第39章 最後の背中
崩れた通路の先。
レオン、カイ、アヤ、そして数名の隊員が退避通路を走っていた。
背後から銃声が追ってくる。
壁が削れ、火花が散る。
「止まるな!走れ!」
レオンが後方を撃ちながら叫ぶ。
カイも息を切らしながら応戦する。
「数が多すぎます……!」
アヤも撃ちながら言う。
「止めきれない……!」
それでも足は止めない。
ただ前へ。
ただ生きるために。
やがて——
出口が見えた。
「抜けるぞ!」
レオンが叫ぶ。
一気に通路を駆け抜ける。
その先。
外。
だが——
その瞬間、全員が足を止めた。
前方。
銃を構えた小隊。
待ち伏せ。
中央に立つ一人の男。
その顔を見た瞬間、アヤの表情が固まる。
「……ライアン中尉」
男がわずかに目を細める。
「久しぶりだな、アヤ」
静かな声だった。
だが、その銃口は微動だにしない。
「投降しろ」
短く言う。
「無駄な抵抗はするな」
一歩だけ前に出る。
「君なら分かるはずだ。この状況がどういうものか」
沈黙。
アヤがゆっくりと息を吸う。
そして——
「……すみません」
小さく言う。
ライアンの目がわずかに揺れる。
だが次の瞬間、アヤは顔を上げた。
「投降はできません」
はっきりと言い切る。
「絶対に」
その言葉に、空気が変わる。
ライアンは一瞬だけ目を閉じた。
そして開く。
「……そうか」
静かに頷く。
「では仕方ない」
銃口を上げる。
「全員、確保しろ。生死は問わない」
その一言で、戦闘が始まった。
*
レオンが動いた。
一瞬だった。
前に出る。
撃つ。
一人。
二人。
距離を詰める。
銃を撃ちながら、格闘に入る。
殴る。
蹴り飛ばす。
投げる。
まるで——
止まらない。
「……なんだ、こいつ」
処理班の一人が呟く。
レオンは応えない。
ただ、前へ出る。
カイも必死に撃つ。
手が震える。
だが引き金は止めない。
アヤは後方で隊員を守る。
「下がって!固まらないで!」
指示を飛ばしながら撃つ。
一人、また一人。
処理班が倒れていく。
やがて——
レオンとライアンが対峙する。
銃を構えたまま、互いに動かない。
「……少しはやるようだ」
ライアンが言う。
レオンは吐き捨てる。
「逃げるなら今だぜ」
次の瞬間。
同時に動く。
銃声。
お互い横へ飛ぶ。回避。
すぐさま間合いを詰める。
レオンが殴りかかる。
ライアンが防御。
そして反撃。
レオンがかわす。
互角。
「……なるほど」
ライアンが呟く。
「さすがはジェネシスのリーダー格といったところか」
レオンは答えない。
また間合いを詰めて攻撃を繰り出す。
*
上空。
ドローンが降りてくる。
さらに——
背後から増援。
処理班が流れ込む。
「チッ……!」
レオンが舌打ちする。
一気に状況が傾く。
押される。
数が違う。
カイが叫ぶ。
「レオンさん!後ろからまた来ます!」
レオンは振り返らない。
ただ言う。
「行け」
アヤが叫ぶ。
「でも——」
「行け!」
その声は、命令だった。
「ここは俺が止める!」
ライアンが前に出る。
「逃がすと思うか」
動こうとした瞬間——
レオンが前に出る。
「お前の相手は俺だ」
視線がぶつかる。
「……そろそろ遊びは終わりだ」
「こっちのセリフだ」
再び戦闘。
*
レオンは一人で複数を相手にする。
殴る。
撃つ。
倒す。
だが——
限界が近い。
銃弾が腹を貫く。
体が揺れる。
それでも立つ。
さらに撃たれる。
膝が折れる。
それでも——
倒れない。
ライアンが銃を向ける。
「終わりだ」
引き金に指がかかる。
その瞬間——
レオンが動く。
わずかな動き。
銃弾をかわす。
踏み込む。
ナイフ。
一閃。
ライアンの体が崩れる。
そのまま——
残る処理班へ突っ込む。
最後の力。
一人。
二人。
三人。
すべて倒れる。
静寂。
レオンは立っていた。
だが——
ゆっくりと崩れる。
視界が暗くなる。
その中で、
一つの記憶が浮かぶ。
兄貴の背中。
あのときと同じように、
前を向いていた。
「……悪いな」
小さく呟く。
「ここまでだ」
そのまま——
静かに倒れた。
*
一方。
カイとアヤは走っていた。
ドローンが追う。
撃ち落とす。
また来る。
撃つ。
だが数が減らない。
やがて——
前方に処理班。
止まる。
囲まれる。
「……こんなところまで」
アヤが呟く。
カイが前に出る。
「まだです!」
撃つ。
近距離戦。
殴る。
蹴る。
必死に抵抗する。
だが——
隊員が一人、倒れる。
また一人。
血が広がる。
叫びが消える。
そして——
ついに、二人だけになる。
カイとアヤ。
処理班がじりじりと距離を詰める。
アヤが前に出る。
「カイ、下がって——」
その瞬間。
背後から押さえ込まれる。
「っ……!」
アヤの体が拘束される。
腕がねじられる。
銃口が向けられる。
カイが叫ぶ。
「アヤさん!!」
だが——
もう、届かない。
包囲は、完全だった。
カイも処理班二名に押さえつけられる。
「くそっ……離せっ!」
暴れる。
だが、動かない。
押さえ込まれる力は、圧倒的だった。
視界の端で、アヤが膝をつかされている。
腕を押さえられ、銃口を突きつけられている。
「やめろ……!」
声が出る。
届かない。
何も、変わらない。
「アヤさん!!」
叫ぶ。
その声だけが、
崩れた街の中に、虚しく響いた。




