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ヒューマンコード  作者: エイジ


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55/55

第55章 別れ道

「《イヴ》!」


カイの声が講堂に響く。


「答えてくれ!」


「扉を開けてくれ!」


返事はない。


ドン……


ドン……


ガーディアンの足音だけが近づいてくる。


閃光。


ビームが講堂を横切った。


「ぐあっ!」


数名の処理班が崩れ落ちる。


銃声。


爆発音。


悲鳴。


それでも。


《イヴ》からの応答はない。


「くそっ!」


カイが歯を食いしばる。


その瞬間。


赤い光がこちらを向いた。


「カイ!」


セラが叫ぶ。


閃光。


カイは反射的に身体をひねった。


熱が頬を走る。


ビームが頬をかすめ、そのまま背後の処理班を焼き切った。


「……っ!」


カイは振り返り、銃を構える。


ガーディアンの単眼が赤く光る。


再び右腕が持ち上がる。


その時だった。


『要求を受理しました。』


カイの動きが止まる。


聞き覚えのある女性の電子音。


《イヴ》。


『扉のロックを解除します。』


数秒。


ガチリ。


講堂に重い音が響いた。


全員が振り返る。


閉ざされていた巨大な扉。


その中央に、わずかな隙間が生まれる。


そして。


ゴゴゴゴゴ……


ゆっくりと左右へ開き始めた。


「開いた……」


誰かが呟く。


カイが叫んだ。


「みんな!」


「逃げろ!」


全員がカイを見る。


絶望に染まっていた処理班の目に、わずかな光が戻る。


「後退!」


ゼクスが叫ぶ。


「迎撃しながら扉へ向かえ!」


処理班が一斉に動く。


銃撃を続けながら。


一歩。


また一歩。


出口へ後退していく。


カイたちも続く。


ガーディアンは止まらない。


ビーム。


一人が倒れる。


さらにビーム。


また一人。


それでも。


一人。


また一人。


開いた扉から通路へ飛び出していく。


「ティアナ!」


「行け!」


エドが叫ぶ。


ティアナが扉を抜ける。


アヤ。


セラ。


カイ。


エド。


ゼクス。


残った処理班も次々と講堂を脱出する。


最後の一人が扉を抜けた。


「走れ!」


誰かが叫んだ。


もう迎撃する者はいない。


全員が走る。


長い通路。


背後から。


ドン……


ドン……


ドン……


ガーディアンが追ってくる。


だが。


遅い。


カイが走りながら振り返る。


黒い巨体は確実に追ってきている。


それでも距離は開いていた。


「このままなら……!」


逃げ切れる。


そう思った。


その時だった。


キュイィィィン——


甲高い音が通路に響く。


「……何?」


アヤが振り返る。


ガーディアンの足元。


装甲の一部が展開していた。


青白い光が床を照らす。


巨体がわずかに浮き上がる。


「まさか……」


次の瞬間。


ガーディアンが滑るように前進した。


ドン。


ドン。


先ほどまで響いていた足音が消える。


代わりに。


キィィィィン——


甲高い駆動音。


黒い巨体が猛烈な速度で距離を詰め始める。


「速い!」


カイが叫ぶ。


閃光。


「うわっ!」


後方を走っていた処理班が吹き飛ぶ。


さらに一発。


二人が崩れ落ちる。


「散開!」


ゼクスが叫ぶ。


通路の分岐。


処理班が複数のグループに分かれる。


右。


左。


階段。


連絡通路。


カイたちも走り続ける。


だが。


ガーディアンは止まらなかった。


一体が右へ。


別の一体が左へ。


さらに別の個体が階段へ向かう。


逃げる人間を正確に追跡している。


誰一人として見逃さない。


遠くから銃声が聞こえる。


悲鳴。


そして。


静寂。


また別の場所から。


爆発音。


銃声。


やがて。


それも消える。


講堂にいた処理班のほとんどが、中央管理局から出ることすらできずに倒れていった。


カイたちも走り続けていた。


カイ。


セラ。


アヤ。


ティアナ。


エド。


そして十数名まで減った処理班。


背後から二体のガーディアンが迫る。


「このままじゃ追いつかれる!」


セラが叫ぶ。


その先。


通路が二つに分かれていた。


「みんな、左だ!」


最後尾を走っていたエドが叫んだ。


カイたちは迷わず左へ曲がる。


セラ。


アヤ。


ティアナ。


ゼクス。


処理班。


カイも続く。


だが。


エドだけが。


右へ曲がった。


誰も気付かなかった。


二体のガーディアン。


赤い単眼が左右へ動く。


一体が左へ。


もう一体が。


右へ向かった。


エドは一人で走る。


背後から甲高い駆動音。


距離が縮まってくる。


それでも。


振り返らない。


ただ走る。


カイたちから。


少しでも遠くへ。


少しでも。


遠くへ。


エドが小さく笑った。


「……みんな。」


一拍。


「無事で。」


キュイィィィン——


背後から赤い光が迫る。



「もうすぐ外だ!」


セラが叫ぶ。


非常用通路を抜ける。


扉を蹴り開ける。


夜風が吹き込んだ。


「外だ!」


だが。


そこは地上ではなかった。


中央管理局の外壁に設けられた保守用デッキ。


遥か下に。


アイグリッドの街明かりが広がっている。


「ここから降りる!」


セラがロープを取り出す。


手すりへ固定。


下を見る。


数十メートル下。


別の保守区画がある。


「ティアナ!」


「先に!」


ティアナがロープを掴む。


降りる。


「アヤ!」


アヤも続く。


残った処理班も次々と別のロープを展開する。


その時。


キュイィィィン——


聞きたくなかった音が響いた。


全員が振り返る。


暗い通路の奥。


赤い単眼。


「追いつかれた!」


ガーディアンが外部デッキへ姿を現す。


カイが銃を構える。


セラも反対側へ走った。


「分かれろ!」


二人が左右へ散る。


赤い単眼が動く。


カイ。


セラ。


カイ。


セラ。


そして。


止まった。


セラ。


右腕が上がる。


「セラさん!」


閃光。


セラが床へ飛び込む。


ビームが頭上を通過し、外壁を切り裂く。


「くっ!」


その瞬間。


カイが背後から撃つ。


一発。


二発。


三発。


銃弾がガーディアンの背中へ命中する。


火花。


だが。


やはり効かない。


赤い単眼が。


ゆっくりとカイへ向いた。


「こっちだ!」


カイは撃ち続ける。


単眼が完全にカイを捉えた。


右腕。


赤い光。


閃光。


「っ!」


カイが横へ飛ぶ。


ビームが床を切り裂いた。


立ち上がる。


再び撃つ。


そして。


カイは通路へ向かって走った。


中央管理局の中へ。


「カイ!」


セラが叫ぶ。


カイは振り返らない。


ガーディアンの赤い単眼がカイを追う。


黒い巨体が向きを変えた。


そして。


カイの後を追って、再び建物の中へ入っていく。


「カイ!」


セラがもう一度叫ぶ。


暗い通路の奥。


遠くから。


カイの声が聞こえた。


「セラさん!」


銃声。


「逃げて!」


さらに銃声。


「アヤさんたちを——」


閃光。


「守ってください!」


そして。


黒い巨体が通路の奥へ消えていった。


セラは動けなかった。


「……カイ。」


下からアヤの声が響く。


「セラ!」


「早く!」


セラは暗い通路を見つめ続けた。


カイの姿は。


もう見えなかった。

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