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ヒューマンコード  作者: エイジ


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第46章 静寂の塔

夜。


都市の明かりが遠くに霞んで見える。


カイたちが東部拠点を出発してから、すでに数時間が経過していた。


先頭を歩くのはセラ。


その後ろにカイとアヤ。


ティアナ。


最後尾をエドが歩く。


誰も無駄な会話はしない。


足音だけが、静かな郊外に響いていた。


風が吹く。


草木が揺れる。


それ以外の音はない。


まるで世界そのものが息を潜めているようだった。


「……止まって」


突然、セラが手を上げる。


全員が足を止めた。


セラは空を見上げる。


遠く。


小さな光。


監視ドローンだった。


「一機」


小声で呟く。


ティアナが端末を確認する。


「巡回ルートね」


画面に軌道が表示される。


「あと十秒で通過する」


全員が身を伏せる。


息を殺す。


ドローンは頭上をゆっくり横切った。


青白い光。


無機質な機械音。


だが——


こちらには気づかない。


そのまま闇の向こうへ消えていく。


沈黙。


数秒後。


セラが立ち上がる。


「行こう」


再び移動を開始する。


その後も数回。


ドローンと遭遇した。


だが、どれも通常巡回だった。


警戒態勢には見えない。


カイが小声で言う。


「思ったより少ないですね」


エドも頷く。


「確かに」


本来なら。


ジェネシス掃討作戦の後だ。


逃走者を追っているなら、もっと警戒が厳しくてもおかしくない。


だが現実は違った。


不自然なほど静かだった。


やがて——


海が見えた。


夜の海。


黒い水面。


波音だけが響いている。


その先。


巨大な建造物が姿を現す。


《第七中継タワー》。


暗闇の中でも分かるほど巨大だった。


無数のアンテナ。


通信設備。


鋼鉄の外壁。


かつて都市の通信を支えていた施設。


今は半ば放棄されたように見える。


「……大きいですね」


カイが呟く。


ティアナは端末を見ながら眉をひそめた。


「おかしい」


「何が?」


アヤが聞く。


ティアナは施設を見つめたまま言った。


「警備が少なすぎる」


エドも周囲を見回す。


確かに。


警備灯は点いている。


監視カメラも動いている。


だが、それだけだった。


人の気配はまったくない。


ティアナが眉をひそめる。


「少ないというより……」


言葉を選ぶ。


「まるで、誰かが“入れるようにしてる”みたい」


「考えすぎじゃない?」


セラが肩をすくめる。


「郊外にある通信設備の一つに過ぎないしね。

あと、ジェネシスは壊滅したと思ってるんじゃない?」


アヤも頷く。


「確かに。こんな施設まで警戒する理由はないかも」


ティアナは納得したわけではなかった。


だが反論もしない。


今さら戻る選択肢はない。


エドが静かに言う。


「予定通り行きましょう」


全員が頷いた。


施設正面を見上げる。


巨大なゲート。


当然ながら閉鎖されている。


電子ロック。


監視カメラ。


正面突破は論外だった。


セラがバッグを下ろす。


中から装置を取り出す。


フック付きワイヤーガン。


「出番ね」


狙いを定める。


二階部分。


非常用通路の手すり。


呼吸を整える。


引き金を引く。


――ガシュッ。


フックが夜空を切り裂く。


金属音。


手すりに引っかかる。


セラがワイヤーを軽く引く。


しっかり固定されている。


「よし」


セラが先に登り始める。


続いてカイ。


アヤ。


ティアナ。


そしてエド。


五人は一人ずつ、静かに壁面を登っていく。


夜風が吹く。


海の匂いがした。


二階の足場へ到達する。


誰も言葉を発しない。


セラが窓際へ移動する。


工具を取り出す。


数秒。


電子ロックが解除される。


小さな音。


窓が開く。


暗い通路が見えた。


エドが中を確認する。


人影はない。


気配もない。


セラが眉をひそめる。


「……拍子抜けね」


侵入警報の一つぐらい鳴ってもおかしくない。


だが——


何も起きない。


静かすぎるほどに。


エドが振り返る。


そして小さく頷いた。


「行きましょう」


五人は静かに施設内部へ足を踏み入れた。


ティアナだけが、最後にもう一度振り返った。


誰かに見られているような感覚が消えなかった。


ジェネシス最後の作戦。


その第一歩が、今始まった。

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