第47章 用意された道
第七中継タワー内部。
暗い通路。
非常灯だけが足元を照らしていた。
五人は慎重に進んでいた。
先頭はセラ。
その後ろにティアナ。
カイ、アヤ、エドが続く。
誰も声を出さない。
耳に入るのは、自分たちの足音だけだった。
「……静かすぎる」
セラが小さく呟く。
エドも同意する。
「警備員どころか保守員もいませんね」
本来なら。
重要通信施設だ。
最低限の警備はいるはずだった。
だが——
誰もいない。
監視カメラはある。
センサーも動いている。
それなのに、人の気配だけが消えていた。
ティアナが端末を確認する。
「事前調査のルートで合ってる」
画面には施設構造図。
目的地までの経路が表示されている。
「あと少しよ」
全員が頷く。
進む。
曲がる。
階段を昇る。
そして——
目的の区画へ到着した。
分厚い金属扉。
外壁とは比較にならないほど頑丈そうだった。
「ここか」
エドが呟く。
扉横には認証装置。
電子ロック。
多重暗号化。
ここだけは厳重だった。
ティアナが前に出る。
「少し時間ちょうだい」
背負っていたリュックを下ろす。
中からノートパソコンを取り出す。
さらに複数の変換ケーブル。
接続モジュール。
認証解析ツール。
慣れた手つきで装置へ接続する。
画面に文字列が流れ始めた。
解析。
認証層突破。
暗証番号探索。
エドが周囲を警戒する。
沈黙。
数分後。
ティアナが小さく呟いた。
「見つけた」
指がキーボードを叩く。
認証コード入力。
数秒。
そして——
カチッ。
ロック解除音。
全員が反射的に身構える。
警報。
処理班の急行。
何かが起きるはずだった。
だが。
何も起きない。
警報は鳴らない。
照明も変わらない。
沈黙だけが続く。
セラが眉をひそめた。
「……本当に何も起こらないわね」
ティアナも答えられない。
扉がゆっくり開いていく。
扉の向こうには、小規模なサーバールームが広がっていた。
古い通信設備。
ラックに並ぶ機器。
無数のケーブル。
そして中央に設置された保守用端末。
「ここで間違いない」
ティアナは一度だけ周囲を見回す。
人影はない。
それが逆に、不気味だった。
リュックを下ろす。
ノートパソコンを取り出す。
保守端末のカバーを外す。
埃が舞った。
「長いこと使われてないみたいね」
ケーブルを接続する。
端末起動。
ログが流れ始める。
ティアナの表情が徐々に真剣になっていく。
「どうですか?」
カイが聞く。
「まだ入口」
ティアナは画面から目を離さない。
「ここは《ノア》へ繋がる中継ノードの一つ」
指がキーボードを叩く。
「ここから政府ネットワークに入る」
画面に複数の経路が表示される。
階層。
認証。
中継サーバー。
アクセス制限。
ティアナが小さく息を吐く。
「政府ネットワークの階層が想像以上に深い……」
エドが近づく。
「時間は?」
「読めないわ」
「ここはまだ入口。政府ネットワークを一つずつ突破して、《ノア》本体まで辿り着かなきゃならない」
「数時間かもしれないし、それ以上かかるかもしれない」
沈黙。
その時。
ティアナの目が止まる。
「……あれ?」
画面を見つめる。
違和感。
だが正体は分からない。
「どうした?」
エドが聞く。
ティアナは首を振った。
「いや……気のせいかも」
そう口にしながらも、胸の奥に引っかかった違和感だけは消えない。
エンジニアとして積み重ねてきた経験が、「危険だ」と静かに訴え続けていた。
セラ、カイ、アヤは入口付近で警戒を続けていた。
だが。
十分。
二十分。
三十分。
誰も来ない。
警報も鳴らない。
あまりにも静かだった。
エドが低く呟く。
「……静かすぎますね」
誰も否定できない。
本来なら。
ここまで侵入した時点で施設は封鎖されてもおかしくない。
それなのに。
何も起きない。
ティアナだけが画面を見つめていた。
キーボードを叩く音だけが、静かな部屋に規則正しく響く。
政府ネットワーク。
認証層。
さらに奥。
その先に《ノア》が存在する。
しかし。
「……おかしい」
小さく呟く。
ネットワークは複雑だ。
認証も厳重だ。
それなのに。
"ここに来るまで" が、あまりにも容易すぎた。
ティアナの背中を、冷たい汗がゆっくりと伝う。
まるで——
誰かが。
自分たちがここへ辿り着く未来を、最初から知っていたかのように。




