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よりみちねこのカフェ  作者: 末野愛


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32/35

第32話。ここは保護猫カフェなんです

「あの人が……?」


 振り向こうとする自分の体を、みのりは懸命に押しとどめる。


「そうそう。物腰穏やかだけど、結構しつこいみたいだから。気をつけてね」

「なんかあったら助けに行くから言ってね」


 山崎さんの忠告に、夏川さんも後押ししてくれる。……ありがたいが、ありがたくない。助けを求める必要になんて、絶対になりたくない。面倒ではないか。


「……ではチラシは2枚ずつで大丈夫ですか?」


 みのりはコクリと頷いた後、先ほどまでの潜めた声ではなく普段通りの声で二人に確認した。

 突然の話に二人は目を大きくしていたが、すぐにコクコクと頷いてくれる。


「うん、それで。

 もしもっと欲しくなったらまたお願いしてもいい?」

「大丈夫です、ありがとうございます」

「……ッ、みのりさん!」


 立ち上がりかけたみのりを、山崎さんの声が止める。

 みのりが山崎さんを見ると「あの……」ともじもじした後に、両手を握りしめて前のめりになった。


「データ、もらえたりとか……!」


 みのりはおもわず笑ってしまった。


「……ごめんなさい、それは叔母に確認してみないと」

「あ、無理なら大丈夫だから。

 って言うか、それで推し写真みたいなの作れない? それ作ってくれたらそれでもいいから! ちーちゃんのだけが欲しいの!」

「山崎さん……」


 ……うれしいような、悲しいような。

 山崎さんは他の猫たちもかわいがってくれているし、推しを愛でたい気持ちも分かる。それでも……そう言い切られてしまうと、ちょっと切ない。


「これ特別かわいいもんねぇ、きょーちゃんの言うことも分かるよ。

 私もハナちゃんだけの写真欲しいもん」


 あまりのかわいさに倒れちゃうかもだけど、と夏川さんが笑う。それに「そうなの! さすがさとちゃん!」と山崎さんが大きく頷いている。

 そう言われると、みのりも少し考える。たしかに今回の写真は朔夜(さくや)が頑張ったからか、いつもよりずっとかわいく撮れている。そういう声があるのなら、申し訳ないがグッズにするのもありかもしれない。


「ありがとうございます、参考にさせていただきます」

「遠慮なく私らからも取っていいんだからね。いらない物は買わないし」


 そう言ってくれる夏川さんに救われる。

 みのりは「ありがとうございます」と頭を下げ、今度こそカウンターへと戻っていった。



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□



「あの……」

「はい?」


 会計を終えた男性――佐々木さんが声をかけてくる。

 カウンターの中でみのりが首を傾げると、佐々木さんが言葉を継いだ。


「先ほど写真のデータは叔母様に確認とおっしゃっていましたが……」

「ええ。この店は私の店ですが、叔母が経営する一部門として営業しております。

 この規模ですので、スタッフ募集に関しては叔母とも意見が一致しております」


 申し訳ございません――そう言ってみのりが頭を下げると、渋々ではあるが佐々木さんは納得したようだった。


「それに……」


 言わなくてもいいかな――チラリとそう思ったが、やはり言っておきたい。

 そう思い、みのりは言葉を継ぐ。


「ここは保護猫カフェで、猫たちのために営業している店です。……この子たちの新しい出会いの場として。

 そこをご理解いただけますと幸いです」


(……伝わらなくてもいいけど)


 伝わってくれればもっといいな――みのりはそう思う。

 ここは『保護』猫カフェなのだ。この子たちと触れ合い、さみしいけれどいつか連れて帰ってくれる人がいて欲しい。ユキちゃんのように、家族になる人が現れて欲しいのだ。それが――朔夜の願いなのだから。


「……失礼します」


 そう言って佐々木さんは内扉へ向けて歩いて行く。その背中にみのりは「ありがとうございました」の声とともに頭を下げた。

 顔を上げるとカウンターに朔夜が上がってくる。手を伸ばすと、その手に頭を擦り寄せられた。頭を撫で、体を撫でる。大人しく撫でられる様子に、


(ご褒美だな……)


 そう思い、クスリと笑った。途端、ペシッと手を叩かれた。

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