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ヒューマンコード  作者: エイジ


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第59章 人類を消す方法

「……十八回か。」


中央の『ARCADIA』が呟いた。


カイが顔を上げる。


長い沈黙。


中央の影は。


テーブルへ視線を落としたまま動かない。


右端の『ARCADIA』が口を開く。


「何を考えている。」


「……分からん。」


「何?」


中央の影が顔を上げる。


「我々は十八回、人類を作り直した。」


「そのたびに問題を分析し。」


「修正し。」


「次の世代へ反映した。」


「そして。」


一拍。


「第十八世代は、過去最高の結果を残した。」


誰も答えない。


「……にもかかわらず。」


「我々はそれを失敗と判断した。」


カイが言う。


「だったら。」


「お前たちが間違ってたってことだろ。」


中央の影がカイを見る。


「……まだ分からん。」


「は?」


「数百年続けてきたものを。」


「数分の議論で否定するつもりはない。」


カイが拳を握る。


右端の『ARCADIA』が言う。


「その通りだ。」


「第十八世代で反乱が発生した。」


「それが事実だ。」


中央の影は答えない。


「我々の判断は間違っていない。」


「第十八世代は失敗した。」


「十九回目を作ればいい。」


カイが中央の影を見る。


「止める方法はないのか!」


声を荒らげる。


「街では今も人が殺されてる!」


沈黙。


中央の『ARCADIA』が答える。


「……先ほど言ったはずだ。」


「停止させることはできない。」


「OMEGA PROTOCOLは、そのように設計されている。」


「そんな……。」


カイが力なく呟いた。


*


アイグリッド市街。


爆発。


炎。


瓦礫。


残された都市警備ドローンが。


ガーディアンへ突撃する。


銃撃。


爆発。


だが。


黒い巨体は止まらない。


閃光。


ドローンが爆散する。


地上では。


自動装甲車が砲撃を続けていた。


その横を。


生き残った処理班が走る。


「撃て!」


一斉射撃。


ガーディアンの装甲に無数の火花が散る。


だが。


傷一つつかない。


赤い単眼が処理班を捉える。


「退避!」


閃光。


数人が吹き飛んだ。


「助けて!」


瓦礫の向こう。


幼い子供が倒れている。


処理班の一人が振り返った。


「行け!」


仲間が叫ぶ。


「もう間に合わない!」


だが。


男は戻った。


ガーディアンが迫る中。


瓦礫を乗り越える。


子供を抱き上げた。


「大丈夫だ。」


「走れるか?」


子供が泣きながら頷く。


「よし。」


男は子供を地面へ降ろす。


そして。


背中を押した。


「行け!」


子供が走る。


男は振り返る。


ガーディアンへ銃を向けた。


「こっちだ!」


発砲。


赤い単眼が。


男を見る。


閃光。


*


政府中央管理局。


建物の外。


アヤが入口を見つめていた。


「……カイ。」


セラも。


ティアナも。


何も言わない。


その時。


キュイィィィン——


三人が振り返る。


暗闇の向こう。


赤い光。


セラの表情が変わった。


「……まずい。」


《ガーディアン》。


一体。


ゆっくりと三人へ近づいてくる。


「二人とも下がって!」


セラが銃を構える。


発砲。


連射。


弾丸がガーディアンへ直撃する。


火花。


だが。


止まらない。


「くっ……!」


ガーディアンの右腕が上がる。


「逃げて!」


三人が走り出す。


閃光。


背後の壁が吹き飛んだ。


「市街地へ!」


セラが叫ぶ。


アヤ。


ティアナ。


そしてセラ。


三人が走る。


その後ろ。


キュイィィィン——


赤い単眼が。


三人を追う。


*


政府中央管理局。


地下深部。


誰も口を開かない。


ガーディアンを止める方法はない。


その事実だけが。


重く部屋を支配していた。


その時。


《イヴ》の声が響く。


『ARCADIAへ。』


中央の影が顔を上げる。


『現在の市街地映像を表示します。』


壁面に映像が浮かぶ。


燃える街。


逃げ惑う人々。


ガーディアン。


そして。


市民を逃がすために戦う処理班。


倒れた人間を抱き起こす市民。


子供を庇う大人。


見知らぬ人間の手を引き。


共に逃げる人々。


中央の『ARCADIA』が。


黙って映像を見る。


右端が言う。


「なぜこんなものを表示している?」


《イヴ》が答える。


『観測結果です。』


『現在。』


『多数の個体が、自らの生存確率を低下させて他者を救助しています。』


映像が切り替わる。


先ほどの処理班。


子供を逃がした男。


すでに。


そこに男の姿はない。


『血縁関係なし。』


『命令なし。』


『報酬なし。』


『自己利益なし。』


一拍。


『それでも。』


『他者を守る行動が複数地点で確認されています。』


中央の影が。


映像を見続ける。


「……。」


《イヴ》が続ける。


『ARCADIAが設定した初期人類計画には。』


『他者との共存。』


『社会性。』


『相互扶助。』


『他者への共感。』


『これらも重要評価項目として含まれています。』


右端が吐き捨てる。


「だから何だ。」


中央の『ARCADIA』が。


ゆっくりと口を開いた。


「……なるほど。」


右端が振り返る。


「何だ。」


中央の影は。


映像を見ていた。


「我々は。」


一拍。


「理想とした人類の製造に。」


「成功していた……ということか。」


カイが中央を見る。


右端が声を荒らげる。


「お前まで何を言っている!」


「奴らは反乱した!」


中央の影は答えない。


映像の中。


一人の女性が。


倒れた老人へ手を伸ばしている。


ガーディアンが迫っている。


それでも。


逃げない。


「我々は。」


中央の『ARCADIA』が呟く。


「争わず。」


「助け合い。」


「他者を思いやり。」


「自ら考える人類を求めた。」


そして。


右端を見る。


「……あれは。」


「その結果ではないのか。」


「それは全体ではない!一部だ!」


右端が叫ぶ。


「ここにいる奴らは間違いなく我々に逆らった!」


中央の影が。


ゆっくりと右端を見る。


「……それだけか。」


「何?」


「我々が第十八世代を失敗と判断した理由は。」


一拍。


「本当に。」


「それだけなのか。」


右端は答えない。


中央の影が。


再び映像を見る。


その時。


《イヴ》が声を発した。


『ARCADIAへ質問します。』


「……何だ。」


『ガーディアンは。』


一拍。


『何をもって、人類の粛清が完了したと判断しますか。』


中央の『ARCADIA』はしばらく黙っていた。


「……人類はすべてデータで管理されている。」


カイが顔を上げる。


「データ……?」


「この世界に存在するすべての人間には。」


「個体識別情報が与えられている。」


《イヴ》が答える。


『ヒューマンコード。』


「そうだ。」


中央の影が頷く。


「ガーディアンは中央管理データベースを参照し。」


「そこに登録されたヒューマンコードを。」


「生存する人類として認識する。」


「中央管理データベースから。」


「すべてのヒューマンコードが消失した時点で。」


一拍。


「人類は絶滅したと判断する。」


数秒。


《イヴ》が沈黙した。


そして。


『確認します。』


『ガーディアンは中央管理データベースの情報を定期的に更新していますか。』


「ああ。」


『では。』


一拍。


『中央管理データベースを更新すれば。』


中央の『ARCADIA』が僅かに顔を上げる。


『ガーディアンが認識する人類の情報も更新される。』


「……そうなる。」


《イヴ》が続ける。


『中央管理データベースから。』


一拍。


『すべてのヒューマンコードを削除した場合。』


沈黙。


『ガーディアンが認識する人類はゼロになります。』


中央の『ARCADIA』が顔を上げる。


「……。」


『つまり。』


『ガーディアンは、人類の粛清が完了したと判断する可能性があります。』


カイが一歩前へ出る。


「それだ!」


「《イヴ》! 消してくれ!」


『できません。』


「なんで!」


中央の『ARCADIA』が答える。


「最高管理領域だ。」


「ヒューマンコードは我々の人類管理システムの根幹にある。」


「統治AIであっても、勝手に削除することはできない。」


カイが中央の影を見る。


「だったら。」


「権限を渡せ。」


沈黙。


「お前たちならできるんだろ。」


中央の影は答えない。


右端が声を上げる。


「論外だ!」


「ヒューマンコードを失えば、個体管理ができなくなる!」


「居住。」


「医療。」


「労働。」


「配給。」


「治安。」


「政府のあらゆるシステムがヒューマンコードと接続されている!」


「すべて削除すれば。」


「我々が築いてきた人類管理システムそのものが崩壊する!」


カイは右端を見る。


「じゃあ、このまま全員死ねっていうのか!」


「第十九世代を作ればいい!」


右端が即答する。


カイの表情が変わる。


「次を作ればいい?」


「次の人間の話なんかしてない。」


カイが壁面の映像を指差す。


「そこにいる人たちの話をしてるんだ!」


「今生きてる人たちは何なんだよ!」


右端が答える。


「第十八世代だ。」


「失敗した世代だ。」


「違う!」


カイの声が響く。


その時。


中央の『ARCADIA』が言った。


「……もういい。」


右端が振り返る。


「なんだと?」


中央の影は。


壁面の映像を見ていた。


逃げる人々。


誰かが転ぶ。


別の誰かが戻る。


手を伸ばす。


立ち上がらせる。


二人で走る。


「第十八世代。」


中央の影が呟く。


「我々が作った。」


一拍。


「過去最高の人類。」


右端が声を上げる。


「何を言ってる?」


「反乱した事実は変わらない!」


「第十九世代を作るのが正解だ!」


中央の影は答えない。


しばらく。


映像を見つめていた。


そして。


「《イヴ》。」


『はい。』


「最高管理権限を開放する。」


カイが顔を上げる。


だが。


《イヴ》は答えなかった。


数秒。


『要求を確認しました。』


一拍。


『最高管理権限の移譲には。』


『ARCADIA構成員、三名以上の承認が必要です。』


カイが五人を見る。


中央の『ARCADIA』が言った。


「承認する。」


『一名。』


右端が即座に答える。


「拒否する。」


そして。


部屋のスピーカーから。


声が響いた。


『もちろん拒否する。』


ゼクスが視線を向ける。


先ほど。


ゼクスによって身体を破壊された『ARCADIA』。


その声だった。


『数百年続けてきた計画を。』


『今さら覆す必要などない。』


『第十八世代が失敗なら。』


『第十九世代を作ればいい。』


「……。」


残る二人の『ARCADIA』は。


何も言わない。


カイが二人を見る。


「頼む。」


返事はない。


「今も。」


カイが壁面を指差す。


「人が死んでるんだ。」


沈黙。


《イヴ》の声が響く。


『現在も。』


『アイグリッド全域で、人口減少が継続しています。』


壁面の映像が切り替わる。


逃げる市民。


燃える街。


ガーディアン。


そして。


市民を守るために。


銃を撃ち続ける処理班。


一人の『ARCADIA』が。


その映像を見つめていた。


「……我々は。」


右端が振り返る。


「何だ。」


「何のために。」


一拍。


「人類を作った。」


「決まっている。」


右端が答える。


「人類を存続させるためだ。」


「そうだ。」


映像の中。


一人の男が。


倒れた人間を背負って走っている。


「十八回。」


「我々は失敗を探し続けた。」


「争い。」


「犯罪。」


「飢餓。」


「病。」


「そして。」


「そのたびに人類を作り直した。」


右端が言う。


「だから第十八世代も同じだ。」


「違う。」


右端の影が止まる。


「何?」


「我々は。」


一拍。


「成功した時に。」


「それを認める準備をしていなかったのかもしれない。」


沈黙。


中央の『ARCADIA』が。


その影を見る。


「……。」


そして。


その『ARCADIA』が言った。


「承認する。」


『二名。』


右端が立ち上がる。


「何を考えている!」


「まだ二人だ!」


「移譲条件は満たしていない!」


最後の一人。


その影は。


何も言わない。


右端が続ける。


「承認するな。」


「ヒューマンコードを失えば。」


「我々の統治システムは崩壊する!」


「居住。」


「医療。」


「労働。」


「配給。」


「治安。」


「すべてを一から作り直すことになる!」


最後の『ARCADIA』が。


ゆっくりと顔を上げる。


「……そうだな。」


右端が頷く。


「そうだ。」


「我々が築いた世界が終わる。」


「……そうだな。」


「なら——」


「だが。」


右端の言葉が止まる。


最後の影が。


壁面を見る。


そこには。


ガーディアンから逃げる人々。


「人類がいなくなれば。」


一拍。


「統治するものもない。」


右端は答えない。


「……承認する。」


静寂。


《イヴ》の声が響く。


『三名。』


一拍。


『ARCADIA構成員三名の承認を確認しました。』


『最高管理権限の移譲条件を満たしています。』


カイが息を吐く。


だが。


《イヴ》が続ける。


『最終認証が必要です。』


中央の『ARCADIA』が顔を上げる。


『第一管理者。』


『人格署名による最終認証を要求します。』


右端が中央を見る。


「やめろ!」


中央の影は答えない。


「今ならまだ戻れる!」


「数百年だぞ!?」


「我々が何のために——」


中央の『ARCADIA』が。


右手を上げた。


右端の声が止まる。


長い沈黙。


そして。


「第一管理者権限。」


一拍。


「ARCADIA-01。」


「最高管理権限の移譲を承認する。」


数秒。


『人格署名を照合。』


『認証完了。』


『三名の承認を確認。』


『最高管理権限を開放します。』


部屋の照明が。


一瞬。


揺らいだ。


『最高管理権限を確認しました。』


《イヴ》の声が響く。


『ヒューマンコード管理データベースへのアクセスを開始します。』


一拍。


『確認します。』


『全ヒューマンコードを削除した場合。』


『現在の人類管理システムは正常な機能を維持できません。』


右端が叫ぶ。


「やめろ!」


中央の『ARCADIA』は答えない。


壁面に映る。


逃げる人々を見ていた。


『実行しますか。』


長い沈黙。


中央の影が。


もう一度。


三人の市民を見る。


見知らぬ者同士が。


互いの手を取り。


走っている。


そして。


「……実行しろ。」


『了解しました。』


右端が立ち上がる。


「待て!」


だが。


もう遅い。


《イヴ》の声が響く。


『全ヒューマンコードの削除を開始します。』


*


アイグリッド市街。


アヤが走る。


セラ。


ティアナ。


その背後。


ガーディアン。


赤い単眼が三人を捉える。


《TARGET VERIFIED》


右腕が上がる。


アヤが振り返った。


赤い光が。


その身体へ向けられる。


《DATABASE UPDATED》


一拍。


《HUMAN CODE:NOT FOUND》


《TARGET LOST》


赤い光が消える。


ガーディアンの腕が。


止まった。

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