昼行灯の試練
「マスター!」
「な、何だよ!急に……」
昼間の「ノクターン」は閑古鳥が鳴いていた。
「ちょっと買い物に行ってきて!」
「え!俺が?彩華が行ってきてもいいんじゃ……」
「私は忙しいの!はい、これ」
床掃除をしていた彩華は、ポケットから必要な品物を書いたメモを、マスターに渡す。
メモを見てみると、トイレットペーパーに入浴剤、それから洗剤……。
それに、スーパーも指定してる。
マスターは、頭を掻きながら溜息をつく。
「おいおい……日用品の買い出しかよ」
床掃除をしている彩華が、再びこちらを見る。
「……なにか?」
普段は華奢な可愛い女性なんだが、時折、鬼女に変わる。
持っているのが包丁じゃなくて良かったよ……。
「お、仰せのままに。行って参ります」
マスターは、急いで着替えて外に出る。
季節は秋であり、空気が乾燥していた。
鬼女から逃げるため、急いで出たのはいいが、上は黒いTシャツに下は半ズボン……。
明らかに夏炉冬扇だ。
後ろを振り返ると我が城である「ノクターン」だが、今は魔王城に化してしまい、貢ぎ物をしないと開けてくれないだろう……。
「はぁ……、仕方ない。行くか……」
季節を間違ったマスターは、指定されたスーパーへと身体を震わせながら行く。
歩けば数分で着くはずのスーパーなのに、寒さと周りの冷ややかな目線を感じてなかなか進めず、ようやく辿り着いた。
中に入ると、陽気な曲が店内に響いており、そして何より暖かった事に心から感謝をした。
しかし、感動している場合ではない。
時間が経つにつれて、鬼女が魔王化してしまう。
そうなってしまえば、貢ぎ物だけでは済まない。
課金して、レアアイテムを献上しなければならなくなる。
レジカゴを手に取り、入浴剤がある棚へ向かう。
彩華に渡された紙には「入浴剤」とだけ書いており、それ以外の詳細が示されていなかった。
「ラベンダー、ヒノキ。いや……それともローズにしようか……」
一際目立つ、夏スタイルの男が、種類豊富な入浴剤の棚と、にらめっこしている。
「お客様。どうされましたか?」
集中していたせいか、気づかなく少し驚いた。
「あ……いえ、どの入浴剤がいいか悩んでおりまして……」
返答しながら、横を見ると見覚えのある男性だった。
「どうしました?」
こいつ……写真に写っていた男だ。
まさか、ここで働いているとは夢にも思わなかった。
「いえ、店員さん。何かオススメありますか?」
「それでしたら、ちょっとお高いですが、この強炭酸な入浴剤がオススメですよ」
こいつ、裏では下衆な事しているくせに仕事はちゃんとしてやがる……。
「なるほど。わかりました。ありがとうございました」
「また何かあったら気軽にお声かけてください」
そのまま男は軽くお辞儀をして、その場から立ち去った。
買い物は後回しだ。
あの男を追跡しなくてはならない。
レジカゴを、近くにまとめて置いている場所に置き、男の後を付ける。




