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12楽園の中心

「そうね。

山の方にイーサンがいる可能性はあるわね。

ただ、そう誰も彼もが超人的な射程を持ってるわけじゃ無いとも思うのよね」


あ、確かに。

あの人の顔をした猫は少なくとも1万メートル級の射程を持っているが、代わりにあまりパワーは無さそうだ。


暗殺専用のような影繰りだ。


イーサンは、無数の生きた動物を支配できるのだ。

メシア候補とはいえ、それほど途方もない射程は持っていないと、常識的には考えられる。


「しかし俯瞰して見ているかもしれない、というのは悪くない考えよ」


美鳥は言った。


「え、山じゃなくて俯瞰できる場所ですか?」


上空を見あげるが、高い木が多く、空もあまり見えない。


「ま、すぐ判るような奴ならメシア候補にはならないでしょう。

でも、イーサンがどこからか見ているとすれば、タイミングよく蟻が襲ってきたり、進路をゴキブリが塞いだりするのも頷けるわ。

確かに、何かのカラクリで奴はあたしたちを見ているのよ」


別に偵察用の影繰りがいる、とまで考えなくともドローンを飛ばすとか、道々の木の枝に防犯カメラなどの機械を取り付ける、だけでも事は足りる。


なにしろ遊歩道から灯台までは一本道なのだから。


そもそも昆虫や動物を集めるために準備していたのだ。

同時に集音器やカメラを取り付けてもおかしくはない。


誠は幽霊のうち、チャゴとハルに防犯カメラを探してもらうが見つからない。


(誠。

僕もイーサンの能力はよく知らないんだけど、鳥とか、目の良い生物をカメラ代わりにしてるんじゃないかな?)


とチャゴ。


なるほど、虫の視力は複眼なので人と共有可能かは分からないが、鳥や猿などの視力なら有能なドローンカメラになりそうだ。


だが、それだと数が無数にあり過ぎてイーサンの監視を逃れるのは不可能になる。

無論、だからメシア候補なのかもしれないが。


「まあ、そこは置いておいて前進しましょう」


と美鳥。


確かに動いていけば、自ずとカメラの謎も分かる可能性もあった。


遊歩道を進むと、森から巨大な蛇が現れた。


(国河?)


解説役の国河に聞くが、


(あ〜俺、蛇は駄目なの)


代わりに田辺が、


(アミメニシキヘビだろう。

毒は無いが、捕まったら巻き付かれて最後だ)


確かに巨大だ。

遊歩道にトグロを巻くと、誠たちが歩くスペースは全く無い。


イーサンが操っているのだから、必ず襲って来るだろうし、今、トグロを巻いて動かないのは、カメラを察知される事を危惧しているのかもしれない。


「飛んで越えましょうか?」


誠は言うが、田辺は。


「蛇というのはジャンプ力が強いんだ。

毒蛇に噛まれるのも、思うよりずっとロングレンジに飛びつかれるので逃げられない。

上空も、決して安全圏じゃない」


しかし、イーサンに操られているとはいえ動物と戦うのも気が引ける。


誠が戸惑っているうちに、アミメニシキヘビは鎌首を持ち上げる。


頭は誠の顔と同じくらいだが、蛇の顎は外れるため、胴体も全て丸呑みにできると田辺はいう。


その前に、身体に巻き付き、圧倒的なパワーで骨などを粉々に粉砕するのだ。


蛹弾で攻撃してもいいのだが、蟻やゴキブリは何とも思わないが、ニシキヘビは、特に可愛いとかは思わないにせよ、戦うのは躊躇してしまう。


虫は誠には、何か非生物のような気味悪さを感じるが、巨大蛇は圧倒的に生物だからだ。


透過で落とすことも出来るが、殺したくは無かった。


だがイーサンに操られた大蛇は、問答無用で誠に襲いかかった。


透過で攻撃は避けつつ、影の手で顔に威嚇攻撃をしてみる。


が、大蛇の鱗に覆われた顔は、見た目以上に頑強で影の手では切断は出来なかった。

真子が東京に残っているのも大きいかもしれない。


そして、誠の攻撃を見切った大蛇は、とぐろ状態から次第に体を伸ばし始め、不意に尾で誠を襲った。


思わぬ方向からの鞭のような強烈な一打は、美鳥の蝶が受け止めたが弾き返され、影の体で何とか受け止めた。


特に高田類や滝田と大川の体育会系の三人が強力な守備力を示した。


颯太や裕次が、逆にスピードを生かした攻撃を大蛇に撃ち込む。


殺すなら石化するなり地の底まで落とせば良いが、貴重な野生動物を殺すまではしたくない。


だがイーサンはそこも見透かしたように大蛇の巨体を誠にのしかからせた。



誠は影の中に入って、後方に滑った。


蛇はドスンと倒れたが、すぐに誠に攻撃してくる。


(誠君。

蛇を影の中に入れて遠くに飛ばす事は出来ないかい?)


「え、やったことないですけど……」


蛇が、巨大な顔を誠に向けて突き出してきた。


誠は、自分の手を見つめ、手のひらの真ん中あたりに影が集まるイメージをした。


そして、出てくる蛇の頭に、チョンと触った。


大蛇が影に飲まれていく。


出口は海の中に設定した。


大蛇アミメニシキヘビは、影を滑って海中に滑り出た。


「中々の頭脳プレーね」


美鳥は鷹揚に誠を褒めた。


イーサンは大蛇にかなりの自信を持っていたのか、しばらくは遊歩道は静かだった。


しばらく直線が続いた後の曲がり角を曲がろうとすると、突然ユカリが現れた。


ユカリは前の戦いでUと同じ芸能事務所のライトに殺された少女で、証拠隠滅のため遺体を特大の三つの鍋で茹でられていた。

そのためか、元々の素養なのか、三つの釜で吉凶を占う湯釜神事を独自に身につけていた。


左の釜が湯気を吹き、低い、俗に鬼の鳴き声と言われる声で危険を知らせていた。


誠は立ち止まった。


恐る恐る角を覗くと……。


白くなるほどの蜘蛛の巣が道いっぱいに広がっていた。


(ユカリちゃん、ありがとう)


心でお礼を言うと、茹でられて凄いビジュアルになっているユカリが、微かに笑った。


虫好き少年の国河が弾む声で、


(お、珍しー、灰色ゴケ蜘蛛だよ。

結構強い毒があるんだぜ)


と、全く嬉しくない解説をしてくれる。


これだけ幽霊がいると、誰かが何かに詳しかったり得意だったりして、みんな僕の能力になっちゃうんだよな……。


やれやれ、と誠は思う。


誠は静かに建築に向き合うときが一番幸せだったが。


裕次のお陰でプロのギタリストだし、颯太の絵の才能もよく褒められる。


他にも格闘技なら偽警官さんとか、スポーツのルールは滝田や大川が詳しいし、高橋さんはプロの美容師だ。


更に早川はプラモデルを作らせたらプロ級の腕前で、特に影の体を手に入れてからは精密機械のような動きが可能になり、雑誌のガンプラコンテストで優勝した。


また霊能者の桔梗さんと使い魔たちのおかげで、何度か除霊まで誠は経験していた。


あーゆー怖い体験は、もう二度と経験したくないな……。


桔梗や山伏の疾風さんによると、神に会ったり霊を見たり、まして除霊などをする度に、誠の神霊に関するレーダーは強くなり、見やすくなる、との事だった。


正直誠は、大人用尿取りパットを飼うか迷った程だ。


仲間の幽霊や神様は怖くないが、あの戦士の霊? も、かなり肝が冷えた出来事だった。


もう既に、誠の心霊レーダーは常人の域を超えつつあるのかも、と思うと心が重い。


誠は蜘蛛の巣を蛹弾で燃やそうか、と思ったが、森林で火事はまずい、と田辺に止められた。


ならば蒸気の壁の気圧を上げて凍らそうかと考えたが、国河が、


「虫だって生きてるんだよ誠。

大蛇は逃がしてのに、蜘蛛は逃がしてくれないの?」


あれは誠の手で触れないといけないからなぁ、と誠は悩んだ。


仕方なく影の手の先に影を集めて、森の奥に巣ごと飛ばした。


「誠。

今度うちに掃除に来なさい」


「ごみ捨て場に直行でいいなら、いいですよ」


と、やんわり断るが、しかし美鳥の部屋には少し興味があった。


誠は有能な掃除機扱いだが……。


やがて遊歩道は、階段で崖を降りる道になった。


山道の階段は先が見通せないため、降りるのをためらう。


たか、すぐに微かな滝の音が聞こえてきた。


「水の匂いがするわ」


匂いと言うと川上だが、美鳥の蝶も匂いや音も感知できる。


階段を降りると、大きな滝が目の前にあった。


数十メートル上から、轟音と共に、かなりの水量の河の水が落ちているようだ。


太く水量の多い滝の下は円形の滝つぽになっていて、階段を折りきった先十メートルほどで水に達していた。


だが、誠と美鳥の足は階段の途中で止まっていた。


砂利と岩の多い滝つぽ周辺の陸地には巨大なワニが日光浴をしていた。


「ちょ!

ワニよ!

ワニがなんでこんなところにいるのよ!」


美鳥は取り乱した。

蛇が苦手なのは聞いていたが、この巨大な爬虫類は、それ以上に生理的悪寒を覚えるようだった。


確かにデカい。


デバイスで調べてみると平均は四メートルと書いてあったが、おそらく六メートルを超える特大の個体のようだ。


そして、ここにいる以上はイーサンの指揮下にあるはずだ。


「アフリカでもアマゾンでもないのよ!

こんな観光地に、こんなのが居る訳ないじゃないの!」


美鳥は言うが、誠は、


「イリエワニかいるんですよ。

汽水域に住むワニで、ここも灯台の近くですから、まあギリギリセーフなんでしょう」


誠が言うと、美鳥は感情を爆発させ。


「アウトよ!」


叫んだ。


遊歩道は一本道なのだから、つまりはこのイリエワニをどうにかしなければ、灯台には行けないようだ。


そして誠たちは、必ずイーサンを倒し、メシアとラミールの関係を暴かないといけないようだ。


誠は、昔家族旅行で行ったバナナワニ園でワニは見ていたが、大きさにヒヤリとはしたが、金網越しだったのでそれほどの恐怖は無かった。


が、階段の真下にワニかいるというのは、流石にアナコンダの数倍の恐ろしさだった。


同じ、パワーファイターには違いないのだが、ニシキヘビがテクニシャンの寝業師だとすれば、イリエワニは生ける暴力だった。


頭は、それだけで誠が上に寝られそうな大きさであり、歯はまるでノコギリのようだ。


体の大きさが、おそらく関取最大のお相撲さんよりも、まだ大きい。


これには、ちょっと近づくのは無理だった。


虫がキモいとか、生理的にどうとか言う問題ではない。


これは、まさに恐竜、ドラゴンそのものだった。


刺激して怒らせるのはマズい気がするし、第一、ヘビに効かなかった影の手が、この見るからに分厚い革鎧をまとったイリエワニに効くとは思えなかった。


あまりに化け物じみているのでヘビほど殺したくない、という気持ちにはならなかったが、逆に影の手で何処かと飛ばすと、その場所で誰かが襲われそうで不用意に飛ばすのも気が引ける。


だが睨み合っていても、イーサンが操っている以上、すぐに襲いかかるのは確実だった。


誠たちのいるのは土階段の上だが、そこからは木の階段がイリエワニの近くまで続いていた。


おそらく……。

この化け物なら、こんな木ぐらいはウエハースのように砕くだろう……。

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