残ったカヌレ
ロザリア達がカヌレを食べている間、リュミエールだけはカヌレに手をつけなかった。
「他に聞きたいことはありますか?」
カヌレを食べ終えた後、ロザリアがゆっくりと言った。
「いえ、今日はお疲れでしょうし、私からは何もありません。」
「俺からは…そうだな、エリザは捉える前に自決しようとして城外の川に身を投げた…遺体は揚がっていない。男達は叩いているが、金で雇われたことしか分かっていない。」
マシがロザリアに説明する。
「男達は、エリザがお姫様と親しくしだしてから雇われたようだ…ということぐらいか。」
ロザリアは目を伏せた。
「エリザのご家族は?」
「いない。10代にはいる前に城に勤めだし、後見人だった親は10年以上前に死んでいる。」
ロザリアは、自分が調べていた内容と寸分たがわないマシお言葉にため息をついた。
「何も出てこない…か。」
ロザリアが言うとマシが苦笑した。
「命を懸ける価値はなかったな。」
マシがあっさりと言うと、マリアがにらみ付けた。
「そうですね、せっかく陛下に贈り物ができるかと思ったのですが…」
ロザリアが同意する。
「貴族達の密談がもれていたという確証、この仕掛けだけでも十分贈り物になる。」
リュミエールが、小さな練り玉からもれる煙を見る。
「約束だ、褒美を取らせる。」
リュミエールが冷たい声をだす。
「寵妃の座を降りてもらう。もちろん、周りのこともある。今しばらくは付き合ってもらうが。」
「ありがとうございます。」
ロザリアは椅子から立ち上がり優雅に腰を折った。
これで良かった。
ロザリアは心に苦いものが湧き上がるのを感じながらうなづいた。
しばらくリュミエール、宰相、マシ、マリアが話をしていたがリュミエールとロザリアが口を聞くことも
視線を合わせることもなかった。
「……では、この件はそのように。」
宰相が話を締めくくる。
「ええ。私たちは何も知らなかった。いつものように、この離宮で過ごしていた。それだけですわね、姫様。」
マリアがうなづく。
ロザリアは相槌を打ちながら、まったく言葉を理解していない自分を感じていた。
リュミエール達は椅子から立ち上がり、ロザリアの部屋の扉に手をかけた。
「いい忘れていたが、マスキンは白だ。」
リュミエールが振り返り言った。
「和平の条約がきています。」
宰相が補足する。
「今のところ伝令の兵士達に不備は見られないな。」
マシも付け足す。
「どこで親書がなくなったのか、不思議だと思わないか。」
リュミエールがつぶやき、テーブルのほうに戻ってくる。
「確かに、この香効果があるのかもしれないな…口が滑った。」
グラスの水を練り玉にかけた。
弱々しい白い煙が一筋たち消え、リュミエールたちは本当に部屋からいなくなった。
最後に部屋に残ったのはマリアだけになった。
「本当によろしいのですか?」
マリアが尋ねる。
「何が。」
ロザリアは努めて冷静を装う。
「元の生活に戻れますか?」
静かで忘れられた世界。
「戻るわ。」
ロザリアは自分の口調が思わぬ強さになってしまったことに唇をかんだ。
「後は陛下が正妃を娶られたら、さっさと出て行きましょう。」
「そうですね、姫様と二人だったら楽しそうです。」
マリアは深く追求是せず、ロザリアと静かに微笑を返す。
その夜、眠れないロザリアは部屋から夜空を見上げる。
テーブルには…残ったカヌレ。
カヌレの外側の硬く焼かれた生地、甘いシロップがしみこむように波打つように溝が作られたカヌレ…
ロザリアは大好きな甘いお菓子を口にする。
「美味しくない。」
ポツリとつぶやく。
手にはリュミエールと初めて城外に出たときに髪につけられたマーガレットの髪留めがにぎりしめられていた。




