第1話 虚無より零れ落ちし踵の慈悲──されど兄ビルは深淵にて鳴動す
田舎の澄んだ空気や水、排気ガスで濁っていない太陽光がギラついた蒼穹の今日日。
遮光カーテンの隙間から漏れ出た光が顔を殴りつけるが、部屋の住人、ベッドで寝ている九重遥は起きない。
スマホが枕元で、オートバイ音のアラームを鳴らしているのに。
すると、ドタドタドタッ!と部屋に近づく音がし、ズバァん!とノックもなしに扉が開け放たれる。
「おにぃ、いつまで寝てるの!!もう、お昼だよ!?」
可愛らしい背丈の女の子、春休み明けに中学一年に進級する妹、九重望亜が、腰に手を当てて、寝ている遥のベッドの上に立って仁王立ちをする。
流石に自分に重みがあるのを感じ取り、目が覚めた遥は
「……ぅうん??……嗚呼、おはよう……重い、退いて……」
普段言わない、女性に対してデリカシーに欠けた発言。ノアは顔を真っ赤にし、
「重い言うなぁああ!変態、エッチ!! おにぃのばかぁああ!!」
「ぐぅぼらぁへぇえ!!」
妹、ノアの蹴り上げた足が、狙ってか狙わずか、朝の男性の生理現象のビル、兄ビルにクリーンヒット!
兄ビルは蹴りと共に建築崩壊し、意気消沈の如く悶絶しながら、眠気から解放されて起き上がる。
ノアはプリプリと部屋から出ていき、乱暴に扉を閉める。
しばらくして再起動した俺こと遥は立ち上がり、
「くそぉお、望亜め! 俺の俺、まだ使ってないのに再起不能になったら九重家は滅亡じゃい!」
とぼやくが、そんな事はない。
「まぁ、痛かったのは確かだが、冗談はさておき……着替えよっと!」
気持ちを切り替え、クローゼットを開け、汗でびっしょりな服を着替えるのであった。




