明日への準備
「彩華。店番頼むよ」
「はーい」
マスターは身だしなみを整えて店を出る。
「いい天気だな……」
この日は珍しく、日差しが強くて目が眩むほどだった。
ネイビーブルーのジャケットを少し腕まくりして歩く。
向かう先は、詩織さんが経営する雑貨屋だ。
もちろん、ただの買い物ではない。
店内に入ると、木の香りが鼻腔をくすぐる。
辺りを見渡すと、小物やアクセサリーなどが棚に並んでいた。
「いらっしゃいませ」
声のするほうに顔を向けると、奥から若い女性が出てきた。
「あら、マスターさん?」
「あ、どうも。詩織さんはいるかな?」
「いますよ。今呼んできますね」
女性は詩織さんを呼びに奥へと行く。
しばらくすると、詩織さんが奥から出てきた。
「あら、マスターさん。ここに来るなんて珍しいね」
「冷たい花を買いたくてね」
「なるほど……。こちらへどうぞ」
このやり取りは、合言葉だ。
詩織さんはマスターを「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた奥の扉へ案内する。
「瑠奈ちゃん。ちょっと店を頼むね」
「はーい」
中に入ると、冷たい空気が体を襲う。
ここは倉庫となっており、いろんな品物が棚に置かれていた。
奥に進むと、鉄製の厳重そうな扉がある。
「さぁ、どうぞ。入って」
詩織さんは、扉を開けてマスターを招き入れる。
「いつ見ても圧巻だな」
マスターが、言葉を漏らすのも無理はない。
中に入ると、いろんな種類の小銃や機関銃などが棚に飾られており、中には対戦車ライフルまである。
そしてテーブルには各重火器の弾薬が無造作に置かれていた。
「ここにあるのは、ほんの一部よ。隣の部屋に行けばいろんな銃がある。だけど修理しないとね」
詩織さんは、少し笑いながら言う。
マスターは、棚に置かれているサブマシンガンを手に取り観察する。
「へぇ、まるで本物のようだな」
「何言ってるのよ。全部本物よ。相変わらず人を茶化すのが好きねぇ」
マスターと詩織さんは笑う。
「さぁ、そろそろ仕事の話をしましょうよ」
詩織さんは椅子に座り、足をクロスする。
マスターは、手に取ったサブマシンガンを棚に戻し、羽織っているジャケットの裏に忍ばせていた愛用銃を取り出し、テーブルに置く。
詩織さんは、コルト・ガバメントを手に取り観察する。
「ちゃんと手入れされているね。今回の仕事もこれで行くの?」
「そのつもりだ。これ専用のコールドバレットが欲しい」
「コールドバレットの扱い方は覚えてる?」
「大丈夫だ。直に触れば溶け始めるのだろ?」
「そう。その通り。逆を言うと、体内に入れば消えて証拠隠滅になる代物」
そう言うと、詩織さんは棚からアタッシュケースを取り出す。
そして、コールドバレットが装填されたマガジンを冷凍庫から取り出し、アタッシュケースに詰める。
「あくまでもコールドバレットに触れればの話。マガジンなら大丈夫」
マスターは、一つのマガジンをコルト・ガバメントに装填させてジャケットの裏に入れる。
残りのマガジンはアタッシュケースに入れた。
「わかった。ありがとう」
アタッシュケースを手に持ち出ていこうとした。
「あ、マスター。ちょっと待って」
マスターは立ち止まり、振り向く。
「ん?なんだ?」
「それだけじゃ、心許ないでしょ?試作品だけど使ってみて?」
そう言うと、詩織さんは奥の部屋に行き、試作品を持ってくる。
「……これは?」
「シュミット・ルビンM1911というライフル銃よ。ちょっと時代遅れだけど」
木製の本体に、ボルトアクション式。
手に取って構えてみると、少し重い。
「これね。ちょっと改造して銃口にサプレッサーを付けられるようにしたのよ。あと、スナイパースコープを付けられるようにした。マスターの愛用銃と同じくコールドバレットも使える」
「なるほど……。だが、このまま持ち込むわけにはいかないな」
「それなら大丈夫」
詩織さんは、マスターが持っているシュミット・ルビンを取り、サプレッサーとスコープを外す。
それから驚くことに、銃口を上に折りたたみ、コンパクトになる。
「おぉー、すごいなぁ。これならアタッシュケースに入れることができる」
「すごいでしょ?」
詩織さんは喜んでいた。
「あ、あと注意がある」
「ん?」
「マガジン式だけど、一発撃つごとにボルトを引いて。コールドバレットだから薬莢はでないが、リロードしないと撃てないわよ」
「わかった。ありがとう」
マスターは、アタッシュケースをテーブルに置く。
コルト・ガバメントのマガジンを入れたアタッシュケースを開き、コールドバレットが装填されたマガジンとコンパクトになったシュミット・ルビンM1911をアタッシュケースに入れた。
「詩織さん。ひとつ聞いていい?」
「なに?」
「なぜ、このライフル銃なんだ?」
「あら、ご不満?」
「いや、不満ではないが気になってね」
詩織さんは不敵な笑みを零しながら言う。
「1911だからよ」
それを聞いたマスターも笑う。
「あぁ、なるほどな。俺専用か」
「そうよマスター。いや、モルスさん」
「まさか、この場で裏の名前を言われるとはね」
マスターは、ジャケットの内ポケットから札束を出してテーブルに置く。
「毎度あり。またいつでもいらっしゃい」
マスターは右手でアタッシュケースを持ち、出口に向かいながら左手を軽く振った。
「あら?マスターさん。長かったね」
カウンターで店番していた瑠奈は、マスターに話しかけた。
「ちょっと、倉庫番を頼まれてね」
「へぇー、そうなんだ。あれ?右手に持ってる荷物って何?」
瑠奈はマスターが右手で持ってるアタッシュケースを見て疑問に思った。
「あぁ、これか。この中にドライフラワーが入っていて、俺の店に飾るんだ」
「そうなんだ」
「それじゃ、また」
マスターは瑠奈に挨拶して雑貨屋を後にする。




