きらめくローズゼリー
ロザリアは騎士達に付き添われながら、月の離宮に戻る。
「おかえりなさいませ。」
マリアが出迎える。
ロザリアは宰相から渡されたバラの花を見せる。
一輪のバラのはずなのに室内にかすかにバラの香りが漂う。
「姫様によくお似合いです。」
マリアは嬉しそうにバラを受け取り、生ける準備を始める。
「次の舞踏会にはお召し物をと宰相様からいいつかりました。時間は前よりたっぷりありますものね。」
と、マリアは嬉しそうにはしゃぐ。
「そうね、少し本を読みたいから下がってくれる?」
ロザリアは静かに言うと、マリアは寂しそうに頭を下げた。
以前、女官長に薦められたこの国の歴史書を開く。
「熱心だな」
どれくらい経っただろう、顔をあげるとリュミエールが目の前には立っていた。
ロザリアは捲られてもいないページに目を落とす。
「一回りも下の小娘に意地悪ですね。」
ロザリアは本を閉じる。
「一回りは言い過ぎだろ。」
「対した違いはありませんわ。」
久しぶりに話す言葉だった。
ロザリアは歴史書を近くのテーブルの上に置いた。
分厚い歴史書の表題をリュミエールは見る。
「近代史か、ページが進んでいないが難しいか。」
「二年も暇な時間がありましたからね。よく本は読ませていただきました…今はそんな暇もありませんが。」
さりげなく嫌味を含ませながらロザリアは返答する。
リュミエールは静かロザリアの隣に座る。
大きな手が小さな華奢な手を捕まえた。
「俺が嫌か。」
余りに単刀直入な物言いにロザリアはリュミエールを見つめる。
なんと答えようか迷い、結局、言葉を紡ぐことができなかった。
「俺はお前を放したくない。」
真剣なリュミエールの言葉にロザリアは『意地悪な冗談ですね。』とかわすには二人の距離は近づきすぎていた。
「私は、その他大勢では嫌なんです。」
思わず本音が出てしまったと、ロザリアは舌打ちしたくなった。
そう、一時的な関係ではきっと満足できなくなる。
打算だけの関係でいるには、近づきすぎてしまった。
だから…
これ以上一緒にはいられない。
「そうか。」
リュミエールは短い返事をし部屋から出て行った。
しばらくするとマリアがやってきた。
「姫様、お疲れのようですので…陛下が贈り物をと。」
そういってお盆の上に載せられたローズゼリーを差し出す。
涼しげに、そして宝石のようなジェル状のゼリーの上にはバラの花が美しく飾られている。
「宝石みたいですわね。」
マリアは目をきらきらさせながら、ロザリアに言った。
「バラは美肌効果が高いですしね、なかなかいいものをくださいました。」
マリアの鼻の穴が大きく膨らんだ。
「姫様、頂きましょう。」
そういうと、ロザリアよりも先にマリアはローズゼリーを口に入れる。
「美味しいです。」
マリアの嬉しそうな声が部屋に響いた。
それからもリュミエールは月の離宮に足繁く通ってきたが長い時を過ごすことはなかった。
時にはリュミエールとロザリア、二人そろって散策にでることもあったが、穏やか笑い合いながらも、眼は笑ってはいなかった。
そんな時だった。
ロザリアの弟が、この国へ到着したのは…
月の離宮にロザリアの弟は非公式にやってきた。
姉弟の再会を意識したのか、部屋の扉は開いているものの、部屋の中にはロザリア一人。
そして、弟が開いた扉を小さく叩き部屋へ入ってくる。
「お久しぶりです、姉上。」
ロザリアとよく似た緑色の瞳、ロザリアよりも少し色の強い金髪。
日に焼けた健康的な肌に、すらりと伸びた肢体。
少し華奢な骨格が少年から大人へと変わる階段を確実に上っていることを印象付ける。
ロザリアと並べば、すぐに血縁者だと分かる。
約3年ぶりに出会う弟の姿に、ロザリアは息を呑んだ。




