お菓子の材料は赤いローズ
何事もなかったように、月の離宮では平穏が続いていた。
それに反して城に内通者が出たことは秘密裏に処理されながらも、不敬な言葉を履いた貴族達を中心に
横領を繰り返していた貴族達が数人罰せられたりと城内は少し騒がかった。
「結局、主犯はわからず。」
ロザリアがため息をつく。
「トカゲの尻尾きりですわね。」
マリアがうなづく。
ロザリアたちにとって大きく変わったことといえば、月の離宮ではロザリアの傍に付く騎士達は外で控えているのが常だったが、常にロザリアの傍を離れなくなったことだった。
普段のロザリアならば騎士たちが常に付き添うことについて文句の一つもいいそうなものだが珍しく口を開くことはなかった。
時折、マリアが持ってくる情報に相槌を打ちながらも気のない返事を返すばかりだった。
そしてリュミエールは、時折月の離宮に足を運ぶがロザリア言葉を交わすこともなく、ただ部屋で休んで行く。
周りから見れば、寵妃のもとに足しげく通う王。
今までも実の伴わないものだったが、今まで以上に実のないリュミエールの行動にロザリアは苦笑するしかなかった。
「お久しぶりです。」
一週間ぶりに女官長を伴って現れたのは宰相だった。
「珍しいですわね。」
開いていた本を閉じながらロザリアが答えた。
「少し外を歩きませんか?最近部屋にこもってばかりだとマリアが言っていましたよ。」
ロザリアは読んでいる振りをしていた本を隣に置き、素直にうなづく。
その行動の裏には、宰相の物言いに、暗に内密な話があるのかもしれないと思ったせいもあったが…
ロザリアは空気のように控えていた騎士たちに声をかけた。
「いいかしら?」
騎士たちは少し驚いた顔でうなづいた。
宰相に差し出された手にロザリアは細く白い手をのせる。
月に離宮に面した庭に移動しながら宰相は尋ねる。
「あなたは、自分が行動するのに騎士たちに伺いを立てているのですか?」
不思議そうにロザリアは首をかしげた。
「当たり前でしょう。守ってもらっているのに迷惑かけられないわ。」
ロザリアが当然のことのように言った。
「二回も、騎士達を出し抜いておいてですか?」
宰相が困った顔をした。
「前のは特例。」
茶目っ気たっぷりにいうロザリアの姿は年相応の女の子に見えた。
「では、姫どうぞ。」
宰相も茶目っ気を出しながらエスコートする。
色とりどりの花や緑を見ながらゆっくりと宰相とロザリアは歩く。
「奥様は気になさらないかしら?」
ロザリアが面白そうに宰相に尋ねる。
「妻はそこまで度量は狭くありませんからね。」
愛妻家とマリアから聞いた情報を暗に伝えると宰相が軽く笑った。
「そうですね、こんな小娘が隣では心配もないですね。」
ロザリアがわざと頬を膨らませる。
騎士達は声が届かない程度に二人の姿を確認しながら護衛している。
「小娘ではありませんが…まぁ、娘とさほど年は違いませんからね。」
宰相は軽く答える。
「私が娘を心配するように…陛下は貴方のことが心配なんですよ。」
宰相が切り出した。
「さすがに娘を心配するのとは種類が違いますけれどね。」
ロザリアが予想していた話と違う展開に、ロザリアは首を傾ける。
「あれ以来、ご機嫌が斜めでね。」
これみよがしに宰相はため息をつく。
「申し訳ありません。出過ぎたまねをしてしましました。」
ロザリアは素直に謝った。
「主犯もわからないままですものね。」
「そういうことではなく、自分に相談して欲しかったんだと思いますよ。」
「相談したら、止められていたでしょう。」
「そうですね…ご自分を餌になさるのは好ましいことではありませんよ。」
優しく宰相が諭す。
「私が変死してしまえば外交にも影響するかもしれませんけれど…けれど、うちは弱小国家ですし大丈夫です。」
ロザリアは自国を思い出す。
きっと王である父は怒るだろう。
父親なら当たり前だ。
けれど、王として高い慰謝料か関税の優遇など外交問題を片付ける材料にして収めるだろうと想像できる。
「そう言う意味ではないのですけれどね。」
宰相が再びため息をはいた。
「陛下の気持ちもわかってあげてください。」
「ええ、わかっています。」
余計なことをしてしまったことはよくわかっている。
ロザリアは内心つぶやく。
そんなロザリアの姿に宰相は肩をすくめた。
「あなたの今後についてですが、一ヵ月後王宮主催の内輪のパーティーがあります。そこで示されることになると思います。」
ロザリアはやっと本題に入ったと思い、うなづいた。
「軽い舞踏会ですが、出席していただけますね。それまではこのままということになります。」
「時間をおかれるのですね。」
寵妃をおりるのに、予想したよりも時間がかかる…
時間がかかればかかるほど、離れたくなくなるのにと思いながらロザリアは返す。
「急な知らせですが、一週間後、貴方の弟君が会いに来られることになりました。」
宰相の言葉にロザリアは軽く目を開いた。
「弟が?」
「ええ、姉の姿を見たいと…寵妃になった知らせが国に届いたのか、それとも王位継承権を繰り上がる前に貴方に会いたいのか…弟君の思惑は分かりませんが。」
砂糖菓子のようにふっくらとした弟を思い出す。
「わかりました。」
確かに王位継承権1位になれば、ロザリアと違って弟は外を見ることも難しくなる。
タイミングとしてはおかしくない。
そして、弟が来るのに寵妃の任がとかれたばかりというのも、なんだか決まりが悪いとロザリアは思った。
「弟君は一応、内々で来られますが、軽い晩餐会はご用意する予定です。」
宰相が、弟が来たときの予定を軽く説明していく。
「それともうひとつ、エリザの死体があがりません。」
暗にエリザが生き延びているかもしれない可能性を宰相は伝えてくる。
「わかりました。気をつけます。」
ロザリアの言葉に宰相は小さくうなづく。
「ええ、とりあえず次の舞踏会が終わるまでは大人しくしていてください。
そう言って宰相は、庭に咲く赤いバラを短剣をつかって器用に折る。
そしてロザリアの手に薔薇の刺が当たらないように注意しながら渡す。
「いいことを教えてあげましょう。」
宰相は余裕の顔で振り返りロザリアの耳元に顔を寄せた。
「エールと呼んでもいい許可をだされたのは私と亡き王妃、数人の友人だけです。」
ロザリアは首をかしげた。
宰相は耳元に寄せた顔をあげる。
「亡き王妃が心を許せるもののみに許しなさいと言われたのですよ。私も王となってからは呼びません。」
「何が言いたいのですか?」
「女性に呼ばせたのははじめてだということです。」
そういうと宰相は、騎士達を手招きしロザリアの元を離れた。
「教育係の宿題ですよ。」
宰相が面白そうに言うと、騎士達にロザリアを月の離宮へ帰すよういい、立ち去っていた。
残されたロザリアは手からバラの花が落ちたことも気がつかないで立ち尽くしていた。




