第54章 鋼鉄の処刑者
講堂に重い足音が響いていた。
ドン……
ドン……
ドン……
黒い装甲に覆われた巨体。
人類抹消兵器。
赤い単眼を鈍く光らせながら、ゆっくりと歩いてくる。
その大きさ。
その威圧感。
誰もが無意識に一歩後ずさった。
「……化け物め」
処理班の一人が銃を構える。
そして。
発砲した。
乾いた銃声が講堂に響く。
銃弾がガーディアンの胸部へ命中する。
火花が散った。
だが。
ガーディアンは止まらない。
傷一つついていなかった。
赤い単眼がゆっくりと動く。
発砲した隊員を捉える。
次の瞬間。
ガーディアンの右腕が持ち上がった。
その手の先。
銃口のような装置が展開する。
赤い光が収束していく。
「避けろ!」
ゼクスが叫ぶ。
閃光。
一筋の光が講堂を走った。
数名の処理班の身体を貫く。
いや。
貫いたのではない。
身体そのものが、一瞬で切断された。
声を上げる暇すらなかった。
数名の身体がその場へ崩れ落ちる。
「……っ!」
カイが息を呑む。
ガーディアンは何事もなかったかのように歩き続ける。
ドン……
ドン……
ドン……
ゼクスが叫ぶ。
「全員、撃て!」
処理班が一斉に銃を構える。
無数の銃声。
銃弾がガーディアンへ集中する。
カイ。
エド。
セラ。
アヤ。
ティアナも続く。
火花。
爆発。
煙。
ガーディアンの姿が見えなくなる。
「……やったか?」
誰かが呟く。
その瞬間。
煙の中。
赤い光が一つ、ゆっくりと浮かび上がった。
「嘘だろ……」
ドン……
一歩。
ドン……
また一歩。
黒い巨体が煙の中から現れる。
装甲には無数の弾痕。
だが。
歩みは止まっていない。
右腕が再び上がる。
「散れ!」
閃光。
ビームが講堂を横切る。
「ぐっ!」
また数名の処理班が倒れる。
「くそっ!」
ゼクスが銃を撃ち続ける。
だが。
効かない。
壇上。
『ARCADIA』の五人は、その光景を静かに眺めていた。
まるで。
自分たちとは無関係の出来事でも見ているかのように。
ガーディアンがさらに前進する。
処理班がまた数人倒れる。
中央の影がゆっくりと立ち上がった。
「もう時間の問題だ。」
他の四人も立ち上がる。
そして壇上の奥へ向かって歩き始めた。
カイがそれに気付く。
「待て!」
五人は振り返らない。
「逃がすか!」
カイは中央の影へ銃口を向けた。
引き金を引く。
銃声。
弾丸が中央の影の背中へ命中した。
身体が大きくのけぞる。
「……!」
カイが目を見開く。
だが。
倒れない。
中央の影はゆっくりと姿勢を戻した。
そして。
カイを振り返る。
黒いマントに穴が開いている。
その奥。
わずかに銀色の光沢が見えた。
血は流れていない。
「……なんだ?」
カイは銃を向けたまま動けない。
中央の影が静かに言った。
「皮肉だと思わないか。」
「我々は、この世界に残された唯一の人間だ。」
一拍。
「だが。」
自らの胸元へ手を当てる。
「永い時間を生きるため、肉体を捨てた。」
「そして機械になった。」
カイの表情が凍る。
中央の影は続けた。
「対して。」
「人工的に創られた君達は。」
カイ。
アヤ。
セラ。
ティアナ。
エド。
一人ずつ見渡す。
「今では生命を持っている。」
静かな笑い声。
「実に皮肉だろう。」
カイは何も言えなかった。
中央の影は背を向ける。
「では、これで失礼する。」
五人の影が壇上の奥へ消えていく。
重厚な扉が閉じた。
その間にも。
ドン……
ドン……
ガーディアンは前進を続けていた。
しかも。
先ほどより速い。
攻撃の間隔も短くなっている。
閃光。
爆発。
悲鳴。
処理班が次々と倒れていく。
「出口を開けろ!」
ゼクスが叫ぶ。
数名の処理班が講堂の扉へ走る。
認証装置。
反応なし。
「開かない!」
「手動解除!」
「駄目です!」
隊員が扉を蹴る。
別の隊員が銃を撃つ。
火花が散る。
だが。
巨大な扉はびくともしない。
「どけ!」
セラが走ってくる。
バッグから小型の爆薬を取り出す。
扉へ設置。
「離れて!」
全員が伏せる。
爆発。
轟音。
爆風が講堂を駆け抜ける。
煙が晴れる。
セラが顔を上げる。
「……嘘でしょ」
扉には焦げ跡が残っている。
それだけだった。
背後。
ドン……
ドン……
ドン……
ガーディアンが迫る。
残された距離は、もうわずかだった。
処理班が必死に撃ち続ける。
だが止まらない。
一人。
また一人。
ガーディアンの攻撃に倒れていく。
逃げ場はない。
カイが周囲を見回す。
閉ざされた扉。
迫るガーディアン。
倒れていく仲間たち。
そして。
天井を見上げた。
「《イヴ》!」
返事はない。
「聞こえてるんだろ!」
ガーディアンの右腕が持ち上がる。
赤い光が集まり始める。
カイは叫んだ。
「《イヴ》!」
「答えてくれ!」
「扉を開けてくれ!」




