第38章 崩れゆく戦線
警報は鳴り止まない。
壁のモニターは赤に染まり、侵入経路が次々と更新されていく。
ルキとナッシュは、無言で端末を叩き続けていた。
「……もう少しだ」
ナッシュが低く言う。
ルキは答えない。
ただ、指を止めない。
そのとき、扉が開いた。
サガラだった。
「退路を確保する」
短く言う。
カイが続いて入ってくる。
「あとどれぐらいかかりますか?」
ナッシュが答える。
「……三十秒」
サガラが頷く。
「十分だ」
それだけ言うと、サガラはすぐに背を向けた。
入り口に立ち、無言で銃を構える。
*
数秒後。
ルキが叫ぶ。
「終わった!」
ナッシュも頷く。
「データ遮断完了!」
カイが即座に動く。
「全員、退避します!」
アヤが周囲を見回す。
「生存者、こっち!」
数名のメンバーが集まる。
混乱の中、最低限の統制だけが保たれていた。
カイが指示する。
「こっちへ!避難路へ向かいます!」
全員が動き出す。
そのとき——
爆音。
オペレーションルームの扉が吹き飛んだ。
煙の中から、処理班が突入してくる。
「来やがった……!」
ルキが舌打ちする。
サガラは動かなかった。
一歩も引かない。
「行け」
低い声だった。
カイが振り返る。
「サガラさん……!」
「行け」
繰り返す。
それ以上の言葉はなかった。
カイが歯を食いしばる。
「……お任せします!」
サガラは答えない。
ただ、引き金を引いた。
銃声。
一人、倒れる。
すぐに次。
さらに次。
無駄のない射撃だった。
だが、数が違う。
銃弾が飛び交う。
サガラの体が揺れる。
それでも倒れない。
一歩も引かない。
だが次の瞬間。
複数の銃口が向けられる。
発砲。
サガラの体が後ろに弾かれる。
膝をつく。
処理班が一歩、近づく。
血が床に広がる。
距離が詰まる。
「……ここまでだな」
小さく呟く。
腰に手をやる。
取り出したのは、小型の爆発物。
安全装置を外す。
サガラは、わずかに目を細めた。
「……プレゼントだ」
その言葉だけを残して——
閃光。
爆音。
オペレーションルームが、崩れた。
*
通路。
レオンは、応戦しながら後退していた。
銃声。
火花。
壁が削られる。
その中を、カイが駆けてくる。
「急げ!」
レオンが叫ぶ。
カイが息を荒げる。
「サガラさんが……!」
「振り返るな!」
その声は強く、すでにすべてを悟っていた。
避難路手前。
ルキ、ナッシュ、アヤたちと合流する。
「無事か!」
レオンが叫ぶ。
ルキが頷く。
「なんとか……!」
その瞬間。
反対側の通路から影が現れる。
「……挟まれた!」
ナッシュが叫ぶ。
処理班。
両側から迫る。
アヤが即座に銃を構える。
「ここで止める!」
撃つ。
一人倒れる。
だが距離が近い。
処理班が一気に詰める。
ナッシュが捕まる。
「ぐっ……!」
腕をねじられる。
銃が落ちる。
「ナッシュさん!」
カイが叫ぶ。
躊躇なく飛び出す。
体当たり。
ナッシュを押さえつけていた処理班を弾き飛ばす。
ナッシュが解放される——
だがその隙に、
別の処理班がルキを掴む。
「っ……!」
ルキの体が引き寄せられる。
「ルキさん!」
カイが向かう。
だがその前に、
さらに別の影が立ち塞がる。
格闘になる。
殴り合い。
押し合い。
呼吸が乱れる。
その間に、
再びナッシュが捕まる。
動きを封じられる。
カイの視界が揺れる。
「くそっ……!」
ルキがその光景を見ていた。
一瞬。
すべてを理解する。
抵抗をやめる。
処理班に押さえつけられながら、カイを見る。
ポケットから、小さなデバイスを取り出す。
「カイ!」
叫ぶ。
全力で投げる。
カイが反射的に受け取る。
「それ——」
息が止まる。
ルキが叫ぶ。
「キーはカイに託した!」
その声は、はっきりと響いた。
「逃げてくれ!」
レオンの目が一瞬だけ揺れる。
だがすぐに前を向く。
「……行くぞ、カイ!」
カイは動けない。
「でも……!」
レオンが肩を掴む。
「行け!!」
その力に引かれるように、カイは走る。
アヤも続く。
背後で、銃声が響く。
叫び声。
衝撃。
振り返ることはできなかった。
ただ——
走るしかなかった。




