第44章 最後の作戦
東部拠点。
オペレーションルーム。
大型モニターに、都市全域のネットワーク構造が映し出されていた。
複雑に絡み合う通信経路。
無数の中継ライン。
その中心に——
《ノア》。
ティアナが端末を操作する。
「《ノア》は完全独立型じゃない」
画面が切り替わる。
都市インフラ。
監視網。
エネルギー制御。
交通システム。
すべてが《ノア》へ繋がっていた。
「都市全体を制御する以上、外部との通信を完全には切れない」
エドが腕を組む。
「つまり、どこかに侵入口があるってことですか」
「えぇ」
ティアナは頷く。
そして、一つの地点を拡大する。
都市外縁部。
海沿い。
巨大な通信施設。
《第七中継タワー》。
カイが小さく呟く。
「……ここは?」
「旧世代のバックアップ通信施設みたい」
ティアナが説明する。
「今は半無人運用。でも、《ノア》の高優先回線がまだ残ってる」
画面に複数の認証ラインが表示される。
「正直、おかしいぐらい都合がいいんだけど」
ティアナが眉をひそめる。
「こんな重要施設にしては、防御層が薄すぎるのよね」
「罠の可能性は?」
エドが聞く。
「もちろんある」
ティアナは頷く。
「でも、今は進むしかない……
ここからなら、《ノア》の認証層へ直接アクセスできる可能性があるわ」
アヤが静かに聞く。
「可能性……どれぐらい?」
ティアナは数秒黙った。
「正直、分からない」
即答だった。
「でも、ゼロじゃない」
画面が切り替わる。
ロック解除キー。
ルキたちの解析データ。
認証突破コード。
「ルキとナッシュが残したデータのおかげで、“一瞬だけ”認証権限を奪えるかもしれない」
エドが低く言う。
「その一瞬で、《ノア》を停止する」
「そういうこと」
ティアナは頷いた。
「ただし」
画面に赤い警告が表示される。
《認証維持予測時間:300秒未満》
「停止命令を流し込むまで、最低でも数分必要」
空気が重くなる。
「当然、その間に政府側も気づく」
セラが壁にもたれたまま呟く。
ティアナがモニターを眺めたまま答える。
「認証権限を奪った瞬間、《ノア》は異常を検知する。
政府にも警報が飛ぶ。そこからは時間との勝負よ」
アヤがティアナの方を見る。
「つまり、防衛戦になるわけね」
「えぇ」
ティアナが視線を上げる。
「中継タワーへ潜入。
私が停止処理を行う」
そして、順番に全員を見る。
「その間、みんなには時間を稼いでもらう」
沈黙。
誰も、軽く返事はしなかった。
それがどういう意味か、全員理解していた。
エドが静かに言う。
「……人数は?」
ティアナは迷わなかった。
「最低限で行く方が良いかな」
モニターに名前が表示される。
エド。
セラ。
カイ。
アヤ。
ティアナ。
それだけだった。
カイが思わず聞く。
「他の皆さんは……?」
エドが答える。
「東部拠点の維持です」
静かな声だった。
「ここまで失って、最後の拠点まで空にはできません」
ティアナが続ける。
「それに、大人数で動けば監視に引っかかる」
一拍。
「これは、少人数でやるしかない作戦よ」
カイは、ゆっくり拳を握った。
もう後戻りはできない。
セラが小さく笑う。
「ずいぶん派手な最終作戦になったわね」
エドが肩をすくめる。
「ジェネシスらしいでしょう」
アヤは、モニターの《ノア》を見つめていた。
その瞳に迷いはない。
「止めましょう」
静かな声。
だが、強かった。
「もう、終わらせないといけない」
ティアナが頷く。
「決まりね」
端末を閉じる。
その音が、妙に大きく響いた。
ジェネシス最後の作戦。
《ノア》停止作戦。
すべては、ここから始まる。




