ご褒美のお菓子
空になったグラスを側を通る侍女に手渡す。
「まったく。」
メマリーが肩をすくめた。
「時間の流れには適わないわね、あなたも大人になったのね。」
そういって、まだ何か言いたげな王子の手をとった。
「せっかくだから踊りましょう。」
「まだ話は終わっていません。」
王子が言い返す。
「あら。私と踊るのが嫌なのかしら。」
そう意地悪そうに言うと王子は鼻をふんと鳴らし、メマリーの腰に手を回し、ホールの中央にメマリーをエスコートしていった。
「一曲お相手いただけませんか?」
まだ寵妃としての地位は失っていないはずの自分に声をかけたのは誰だろうと思い、ロザリアは声のほうへ振り返る。
「-りょ…。」
そこには白い服をまとった料理長-前国王が宰相を後ろに従え立っていた。
ロザリアは花が咲き誇るような美しい笑顔を浮かべて前国王の手をとった。
現国王であるリュミエールの花嫁が示される場で、前国王と寵姫が手を取りダンスをとる。
さりげなさを装いながら、視線が二人のダンスに集まる。
「いつから気がついておいででしたの…料理長様。」
見事なステップを踏みながらロザリアが意地悪そうな声を出した。
前国王はひらりとロザリアの体を回す。
「知ったのはつい最近だな。」
誰かとよく似た悪びれのない態度で前国王は言葉を口にする。
「女官長は最初から知っていたようだが、私にも教えないとは悪い女官だ。」
そういいながら、軽快なステップを踏む。
「しかし、まぁ言っただろう。誰しも秘密はあるって。姫は気がついていなかったのかい。」
茶目っ気たっぷりに片目をつぶった。
そういえば…
今思えば、気がつくべき点は多々あったのに。
ロザリアは長くなりそうな話を聞かなかったことを後悔する。
とはいっても、話を聞いて何が変わったとも思えないけれど…前国王の茶目っ気にうんざりする。
「マリアちゃん、いや姫は知っていないかもしれないが…わしは王妃が死んで愛に病んであいつに王座を譲ったことになっているが…実際は、王妃が国政を担っていたといったら信じるかな?」
そして、長い話を耳元で囁かれる。
「賢王といわれながら、王妃の手の上で転がされたわけだ。わしは。王妃がなくなったとき、下手な失敗をして王として責任を取るのが嫌になってあいつに全てを投げた。」
ダンスの音楽が軽快な音楽から、ゆったりとしたワルツに変わる。
「さすが王妃の子どもだけあって、あいつは期待に答えてくれた。さすがだな。」
そういいながら、要人たちの相手をするリュミエールに軽く視線を投げる。
「無責任な親だ。」
「よく似ていらっしゃいますね。」
ロザリアがステップを曲に合わせて変えていく。
「いいダンスだった。」
そう前国王はいいロザリアの頬に軽くキスをする。
「そのドレスよく似合っている。王妃がわしとであった舞踏会できていたものなんじゃ。」
「料理長…。」
「さて無責任な親は最後まで無責任でいないとな。」
そう意地悪く前国王は笑った。
それは、子供がご褒美に美味しいお菓子をもらうときのように、何かとてつもない思いつきをしてやったという笑顔だった。
次回おそらく最終回(本編)




