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俺は、長い夢を見ていたようだ。
川を挟んだ向こう岸に、死んだおばあちゃんが狙撃銃であるモシン・ナガンを構えていた。
おいおい……孫である俺に対して、銃を構えるのか?
しかも、おばあちゃんは白い死装束を着ていて、真っ白な頭髪。
まるで「白い死神」と言われたシモ・ヘ○ヘだよ。
いや、日本人だからどちらかと言えば、あのМ16を愛用銃とし伝説的な狙撃手か。
……やめよう。
これ以上言えば、せっかく戻ってきたのに亜空間から狙撃されて、今度こそお陀仏になりそうだ。
「マスター!」
次は現世に降臨してしまった魔王様のお呼びだ。
まだ、痛みと瓶の感触が残っている頭を手でさすりながら休憩室を出る。
少しよろめきながら、彩華がいるバーカウンターに行くと彩華は客と会話していた。
「あら、マスターさん。なんか満身創痍な顔しているけど忙しいの?」
常連さんである女性客が心配そうに問いかけてくる。
「いやね。聞いてくださいよ詩織さん。うちの彩華が顎で私を使うんです」
「ちょっとマスター!」
女性客は笑い、彩華に言う。
「彩華ちゃん。だめよ。そんなことしたら」
「……すみません」
「そんなのは生ぬるいわ。そこにあるワインボトルで頭を叩く勢いでこき使いなさい」
……おや?
デジャヴかな。
俺、ウィスキー瓶で叩かれて、幽世で死んだおばあちゃんに狙撃されたんだよな……。
「心得ています!」
この上ないほど満面な笑みを見せる彩華。
それに、腹が立つほどいい返事。
この世界には鬼と魔物しかいないのか……。
夜も更けて月明かりが眩しく感じる。
満足そうな笑みを見せながら詩織さんが店を後にする。
表の看板を取り下げ、今日の「ノクターン」は終了した。
しかし、ここからが本当の仕事だ。
「彩華、坂田康二について何か分かったか?」
「えぇ、マスターのスマホをノートパソコンに繋いで免許証を調べてみたわ」
彩華は、ノートパソコンをカウンターに置いて開いた。
「データを抽出しているとき、なんかいかがわしい画像が出てきたが、それは後で聞く」
……お前は、何故に免許証だけでなく全データを抽出しているんだ。
あれは、俺のお気に入りの……。
いや、今はそう言ってる場合ではない。
標的である「坂田康二」についてだ。
「この男は、たしかに犯罪組織のリーダーみたいだね。組織名はオリュンポス」
「オリュンポス?ふざけた名前だな」
マスターは苦笑する。
彩華はノートパソコンを操作して、誰もが知っている白いハトが特徴のSNSを開く。
そこには、日常的な呟きや趣味、あとは宣伝などが数多くのユーザーが発信している。
この膨大な呟きの中に、異質を放つ呟きがあった。
「これ。これが闇バイトの募集なんだよ」
その文章をよく見てみる。
青森24日、夜運搬。三万。
なんだこれ?
まるで暗号文だ。
「このアカウントに直接メッセージ送ると詳細が届く仕組み。これで分かるのは今から三日後の夜に青森県のどこかで運搬する仕事があるみたいで、報酬が三万円だね」
「このアカウントは坂田康二か?」
「そう。ただ組織名がオリュンポスまでは分かったけど、どのくらいの勢力があるかは分からなかった」
「標的はあくまでも坂田康二だ。そこまで考えなくていい」
「そうね。わかったわ」
彩華は再びノートパソコンを操作する。
マスターは、自分が殴られたであろうウィスキー瓶を棚から取り出し、二つのグラスに注いた。
「あ、マスター」
「ん?なんだ?」
「今、オリュンポスについて調べてみたら、どうやら幹部会議があるみたいだよ」
「ほう。それに坂田康二も参加するのか?」
「可能性は高いよ。それも二日後に青森県のとあるビルで」
ウィスキーの入ったグラスを彩華に渡す。
「ありがとう」
「そのビルと幹部会議が開催される時間を調べておいてくれ」
「わかった。わかり次第連絡するよ」
マスターは、ウィスキーを飲み干す。
「よし。それじゃ明日の昼は大きな買い物をしてくるか。おれが不在の間、店番頼むよ」
彩華は、ウィスキーを一口呑んで咽る。
「これ……ストレート!?」
「もちろん」
……さっきのお返しだ。
「バカ」
「ま、頼むよ。それじゃ今日は休む」
マスターは右手を挙げて、ゆっくりと奥に行こうとした。
「あ、マスター。休む前にちょっといい?」
「ん?なんだ?」
マスターは、足を止めて彩華に振り向く。
「あの、いかがわしい画像は何かな?」
……これは、長い戦いになりそうだ。




