↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人  作者: 纏天
PR
2/10

第二章 消えた痕跡

まだまだ書きます。

どうぞお付き合い下さい。

紗良が消えた。


そう理解してから、俺は何をすればいいのか分からなかった。


事故なのか。


事件なのか。


それとも――


自分の意思で、俺の前からいなくなったのか。


考えても答えは出ない。


だったら、探すしかない。


総務部長と話した後、課長にも話を共有して午前休をもらい警察へ行った。


⸻


「恋人です」


そう言った。


目の前にいた警察官は、俺の話を黙って聞いていた。


紗良が昨夜から帰ってこないこと。


連絡がつかないこと。


警察官は、いくつか質問をした。


「ご両親からの届け出はありますか?」


と聞かれた。


「分かりません」


「ご両親の連絡先は?」


「……それも分かりません」


警察官の表情が少し変わった。


「彼女のご実家は?」


俺は答えられなかった。


「……分かりません」


その瞬間、自分でも驚いた。


七年付き合っている。


同棲もしている。


毎朝、一緒に飯を食っている。


帰る家も同じ。


なのに。


俺は、紗良の実家を知らなかった。


⸻


警察からは、紗良が成人していること。


事件や事故に巻き込まれたと断定できる状況ではないこと。


そういったことを理由に、すぐに大きく動くことは難しいと言われた。


もちろん、必要な確認はする。


何か情報があれば連絡する。


そう言ってくれた。


でも、それ以上のことは何もできなかった。


俺が恋人だからといって、家族と同じように扱われるわけではない。


当然だ。


頭では分かっていた。


でも、俺にとって七年間一緒にいた恋人が突然消えた。


それなのに、


「恋人」


というだけでは、できることには限界がある。


警察を出たあと、俺は一人で立っていた。


どうすればいい。


どこへ行けばいい。


まず、紗良の実家だ。


そう思った。


実家なら、何か分かるかもしれない。


両親なら、何か聞いているかもしれない。


紗良がどこへ行ったのか。


なぜ会社を辞めたのか。


俺に何も言わずに消えた理由も。


でも――


俺は、紗良の実家を知らない。


住所も。


電話番号も。


両親の名前すら、知らない。


「……なんやねん、俺」


思わず笑いが出た。


七年付き合って。


一緒に暮らして。


それでも、紗良の家族のことを何も知らない。


俺たちは、仕事とプライベートを分けていた。


紗良がそうしたいと言ったから。


会社でも普通の同僚。


家では恋人。


それで十分だと思っていた。


でも今になって、その距離が怖かった。


⸻


俺は家へ戻った。


まず、紗良の部屋を見る。


クローゼット。


ベッド。


一つずつ確認していく。


何かないか。


実家の住所。


家族の写真。


昔の手紙。


卒業アルバム。


何でもいい。


紗良につながるものを探した。


でも――


何もなかった。


正確には、何も「残っていなかった」。


服はある。


化粧品もある。


普段使っていたものもある。


でも、俺が探しているものだけがない。


家族に関するもの。


学生時代の写真。


過去の住所。


そういうものが、きれいに消えていた。


「……なんで?」


俺は最後に机の引き出しを開けた。


何度も見たことがある場所だった。


それなのに、今まで気にしたこともなかった。


奥まで探す。


何もない。


実家につながる情報は見つからなかった。


そこで、俺は初めて気づいた。


紗良は、自分の過去をほとんど俺に見せていなかった。


俺が知らなかっただけなのか。


それとも――


知られないようにしていたのか。


⸻


その日の午後。


俺は会社へ戻った。


自分の席に座っても、仕事なんて頭に入らなかった。


目の前のパソコンを開く。


画面を見る。


文字を読んでも、何も入ってこない。


俺は総務部長のところへ向かった。


「部長」


「どうした?」


「お願いがあります」


総務部長が顔を上げる。


「新見さんの入社時の資料を見せてもらえませんか?」


一瞬、部長が黙った。


「入社時の資料?」


「はい。住所とか、緊急連絡先とか。実家の情報が分かるものがあれば」


部長は俺を見た。


たぶん、俺が何をしようとしているのか分かったのだと思う。


「……分かった。ただし、個人情報だからな」


「分かってます」


少しして、総務部長が一つのファイルを持ってきた。


俺は、それを受け取った。


紗良の入社時の書類。


氏名。


生年月日。


住所。


緊急連絡先。


一つずつ確認していく。


そして――


住所の欄で、俺の手が止まった。


そこには、こう書かれていた。


千葉県。


「……千葉?」


思わず声が出た。


総務部長が言った。


「そうだ。入社した時点では、千葉の住所になっている」


俺は、その住所を見つめた。


千葉県千葉市美浜区


俺の頭の中に、何かが引っかかった。


でも――


嫌な感じがした。


ただ、その文字を見た瞬間。


頭の奥に、何かがちらついた。


人のざわめき。


誰かの叫び声。


そして――


赤いもの。


俺は目を閉じた。


一瞬だけ見えたものは、すぐに消えた。


総務部長が俺を見る。


「玉田君、大丈夫か?」


「……はい」


俺はそう答えた。


でも、自分では分かっていた。


大丈夫じゃないことを。

読んでいただきありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。