魔王降臨
マスターは、血の気が引いた。
しかし、このままいても何も変わらない。
目の前にあるのは、間違いなく我が城である「ノクターン」だ。
「ええい、ままよ!」
マスターは、意を決して扉を開く。
中に入ると、明かりは付いているが彩華がいない。
「……ただいま」
か細い声で挨拶する。
だが、返答はなく気配すらない。
「……よかった」
胸を撫で下ろした……その時。
「……ねぇマスター」
思わず姿勢を正すマスター。
体が動かない……いや、動けない。
だが、首だけは動くことができた。
ゆっくりと、冷たく突き刺さる声がする後ろを振り向くと……。
なんと、今入ってきた扉の横に存在だけで即死できそうな彩華が腕を組みながら仁王立ちしているではないか。
「ただいま……戻りました」
「ねぇマスター。今何時かな?」
室内の壁掛け時計を見ると、時刻は17時。
「17時みたいですね……はい」
彩華が、一歩また一歩と近づいてくる。
何か手を叩く音がする。
よく見ると、彩華はウィスキーが入っている瓶で、左手を叩いていた。
しかも、あのウィスキーは高いやつ……。
下がって距離を保ちたいが、まるで蛇に睨まれた蛙の状態で動けない。
「ねぇマスター。買い物はどうしたのかな?」
「き、聞いてくれ。これには深いわけがあるんだ」
「へぇー、何かな。教えて?」
距離をつめてくる彩華。
体の熱が伝わるほどの距離だ。
「坂田康二がスーパーで勤めていて免許証をスマホで写してきたんだ」
マスターは、ポケットからスマホを取り出し証拠を見せる。
「こ、これだ」
彩華はスマホを見て頷く。
「情報通りだね」
情報通り?
どういう事だ?……まさか。
「彩華。まさか知っていて俺を送ったのか?」
彩華は、不敵な笑みをする。
「私は情報専門。マスターは実行専門だからね」
「それなら、普通に言ってくれよ……」
彩華は、まるで憑依されたかのように無表情になる。
「で?買い物は?」
もう逃げられない。
覚悟を決めたマスター。
「……忘れました」
次の瞬間、鈍い音とともに視界が暗くなる。




