16包囲網
「いいか!
ヘリが1台、通信車が1台、軍用トラックに一中隊、自走ドローンが六台、ほんの一両日の間に失っているのだぞ!
これは既に敵の大反抗と言っていい!」
大きなカイゼル髭の司令官が声を荒げた。
六人の男たちは、それぞれただの小隊長ではない。
影繰りの兵士小隊六隊が集められていた。
「敵はおそらく、ゲリラ戦に精通した特殊部隊だ。
もしかすると、他国の戦士かもしれない!」
周辺の原住民は壊滅寸前まで叩いているはずだった。
だが、周りには、この白人の国を滅ぼそうとするアラブ、アフリカのイスラム系武装組織は無数にあった。
彼らは、常にそれら全てと間接的には戦っているのだ。
彼らの情報組織は長い年月をかけて世界中に広がり、CIAやMI6と協調して精密な情報網を作っていた。
だが、今回のゲリラの情報は、今のところ、爪の欠片ほども集まっていなかった。
相当に訓練されたプロ集団だ。
ある時は中隊規模の包囲戦を展開し、しかも薬莢一つ残していない。
そこらのアホなイスラム系の武装集団にはないインテリジェンスを感じる。
鍛えられた本物のゲリラ部隊。
司令官はそう結論づけた。
彼らは少しづつだが壁に近づいている。
もし壁が破られるようなことになれば、ただ一般市民が犠牲になるだけではない。
この国によいイメージを持っていない周辺国が、一斉に隆起することだって過去にも何度も、この国は経験しているのだ。
「必ず潰せ!」
司令官は机を叩いた。
「それでなくても、一体どこの助力を得ているのか、その証拠だけても掴んでこい!」
影繰り部隊の六人の小隊長は、静かに頷き、部屋を出た。
彼らは無駄口など叩かないのだ。
ロトたちは、半壊した小学校で目を覚ました。
敵兵から鹵獲したレーションや缶詰がジープ1台分、集まっていた。
ウサルの巧みなナビゲートで、三人は敵の捜索網を潜り抜け、ここで一晩を過ごした。
この辺のピルの屋上に登れば、敵の作った壁が遠くに見える。
本来はロトの国であった場所に作られた壁だ。
先祖はそこで何千年もの間、長閑に牧歌生活を営んでいたのだ。
だが、壁の近くだからこそ、派手に動くわけにはいかない。
壁が見えるということは、壁からも見えるのだから。
「新しい部隊が動き出したよ」
ウサルは、幼児から小学生低学年という容姿だったが、話す言葉は的を得ており、軍の内容も理解していた。
「影繰り、って言う超能力の部隊だ」
影繰り、の名はロトも聞いていた。
一人で大軍を壊滅させるほどの力を持った、プロの兵士であり、しかも超能力を持っている、という。
「下手に動けないな」
とはいえ、ジッとしていれば、敵の包囲網はどんどんロトたちに迫ってくるだろう。
ウサルは目を瞑り、虚空を見上げた。
「彼らは強いけど、兵隊のように集団を作らずに一人で動いているよ。
仲間も敵のように感じているみたい。
仲間の前では、自分の超能力も見せたくない、と思っているんだって。
だから、とても強いけど、隙もある。
もうしばらく、観察してみれば攻略法も見つかるかもしれないよ」
しばらくは影繰りたちを観ることにした。
望遠鏡もあったが、ガラスは時に光を反射する。
瓦礫の廃墟に、迷彩服の兵士が一人で歩いていく。
「狙撃とか怖くないのかね……」
コメラ婆が囁く。
一人で歩こうが、一小隊で歩こうが狙撃は怖い筈だが。
「銃弾くらいは弾いてしまうらしい……」
ロトが唸った。
ウサルは手で輪を作り、兵士を覗いた。
「影に妖精を住まわせているようだね。
人を殺せば、妖精が魂を食べて強くなる。
だから兵隊と影の妖精は仲良しなんだ」
「たくさん敵を殺せば、影の妖精が得をする、って訳か」
「そして妖精は強くなり、そうすれば影の持ち主も強くなる。
ただ、火は水に弱いとか、能力を知られると弱点も予想されるから、味方にも能力を隠そうとするようだね」
「なるほどな。
秘密は守らないと妖精を怒らせるのかもしれないな」
ウサルはハープでも弾くように空中に指を走らせていたが。
「ロト。
君の目に入ってもいい、という妖精がいるよ。
どうする」
「目に?
影じゃないのか?」
「似たようなものなんだけど、この妖精は目がいいみたい」
「どんな力なんだ?」
「妖精が人間と一体化すると不思議な変化が起こるんだよ。
だから、入らないとどういう力かは分からないんだ」
「分かった。
俺は喜んで目を差し出す。
復讐が俺の目的だからだ」
ん、とウサルは頷き、両手を踊るように動かした。
ウサルの手が、ぽう、と光る。
「ほら。
見える?」
ロトは、ウサルの手の中に、小さな子供のような姿を見た。
「見える。
子供のようだ……」
弟が三つぐらいの頃に、姿は似ている。
ただし、羽虫のように小さいが。
光はフワリとロトの右目に入った。
弱点が分かる、とロトの頭にイメージが飛び込んで来た。
「影と同じで、君が敵を倒せば倒すほど、妖精の力は強くなるよ」
ウサルが教える。
ロトは兵士を見た。
左右の手から一本づつ、フワフワ浮かぶ鞭のようなものが出ていた。
あれが、あの兵士の影らしい。
(二本の鞭、打たれると電流が走る。
弱点は……)
ロトの頭にイメージが届く。
そして、兵士の右足、膝が黒い靄に覆われていた。
(あれが弱点か。
怪我でもしてるのか?
まあ、でも影繰りでも足が弱点ならなんとかなりそうだな)
ロトは思う。
「ちょっとみんな、手伝ってくれるか」
誠はホテルで、寝付けずにウツウツしていた。
あのイーサンの姿に、かつてのカブトの姿を思い出してしまったのだ。
あのとき、誠は剥き出しのカブトの脳を見た。
沢山の配線がヘルメットと繋がっていた。
無論、大地母神や妖怪たちも恐ろしかったが、神様? と思えば別の見え方も出来る。
宇宙人とか、人を襲う動物とか、病気などの細菌は誠には元々理解不能、と最初から思えるからだ。
大体、味方になった今も大地母神の考えや反応は誠には理解できない。
大体、殺し合いをしていたのに、リーキーの一言で味方になってしまう感覚も分からない。
だが、マッドドクターのあれは人の手による、とてつもない悪意だった。
ようは自分は優れているので、劣った人間には何をしても構わない、というような優生思想から生まれる、人を人と見なさない無自覚な残酷。
人の手による人体改造という暴力だった。
イーサンが途方もなく強かったため、より以上に恐怖と嫌悪感が混ざった、解消できない心の泥沼が誠を覆っていた。
あんなのが、あと何人いるんだろう……。
全部倒さないと日本に帰れないのか……。
暗澹たる思いで寝返りを打った誠は、光る子供を見た。
幽霊か! とも思うが恐ろしくはない。
「君は?」
少女のように小さく、儚げな顔だが、男の子のようでもある。
「僕は41号。
ウサルくんが危ないの」
何かを誠に要求するようだが、全く分からない。
「お兄さんはウサル君を助けられるんだ」
「でも、しばらく動けないんだよ」
「僕が運べるから」
「?」
誠は、おそらく夢の中に落ちて行った。
そこは暑い、廃墟だった。
遠くに、男が一人、歩いていた。
(あれがウサル君の敵の一人。
影繰りだよ)
41号はほぼ幽霊のようになって、空中から誠に教えた。
(他に何か情報はないの?)
遠距離か、近接攻撃か、だけでも分かるとたいぶ助かる。
(お化けの手を操るの。
戦車もギューと握り潰すんだよ)
なるほど、パワーのある遠距離型なら、およそ射程は誠より短いくらいだろう。
とにかく、どこかに隠れて隙を伺おうか、と思って自分の着ている服を見て驚いた。
タンクトップとトランクスタイプの下着一枚なのだ。
何故か靴はスニーカーを履いていた。
「え、何、この格好?」
思って、その姿で寝ていたのを思い出した。
(誠!)
裕次の声がして、ハッと見ると、誠の前に巨大な手が誠を握り潰そうと指を広げていた。
うわっ、と横に転がり、男に蛹弾を撃った。
が、もう一つの手が蛹弾を弾く。
飛び込むようにビルの残骸に逃げ込むが、重機より巨大な片手が誠を追いかける。
蒸気の壁を張って奥に逃げるが、手の動きは遅くはなるものの止まらない。
誠は周りの瓦礫を影の穴に滑らせて、男の頭上から落とした。
大きな岩が男に当たる。
だが、影のオーラのため、逆に岩が砕けた。
巨大な手が誠に迫る。
仕方なかった。
誠は、わざと手に掴まれた。
そして影に滑り込み、男の背中に出ると、誠だけは更に影の中に落ちて元の場所に戻った。
敵のいた場所には、何も残っていなかった。
ただ、大量の血が水たまりを作っていた。
(やっぱりお兄さんは強いね。
イーサンを殺しただけはあるよ)
「え、君、イーサンを知ってるの?」
僕らはイーサンと違う工程で生まれたけど、イーサンは三つ上のお兄さんみたいなものだよ)
「君もメシア候補?」
(うん、でもね。
僕はウサル君が本物のメシアって知ってるから、ウサル君を守るの)
「え、ウサル君は本物のメシアなの?」
本物がいるなどと信じていなかった誠は驚いた。
(他のメシア候補は天と繋がってないから分からないんだー。
ウサル君は、絶対に守らないと世界が滅ぶような人なんだよ)
偽メシアが世界を滅ぼすものと誠は思っていたが、本当のメシアは生まれていて、彼が死ぬと世界は破滅に向かうらしい。
(だから誠お兄さん、あと四人の影繰りをやっつけて!)
「よ、四人もいるの?」
流石に誠も驚いた。
しかも誠はランニングとトランクス姿で何故か靴下とスニーカーは履いていた。
誠の持っている靴下は全て同じデザイン、同じ色の黒いソックスだったので、意味は無いがとてもか恥ずかしかった。
実は、ヌードポスターを写真集のオマケに付けられる、とかは誠はそれほど恥ずかしくはなかった。
あくまでUの裸だったし、スタッフも沢山いて、全身はメークされていたので、ある意味、裸風の扮装、と考えていたからだ。
だが、今はメチャクチャ恥ずかしい。
トランクスにしても、もっと腿の隠れる長さのものもあるが、誠としては寝間着に過ぎなかったので、安いスーパーで三枚入りの物を履いていたのだ。
(じゃあ、次に行くよ!)
誠が抗議する暇も無く、誠はビルの廊下に立っていた。




