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恋人  作者: 纏天
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第四章 新規取引先

与信とか企業調査とか単語がでてくると、仕事がチラついて少し疲れました笑

翌日から仕事に戻った。


紗良がいなくなったことが頭から離れたわけではない。


それでも、仕事は待ってくれない。


俺には、以前からアプローチをかけている大きな案件があった。


東京の一等地に水面下で進んでいる、大規模な再開発プロジェクト。


そのプロジェクトに関わる資材を、一括で受注する。


それが、俺が追っていた案件だった。


資材だけで、数十億円が動く。


社内で、自分の年齢の営業が扱う案件としては、異例の金額。


会社としても、そう簡単に若手に任せる案件ではなかった。


しかも、今回の元請企業とは、それまで会社としても取引実績がなかった。


つまり、うちには取引口座がなかった。


口座がなければ、そもそも取引ができない。


俺は、そこから動いた。


先方へ何度も足を運んだ。


担当者と話をする。


必要な資料を揃える。


社内審査を通す。


先方にも会社としての審査をしてもらう。


一つずつ、取引を始めるための条件を整えていった。


そして、ようやく口座が開設できた。


新規取引先として、正式に取引できるところまで持っていった。


ここまで来るだけでも、それなりの時間がかかった。


でも、俺が欲しいのは新規取引口座開設の実績じゃない。


数十億の受注だった。


そこからは、さらに細かい話が続いた。


見積。


仕切り価格。


納期。


各メーカーとの調整。


現場サイドからの情報収集。


何度も条件を詰めた。


競合も数多いる。


最後まで油断はできない。


先方の反応は悪くなかった。


むしろ、かなり前向きだった。


俺自身も、


「これは、いける」


と思っていた。


もしこの案件を取れれば、俺にとって大きな実績になる。


数十億円規模の案件を、新規口座から立ち上げて受注する。


この年齢で、そうそう達成できる仕事ではない。


そして、その案件が最終段階に入った頃。


先方から会食の話が出た。


今回の会食は、会社同士の付き合いとしても大きな意味がある。


俺一人で行くような話ではなかった。


こちらから出席するのは、


社長。


営業本部長。


そして、俺。


先方は、


河村会長。


小宮社長。


斉藤部長。


六人で食事をすることになった。


当日。


会食の開始時間より30分ほど前に店に入った。


個室に通され、三人で先方を待つ。


社長が時計を見る。


「そろそろですね」


「はい」


営業本部長が俺を見る。


「今日は、あまり喋りすぎるなよ」


「分かってます」


「でも聞かれたら、ちゃんと答えろ」


「はい」


今回の目的は、あくまで会社のトップ同士の顔合わせだ。


俺は担当者として、必要なところで話をする。


それくらいのつもりだった。


しばらくすると、店員が個室の扉を開けた。


「お待たせいたしました」


斉藤部長、小宮社長、そして河村会長。


俺たちは立ち上がった。


「本日はありがとうございます」


社長が三人と挨拶を交わす。


続いて営業本部長。


最後に俺も頭を下げた。


「いつもお世話になっております。玉田です。本日はお忙しい中ありがとうございます」


河村会長は俺を見ると、軽く笑った。


「玉田さんですね」


「はい」


「今回の件、かなり動いてくれていると聞いています」


「ありがとうございます」


「こちらこそ、いろいろ無理を言ってしまって」


「いえ、とんでもないです」


最初は、当然仕事の話だった。


再開発の進捗。


現在の発注スケジュール。


資材の数量。


納期。


価格。


具体的な話を一つずつ確認していく。


俺も担当者として答える。


営業本部長が補足する。


社長が全体をまとめる。


話は、思っていたより順調に進んだ。


河村会長も、


「発注については、御社で前向きに考えています」


と言った。


その言葉を聞いた時、俺は内心で少しだけ拳を握った。


あと少し。


そう思った。


会食は、そのまま穏やかに進んだ。


会食が終わる頃には、最初の緊張感もかなりなくなっていた。


そして河村会長が言った。


「もう一軒、どうですか」


社長が笑う。


「ぜひ、お願いします」


そうして、俺たちは二軒目へ向かった。


二軒目は、一軒目よりも少しくだけた店だった。


酒も進み、仕事の話も少しずつ減っていく。


河村会長が昔の業界の話をする。


社長がそれに答える。


営業本部長も話に入る。


俺は聞きながら酒を飲んでいた。


しばらくして、河村会長が時計を見る。


「そろそろ来ると思うんだけどな」


「どなたですか?」


社長が聞いた。


「息子です」


俺は、その言葉を聞きながらグラスを置いた。


河村会長の息子。


それから、しばらくして。


店の扉が開いた。


「遅くなり申し訳ございません。」


男が入ってきた。


三十代くらい。


スーツ姿だった。


河村会長が手を上げる。


「おう。来たか」


男は俺たちに頭を下げた。


「こちらが今回の案件を担当してくれている玉田さんだ」


河村会長に紹介される。


俺は立ち上がった。


「初めまして。玉田です」


男はこちらを見る。


「初めまして」


そして、名刺を差し出してきた。


「河村です。」


俺も名刺を差し出した。


「玉田と申します。以後よろしくお願い致します」


河村は、まじまじと名刺を見て


「こちらこそ」


湊も名刺を見た


取締役 営業本部長 河村 隆 


この時、俺は違和感を感じていた。


何に対してかは分からない。


河村会長の息子。


取締役 営業本部長


発注権限は、河村会長にある。


不安を飲み込むようにグラスに手を伸ばした。

読んでいただきありがとうございます!!!

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