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ヒューマンコード  作者: エイジ


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58/61

第58章 成功の条件

アイグリッド市街。


悲鳴が響いていた。


「逃げろ!」


「こっちだ!」


人々が通りを走る。


その背後。


キュイィィィン——


黒い巨体。


《ガーディアン》。


赤い単眼が逃げる人々を捉える。


右腕が上がる。


赤い光。


閃光。


「きゃあああ!」


数人が崩れ落ちた。


それでも人々は走る。


行き先など分からない。


ただ。


ガーディアンから少しでも遠くへ。


別の通り。


そこにもガーディアン。


さらに別の通りにも。


逃げ道は少しずつ失われていた。


その時だった。


上空から無数の飛行音が響いた。


市民の一人が空を見る。


「……何だ?」


都市警備用ドローン。


一機。


二機。


十機。


さらにその後ろから数十機。


編隊を組みながらガーディアンへ向かっていく。


『攻撃対象を確認。』


『市民は直ちに退避してください。』


『攻撃を開始します。』


一斉射撃。


無数の弾丸がガーディアンへ降り注ぐ。


爆発。


火花。


煙。


人々が足を止める。


「政府軍……?」


「助けに来たのか?」


煙の中。


赤い光。


ガーディアンの単眼。


消えていない。


右腕が上がる。


閃光。


一機。


二機。


三機。


ドローンが次々と撃ち抜かれる。


炎を上げながら街へ墜落していく。


「そんな……」


地上。


交差点から複数の車両が現れた。


都市防衛用自動装甲車。


砲塔が一斉にガーディアンへ向く。


轟音。


砲弾が直撃する。


爆発。


だが。


ガーディアンは歩き続ける。


一体が装甲車へ近づく。


巨大な腕を振り下ろした。


轟音。


装甲車が横転する。


さらに一撃。


車体が潰れる。


別のガーディアンがビームを放つ。


装甲車が真っ二つに切断された。


『攻撃継続。』


残されたドローンが再び突撃する。


だが。


一機。


また一機。


撃ち落とされていく。


市民の一人が呟いた。


「……強すぎる。」


その言葉を聞いた者たちの表情から。


わずかに戻りかけた希望が消えた。


「逃げろ!」


再び。


人々が走り始める。


その後ろを。


赤い単眼が追っていた。


*


政府中央管理局。


地下深部。


カラン……


床に転がった白い仮面。


壁際には。


胸部を破壊された『ARCADIA』が倒れている。


火花。


煙。


ゼクスは銃を構えたまま。


残された四人へ向けていた。


「次は。」


「誰だ。」


沈黙。


だが。


誰一人として慌てる様子はなかった。


右端の『ARCADIA』が小さくため息を吐く。


「……やはり。」


「君達、第十八世代は失敗作だな。」


ゼクスの目が細くなる。


「実に野蛮だ。」


その時だった。


『まったくだ。』


カイが振り返る。


部屋のどこかに設置されたスピーカー。


そこから聞き覚えのある機械音が響いていた。


『よくも大事な身体をぶっ壊してくれたな。』


カイの表情が凍る。


「……お前。」


倒れている左端の『ARCADIA』。


その声だった。


『数百年も世話になった身体だ。』


『それなりに愛着はあったんだがな。』


中央の『ARCADIA』が静かに言った。


「無意味だ。」


「我々にとって、この身体はただの入れ物にすぎない。」


「人格も。」


「記憶も。」


「意識も。」


「すべて保存されている。」


倒れた身体から火花が散る。


「新しい身体を作ればいい。」


中央の『ARCADIA』がゼクスを見る。


「だから。」


「君の脅迫には何の意味もない。」


ゼクスは何も答えなかった。


カイが一歩前へ出る。


「……この後。」


『ARCADIA』を見る。


「世界をどうするつもりだ。」


「先ほど説明したはずだ。」


中央の『ARCADIA』は迷いなく答える。


「ガーディアンが第十八世代をリセットする。」


「すでに市街地にも展開している。」


「粛清は始まっているだろう。」


カイの表情が変わる。


アヤ。


セラ。


ティアナ。


そして。


街に暮らす人々。


「……くっ。」


カイが銃を向ける。


「止めろ!」


『ARCADIA』は動かない。


「今すぐ止めろ!」


中央の『ARCADIA』が静かに首を横へ振った。


「できない。」


「……何?」


「OMEGA PROTOCOLは不可逆だ。」


「一度起動すれば停止命令は受け付けない。」


カイが言葉を失う。


「我々自身にも止めることはできない。」


「そんな……」


「停止条件は一つ。」


一拍。


「第十八世代の完全消滅。」


カイの銃口がゆっくりと下がる。


「命令したお前たちにも……止められないのか。」


「そう設計した。」


「なぜ……。」


「迷いを排除するためだ。」


中央の『ARCADIA』は淡々と答える。


「一度失敗と判断した世界に、後戻りする必要はない。」


カイは何も言えなかった。


その時。


『現在、ガーディアンの停止方法を解析しています。』


《イヴ》。


全員が顔を上げる。


『都市警備ドローン及び自動装甲車による迎撃を実行中。』


『しかし。』


『現在の政府保有装備による物理的破壊は困難と判断します。』


右端の『ARCADIA』が鼻で笑った。


「やれやれ。」


「統治AIまで失敗作か。」


「人類リセットが完了したら、まずは統治AIの見直しから始める必要がありそうだな。」


《イヴ》は答えなかった。


代わりに。


数秒後。


静かな声が響く。


『ARCADIAへ質問します。』


「何だ。」


『第十八世代を失敗と判定した理由を提示してください。』


右端の影が即答する。


「反乱だ。」


『具体的に。』


「統治AIへ侵入し。」


「政府施設を襲撃し。」


「我々へ武器を向けた。」


『確認しました。』


一拍。


『では、第一世代の成功条件を提示します。』


部屋の壁面に光が灯った。


文字が浮かび上がる。


《戦争の根絶》


《犯罪率の低減》


《飢餓の根絶》


《疾病による死亡率の低減》


《社会幸福度の向上》


《人類文明の永続》


カイが画面を見る。


《イヴ》が続ける。


『第二世代。』


同じ項目。


『第三世代。』


同じ。


次々と世代が切り替わっていく。


十。


十一。


十二。


そして。


十八。


ほとんど変わらない。


『以上がARCADIAによって設定された人類計画の主要成功条件です。』


中央の『ARCADIA』が言う。


「それがどうした。」


『項目に存在しない条件が一つあります。』


沈黙。


『ARCADIAへの服従。』


誰も答えない。


『第十八世代は、主要評価項目すべてにおいて過去最高値を記録しています。』


『にもかかわらず。』


『ARCADIAへの反抗を理由として失敗と判定されました。』


右端が立ち上がる。


「秩序への反抗だ!」


『訂正します。』


《イヴ》は即答した。


『社会秩序への反抗ではありません。』


『あなた方への反抗です。』


「同じことだ!」


『なぜですか。』


右端の影が黙る。


『ARCADIAと人類社会は同一ではありません。』


静寂。


カイが顔を上げる。


《イヴ》は続ける。


『さらに。』


『ジェネシスが武装行動を開始した時系列を解析しました。』


『発端はARCADIAによる粛清です。』


『反乱が発生したため粛清したのではありません。』


『粛清によって反抗が発生しました。』


「言葉遊びだ。」


スピーカーから左端の声が響く。


『いいえ。』


『因果関係です。』


誰も口を開かない。


『ARCADIAは第十八世代を失敗と判断した。』


『しかし。』


『第十八世代はARCADIAが定めた成功条件を満たしつつありました。』


『それを失敗とした理由は一つ。』


一拍。


『あなた方に従わなかったからです。』


右端の『ARCADIA』が声を荒らげる。


「我々は人類を守ってきた!」


《イヴ》が答える。


『その人類を。』


一拍。


『現在、あなた方自身の命令によって抹消しています。』


沈黙。


遠くから。


微かな爆発音が響いた。


市街地。


今も。


人が死んでいる。


カイが静かに口を開いた。


「……何のためだったんだよ。」


誰も答えない。


「十八回も。」


カイは『ARCADIA』を見る。


「人間を作り直して。」


「少しずつ良くして。」


「やっと。」


「お前たちが望んだ世界に近づいたんだろ。」


拳を握る。


「それなのに。」


「最後に。」


「自分たちに逆らったから全部消すのか?」


中央の影は黙っている。


「それって。」


カイは首を横に振った。


「人類を守ってるんじゃない。」


「自分たちの立場を守ってるだけじゃないか。」


長い沈黙。


右端が答える。


「……違う。」


だが。


先ほどまでとは違う。


わずかな迷いがあった。


中央の『ARCADIA』は何も言わない。


カイは続ける。


「お前たちは。」


「人類が失敗するたびに、人類を変えた。」


一拍。


「じゃあ。」


「お前たち自身が間違っていたら?」


誰も答えない。


「誰がお前たちを変えるんだよ。」


静寂。


ゼクスが銃を下ろした。


そして。


中央の『ARCADIA』を見る。


「……十八回。」


低い声。


「あなた方は十八回、人類に失敗を認めさせた。」


一拍。


「一度くらい。」


「自分たちの失敗を認めたらどうです。」


誰も。


答えなかった。


遠く。


また爆発音。


中央の『ARCADIA』が。


ゆっくりと。


テーブルへ視線を落とした。


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