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18影の戦い

長い廊下の先に、ひどく痩せた男が立っていた。


「臭うぜ。

おめぇ、影繰りだな」


言葉は誠の知らない言葉だ。

だが41号のお陰で意味が誠の頭に入ってくる。


「東洋人だな。

中国人か?」


あまり名乗る必要は無いと誠は思った。

多分これは夢ではない……。

41号の能力だ。


そして、目の前の白人の顔は、ある国の人物を連想させる。

敵に回すと相当にめんどくさい国だ。


(41号、奴はどんな影繰りなんだ)


(電気を操るようだよ。

四人の中では一番強いよ)


影繰りと、小柄な東洋人、しかもランニングシャツとトランクスなので肉体も虚弱なのを見ながら言ってのける辺り、かなり戦い慣れしてる感じがあった。

見かけでは誤魔化されないだけの実戦経験があるのだ。


しかも、当然に勝って、レベルアップしている男だ。


だが、電気を放電する能力なら、多分、まだ距離があり過ぎる。


電圧次第で放電距離は長くなるが、いくらなんでも稲妻のような放電は人間業ではない。


41号に不意にテレポートされたので建物の外観は分からないが、廊下の左側は明かり取りの窓、右はおそらく部屋のようだ。


誠は安全な距離のうちに、部屋に透過で飛び込んだ。


と、ほぼ同時に廊下で爆発音が閃光とともに響く。


数十メートル離れていた筈だが、電気の攻撃があったようだ。


ただの放電と言う訳ではないらしい。


思い返せば影能力は物理現象ではないので、電気を使うにしろ、ただ放電するだけの能力では無いのは当然だった。


漫画じみてはいるが、電気を球にして撃つとか、あるいはレールガン的な攻撃をするのかもしれない。


誠が飛び込んだ部屋は、放棄された居室だったらしく、キッチンと食卓とベッドが一部屋にゴチャと詰め込まれていた。


慌てて逃げたらしく、部屋中がゴチャゴチャだ。


食卓には食べかけの、何かの料理が乗っているが、放置されていたのでゴキブリらしき虫たちが群がっている。


強い腐敗臭がした。


「くそ!

何処へ消えやかった!」


外で男が叫ぶ。


誠の透過能力を知らない敵との戦いは新鮮だった。


幽霊の大地に廊下をみてもらうと、痩せた男はまだ廊下の途中で怒っている。


何かの能力で誠が消えてのは、流石に分かる。


電気でどう戦うのか、が知りたかった。


「颯太、奴の背中に回って空中から蛹弾を撃ってみて」


颯太は、人使い荒いなぁ、などと言いながらも、戦いは嫌いではない。


すぐに飛んで、痩せた男の背中に、三発の蛹弾を撃ち込んだ。


男の背中で蛹弾は爆発するが、


「ぶぁーかめ!

俺の身体の表面には、常に電気が流れているんだ。

そこで誘爆するから、俺にはダメージは無いんだぜ」


なるほど、電気は攻防一体の働きをするようだ。


誠は、透過で男を落とした。


廊下は4階だったため、男は普通の人間なら少なくとも大怪我をする高さを落ちて、一階のコンクリート床に落ちたが……。


電気が地面に作用し、クッションのように床に着陸した。


(あれはなかなか、殺せなさそうだぜ)


裕次も唸った。


「電気というのは全ての原子に電子という形で含まれる素粒子だよ。

当然コンクリートにも原子レベルならあるはずだけど、素粒子レベルまで操作できるとしたら、とてつもない達人だよ。

ここまで上手に使われるとなかなか倒すのは難しい」


誠も呆然と呟く。


原子レベルの電子を操り、移動させ落下のクッションにするとは、電気を操る、とはいえ、千変万化の戦い上手と言えるだろう。


(そんな!

困ります、それではウサル君がやられてしまいます!)


41号が叫んだ。


(誠。

君には水分くり神がついているんだろ?

電気なんてチョロいじゃないか)


トカゲの信が話した。


「しかし、プールぐらいに水を出しても、電気は分散しても、総量は変わらないんじゃ?」


誠は反論するが、いいえ、と桔梗が手を広げた。


「この土地には地下水があります。

そこなら、いくら無尽蔵の電気を持っていても限界は来るはずです」


誠は、ふむ、と考え、


「やってみるよ」


と男の周りに蒸気の壁を作り、濃度を濃くした。

蒸気は霧となり雨となり、やがて数メートルの水球となった。


男は球形の水の球に封じられる。


が、球自体が電流で輝き出す。


(手のひらを広げて、地下を感じてください)


桔梗に誘導されながら、誠は周囲の地下を探り……。


「見つけた……」


地下水を影の中を滑らせて、男の水球と接続した。


球体が、いきなり水風船のように巨大化し、同時に光を失う。


誠はそのまま、男を地下水脈に落とした。


(あいつ、水の中で溺れて死んでたんじゃないのか?)


颯太は言うが。


「電気分解で酸素は作れるはずだから、そう見せていただけかもしれないしね。

完全に息の根を止めないと、強いだけに、次に当たるのはヤバいから」


誠は溜息混じりに言った。


(ありがとう誠さん、次に行くよ)


41号は容赦がない。


文句を言おうとした瞬間には、誠は生ごみの山のような場所に立っていた。


日差しは、バリ島のような湿度を含んだものではなく、砂漠性の乾いた暑さだ。


たが、それとは別に無限の生ゴミが生み出す腐敗臭は物凄く、足共にはネズミが走り回っていた。


あちこち、煙が上がっている。


腐敗しすぎたゴミの山は発火し、日差しとは別の熱を周囲に広げていく。


途方もない暑さだった。


「えと、41号?」


(なに誠さん)


「敵は何処?」


一面のゴミの山だが、人けはない。


(近くにいるはずだよ。

何処かに隠れてるんじゃないかな?)


この悪臭だけで人を殺せそうな生ゴミの山の中に自ら入って隠れるのか?


そんなのとは、流石に潔癖の誠は戦いたくなかった。


「それで、敵はどんな能力なの?)


(動物に変身する能力だって)


動物……?


誠は、嫌な予感がして、足元を駆け抜けるネズミを見た。


子猫ほどもある、丸々と太ったネズミだ。


「しまった。

そんな戦いがあるなら、せめて戦闘用のブーツぐらいは履きたかった!」


もし、誠の考えの通りネズミが影繰りなら、もしかすれば病原菌の感染もあるかもしれない。


箱根の駅伝ランナーのような姿は不利すぎる。


(あ、服装ですか?

お好きなように変えられますよ。

なにしろ誠さんは睡眠中なので)


「え、そうなの?

なら、大地母神の桃源郷に突入した時の戦闘服がいいんだけど!」


(僕は知らないですけど、誠さんの夢ですから、誠さんがイメージすれば実現しますよ)


頭で黒い戦闘服をイメージすると、身体に靄がかかるような感じがして、やがてブーツ、手袋の戦闘服姿になった。


瞬間、巨大なネズミが誠の足に噛み付いた。


一瞬の差で、誠は安全靴レベルのブーツにより、ネズミの歯から守られると、影の手でネズミの首を真っ二つに切断した。


「蛹弾!」


近くのネズミ数匹を爆発させる。


と、ゴミの中から、ネズミとも人ともつかない、だが縮尺は人の顔をした男が現れ、


「てめー、よくも俺の身体をやりやがったな!」


誠は潔癖症だ。

ゴミの中から現れたネズミ姿の男などに不快感以外の何も抱かなかった。


「気圧増圧!」


ゴミがミチミチと男の周りに集まり、


「な!

なんだ!

何をした!」


悲鳴を上げる男の額が、ゴミと共に潰れた。


(やったね誠、あと一人だよ)


まあ、あの裸も同然の姿を思えば、この戦闘服なら、仮に接近戦をしても問題はない。


なにしろ寝間着トランクスは、つまり誠の下着の中でも二軍であり、下手に触られただけで落ちかねないのだ。


前は普通に履いていたのだが、流石に色も褪せ初め、ある朝、これは二軍として使おう、と思い至った。


実は容姿に全く自信のなかった誠は、最近のU人気に、少しプライドのようなものが生まれ始めていた。


無論、そんな気分に気がつく度に、いやいやkill♡とリウのお陰で人気になっただけで、僕は全く変わってない、と自分の微かなナルシーを粉砕するのだが、気がつくと今までは気にもしなかった学生服をドライクリーニングに出して何着かローテしたり、下着にも気を使ったりしだしていた。


この前も、メークさんが使ったようなアイペンシルを買おうか、とぼんやり考えて、慌てて正気に戻ったり、やや誠の心も遅まきながら揺れ動いているのだ。


四番目の場所は、何処かのビルの屋上のような場所だった。


男が立っていたので、誠は慌てて高架水槽の影に隠れた。


(あれはどんな影繰り?)


41号に聞く。


(今までの全員のリーダーだね。

分身能力を持ってるんだって)


分身?

どう使うのだろう?


「それで隠れているつもりか?」


背後から声をかけられ、誠は慌てて振り向いた。


確かに高架水槽の先にリーダーはいるのに、誠の背後に同じ男が薄く笑って腕を組んでいた。


慌てて透視してみるが、普通に人体だった。


「そう驚くなよ。

これが俺の影能力、分身だ」


男はニカリと笑い、


「まー、電撃だの動物になる、だのと比べたら大した能力じゃねぇ。

ただ、俺たちには、よく鍛えられた頭脳がある。

その頭脳を加えると、多少、構図は変わる、って事になる」


リーダーが話した瞬間、背後から透明な縄が跳んできて、誠を高置水槽の鉄骨にグルグル巻きにした。


横に、第三のリーダーが立っていた。


「俺の身につけたのは、言わば誰もが練習次第で身につけられる、ごく普通の戦闘術だ。

だが、それが影の能力と合わさると……」


誠の正面の第二のリーダーが、軽くジャブを誠に放った。


顎の先端に、コンパクトに当たるパンチだ。


だが、身体を固定されているうえでの影の力の乗ったパンチは一発で気絶しかける程の威力だった。


誠を鉄柱に押さえているのは、釣りで使うテグスだった。

確かに丈夫だが、普通なら影繰りが本気になったら切れないほどのものでもない。


だが、そのテグスは誠が取ろうとしてもビクともしなかった。


「動けねーだろ!」


横の第三のリーダーが言う。


「影を流すだけで、このようにただのテグスが鋼鉄の鎖より強くなる。

こういう、ものに影の力を込める技術を、派手な能力のある影繰りほど知らないものなんだ」


テグスから透過で抜けることも出来ない。


「そしてだ」


第一のリーダーがビルの先端から振り向いた。


普通は銃は影のオーラに弾かれる、と言うだろ?

だが、同じ要領で弾丸に影の力を込めると……」


軍用拳銃たが、サイズ的には小口径のコンパクトなハンドガンだ。


バン、と撃つと、誠の腹に突き刺さった。


激痛が誠の全身を引き裂く。


誠は、水になってテグスから逃れ、そのまま階下に透過した。


水になった時点で弾丸は身体から抜けているし、傷は癒えている。


たが攻撃を受けたダメージは精神に残っていた。


「痛たっ……。

あの影の力を物に込める、って一体なんだろう……?」


(蝶調では、する人はいないな)


田辺にも分からない。


(おそらく呪術的に念を込めるのと近いことだと思います)


語るのは桔梗だ。


(誠さんも山伏修行をしましたが、あれも霊力、今は呪力と言ったほうが分かりやすいですね。

この呪力、霊力に差はありません。

念の力、と言い換えてもいい。

おそらく、影の力も同じだと感じました)


(感じた、というのはあの場で同じと理解した、という事だね)


田辺の質問に桔梗は頷く。

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