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ヒューマンコード  作者: エイジ


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第40章 残された火種

カイの胸に、銃口が突きつけられていた。


息が荒い。


だが、目は死んでいない。


「……離せ」


押さえつける腕に力を込める。


「離せっ……!」


体をひねる。


だが——


びくともしない。


アヤは、動かなかった。


ただ、静かに目を閉じていた。


呼吸が、ゆっくりと落ち着いていく。


「……カイ君」


小さく呼ぶ。


その声は、不思議なほど穏やかだった。


「もう——」


その瞬間。


閃光。


白。


視界が塗りつぶされる。


次の瞬間——


衝撃。


カイの体を押さえつけていた処理班が吹き飛ぶ。


アヤを拘束していた腕も、弾かれる。


「っ……!」


地面に転がる。


すぐに起き上がる。


視界が戻る。


そこに——


一人の女性が立っていた。


煙の中。


揺れる影。


「二人とも、まだ諦めるのは早いよ」


その声を聞いた瞬間。


カイの目が見開かれる。


「……セラさん……!」


セラは軽く肩をすくめた。


「オバケでも見たような反応ね」


すでに動いている。


手に持っていた小型装置を、上空へ放り投げる。


装置が空中で展開する。


ノイズ。


高周波。


次の瞬間——


上空のドローンが一斉に揺れた。


「……落ちろ」


セラが呟く。


ドローンが、次々と墜ちていく。


処理班が一瞬、動きを止める。


その隙を、セラは見逃さない。


一歩踏み込む。


速い。


喉元へ一撃。


崩れる。


次。


回転。


肘打ち。


骨が鳴る。


さらに一人。


足払い。


叩きつける。


終わり。


カイは言葉を失う。


あまりにも一方的だった。


セラは振り返る。


「まだ走れる?」


アヤが頷く。


「……はい」


カイも立ち上がる。


「いけます!」


セラは一瞬だけ二人を見た。


状態を見極めるように。


「よし、ついてきて」


それだけ言って、走り出す。


アヤとカイも続く。


残った処理班が追おうとする。


だが——


ドローンは機能していない。


連携が崩れている。


一瞬の遅れ。


その差で、三人は闇に消えた。



地下通路。


暗い。


湿った空気。


三人はようやく足を止めた。


カイが壁にもたれる。


呼吸が乱れる。


「はぁ……はぁ……」


アヤも静かに息を整えていた。


セラは周囲を確認する。


「……ここなら少しは持つ」


振り返る。


「セラさん……ありがとうございました」


セラは静かに頷く。


「無事だったん……ですね」


カイが息を切らしながら聞く。


「えぇ、離れの病室にいたのが幸いしたわ」


一拍。


「……ところで、状況を教えてくれる?」


カイが顔を上げる。


乾いた喉もそのままに話し始めた。


「南部拠点と北部拠点……同時に攻撃を受けました」


セラの表情が、わずかにだけ動く。


「サガラさんが……」


言葉が詰まる。


拳が震える。


「……みんなの退路を確保して……処理班を道連れに……」


沈黙。


アヤが続ける。


「ルキとナッシュは拘束されました」


セラは何も言わない。


ただ、聞いている。


カイの声が、さらに低くなる。


「そして、レオンさんまで……」


息を吸う。


吐く。


「……僕たちを逃がすために、残って……」


言葉が続かない。


だが、もう説明はいらなかった。


セラは目を閉じた。


一瞬だけ。


そして開く。


「……そう」


それだけだった。


カイはポケットに手を入れる。


取り出す。


小さなデバイス。


「これ……ルキさんから」


手のひらに乗せる。


「《ノア》のロック解除キーです」


だが、力が入らない。


「でも……もう……」


視線が落ちる。


「拠点は壊滅して……みんな……いなくなって……」


声が震える。


「どうすることも……」


言葉が、途切れる。


沈黙。


重い沈黙。


その空気を、セラが切った。


「東部拠点に行く」


カイが顔を上げる。


「……え?」


アヤも見る。


セラは続ける。


「まだ残ってる可能性がある」


短く、はっきりと。


「同時攻撃されたって話は出てないでしょ?」


一歩、踏み出す。


「だったら、潰されてない可能性が高い」


迷いはない。


「行って、確かめる」


カイは言葉を失う。


アヤが静かに言う。


「……危険です」


セラは即答する。


「分かってる」


一拍。


「でも、ここで止まったら——本当に終わるわ」


その言葉は、鋭かった。


カイがキーを握る。


震えが止まる。


少しずつ。


「……行きます」


顔を上げる。


「少しでも可能性があるなら……」


「行きたいです」


アヤも頷く。


「そうね……ここに居ても、何も変わらない」


セラが小さく笑う。


「よし」


その笑みはわずかだった。


だが——


確かに、火だった。


まだ、消えていない。


カイはキーを強く握る。


その感触が、現実を繋ぎ止める。


まだ終わっていない。


終わらせない。


三人は、再び歩き出した。

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