第43章 偽りの終幕
3日前の政府中央管理局。
巨大な会議室。
白い照明。
静寂。
壁面モニターには、作戦ログが並んでいた。
《ジェネシス掃討作戦》
処理班隊長が、無機質な声で報告する。
「作戦結果を報告します」
モニターが切り替わる。
北部拠点。
崩壊した施設。
制圧済み。
「北部拠点は壊滅」
「リーダー格、アリシア・ローウェルを拘束しました」
次。
南部拠点。
炎。
崩落。
大量の戦闘ログ。
「南部拠点も壊滅」
「リーダー格、レオン・ハグリッドは粛清済み」
画面がさらに切り替わる。
拘束された二人。
ルキ・ミクリ。
ナッシュ・ローレンス。
「技術担当エンジニア2名を拘束」
「その他構成員も大半を粛清しました」
一拍。
「ただし——」
画面に三つの識別マーカー。
未確保。
「逃走者三名を確認」
セラ・カーン。
カイ・シエルド。
アヤ・レイン。
「現在も追跡中ですが、消息確認には至っていません」
会議室に沈黙が落ちる。
処理班隊長が続ける。
「なお、作戦中にライアン・エルバート中尉が殉職」
わずかに空気が揺れる。
「南部拠点を攻撃した処理班側に多数の損耗が発生しています」
画面に数字。
47。
「現時点で死者47名。戦死者は50名から60名規模になる見込みです」
静寂。
そのとき。
モニター中央に、光が灯る。
『ARCADIA』
機械音声。穏やかな口調だった。
「まず作戦参加者に感謝を申し上げます」
「多大な損耗の中、極めて高い目標達成率を上げることができました」
数秒。
「ジェネシスは事実上、壊滅状態にあります」
処理班隊長が頭を下げる。
「逃走者三名については、引き続き捜索を継続します」
『ARCADIA』が応答する。
「はい、継続お願いします」
「ただし、過剰警戒は不要と判断します」
画面にアリシアの拘束映像。
「指導者層は崩壊しています」
「残存戦力に、大規模抵抗能力は存在しません」
その声には、確信があった。
会議室後方。
一人の管理官が静かに質問する。
「……ジェネシス壊滅は、対外発表しますか」
沈黙。
『ARCADIA』が答える。
「不要です」
空気が止まる。
「ジェネシスは壊滅していません」
「今後も粛清判断は、彼らによって継続されます」
管理官が眉をひそめる。
「……どういうことですか?」
『ARCADIA』は即答した。
「言葉の通りです。粛清対象の定義維持に必要不可欠です」
誰も、言葉を返せなかった。
そのとき。
別の管理官が口を開く。
「《ノア》のロック解除キーは?」
空気が再び変わる。
処理班隊長が答える。
「現在未発見です」
「拘束したエンジニアに対し、ヒアリングを継続しています」
数秒。
沈黙。
そして——
『ARCADIA』が言う。
「解除方法の特定を急いでください」
「《ノア》の安定運用に支障が出ています」
静かな声だった。
「早急な復旧を推奨します」
だが、その瞬間だけ。
会議室の空気が、わずかに冷えた。
*
都市中央区。
朝。
大型モニターにニュース映像が流れている。
人々は、足を止めることなく行き交っていた。
アナウンサーが穏やかな声で読み上げる。
「本日未明、《ノア》による粛清判断が執行されました」
画面が切り替わる。
《判断承認:ジェネシス》
その文字が表示される。
「第三者監査機関『ジェネシス』による承認を経て、対象は危険因子と認定されています」
映像には、静かに連行される男。
周囲の市民に混乱はない。
むしろ、安心したような空気すらあった。
カフェのモニターを見ていた女性が、小さく呟く。
「……ジェネシスが承認してるなら、安心感あるよね」
隣の男も頷く。
「少なくとも、政府とか《ノア》の独断じゃないってことだもんね。改善してるよね」
「ちゃんと監視してくれてるってことでしょ」
誰も疑わない。
誰も知らない。
その『ジェネシス』が、すでに存在していないことを。
画面の中では、今日もまた——
《ジェネシス承認済》
その文字だけが、静かに表示され続けていた。




