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モルス1911  作者: 古鳥居 日影
第一章
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昼行灯の試練

「マスター!」

「な、何だよ!急に……」

 昼間の「ノクターン」は閑古鳥が鳴いていた。

「ちょっと買い物に行ってきて!」

「え!俺が?彩華が行ってきてもいいんじゃ……」

「私は忙しいの!はい、これ」

 床掃除をしていた彩華は、ポケットから必要な品物を書いたメモを、マスターに渡す。

 メモを見てみると、トイレットペーパーに入浴剤、それから洗剤……。

 それに、スーパーも指定してる。

 マスターは、頭を掻きながら溜息をつく。

「おいおい……日用品の買い出しかよ」

 床掃除をしている彩華が、再びこちらを見る。

「……なにか?」

 普段は華奢な可愛い女性なんだが、時折、鬼女に変わる。

 持っているのが包丁じゃなくて良かったよ……。

「お、仰せのままに。行って参ります」

 マスターは、急いで着替えて外に出る。


 季節は秋であり、空気が乾燥していた。

 鬼女(彩華)から逃げるため、急いで出たのはいいが、上は黒いTシャツに下は半ズボン……。

 明らかに夏炉冬扇だ。

 後ろを振り返ると我が城である「ノクターン」だが、今は魔王城に化してしまい、貢ぎ物(買い物)をしないと開けてくれないだろう……。

「はぁ……、仕方ない。行くか……」

 季節を間違ったマスターは、指定されたスーパーへと身体を震わせながら行く。


 歩けば数分で着くはずのスーパーなのに、寒さと周りの冷ややかな目線を感じてなかなか進めず、ようやく辿り着いた。

 中に入ると、陽気な曲が店内に響いており、そして何より暖かった事に心から感謝をした。

 しかし、感動している場合ではない。

 時間が経つにつれて、鬼女が魔王化してしまう。

 そうなってしまえば、貢ぎ物だけでは済まない。

 課金して、レアアイテムを献上しなければならなくなる。

 レジカゴを手に取り、入浴剤がある棚へ向かう。

 彩華に渡された紙には「入浴剤」とだけ書いており、それ以外の詳細が示されていなかった。

「ラベンダー、ヒノキ。いや……それともローズにしようか……」

 一際目立つ、夏スタイルの男が、種類豊富な入浴剤の棚と、にらめっこしている。

「お客様。どうされましたか?」

 集中していたせいか、気づかなく少し驚いた。

「あ……いえ、どの入浴剤がいいか悩んでおりまして……」

 返答しながら、横を見ると見覚えのある男性だった。

「どうしました?」

 こいつ……写真に写っていた男だ。

 まさか、ここで働いているとは夢にも思わなかった。

「いえ、店員さん。何かオススメありますか?」

「それでしたら、ちょっとお高いですが、この強炭酸な入浴剤がオススメですよ」

 こいつ、裏では下衆な事しているくせに仕事はちゃんとしてやがる……。

「なるほど。わかりました。ありがとうございました」

「また何かあったら気軽にお声かけてください」

 そのまま男は軽くお辞儀をして、その場から立ち去った。

 買い物は後回しだ。

 あの男を追跡しなくてはならない。

 レジカゴを、近くにまとめて置いている場所に置き、男の後を付ける。

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