは、真の魔物…本物のゴブリンだとでも言うつもりか?」


「この魔物達は、ゴブリンの祖…『グレムリン』。」


「グレムリン…?ゴブリンの祖だと」


 邪神 ベルゼファールが創りし、いにしえの魔物…。

 殺気立つグレムリン達が、今にも飛びかからんと前傾姿勢になり、口を大きく開けてノコギリの様な歯を露わにする。

 ベルゼファールの身に纏う黒い炎が、怪しく揺らめく。

 神の深い漆黒の眼が全てを呑み込むようにその場に居る者を見渡し、その邪悪な尊顔は神に楯突く者達を嘲笑う。


「さあ、存分に神に歯向かうがいい…。愚かなる者達よ。」

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