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よりみちねこのカフェ  作者: 末野愛


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30/35

第30話。いやでも申し訳ないですし……

「あれ……?」


 不思議そうな金橋さんの声に、店長の芦澤みのりはビクリと肩を震わせる。

 ちらりとみのりが金橋さんをうかがえば、金橋さんは1枚の印刷物をじっくりと見ていた。


「……寄付の受付、始めたんですか?」


 首を傾げてみのりを見る金橋さんに、みのりは「はい……」と小声で答えて身を縮こまらせた。……いたたまれない。


「とあるお客様からお声がけいただきまして……」


(ごめんなさい。特に金橋さんはほとんど毎日来てくれてるのに、本当にごめんなさい……!)


 心の中で平謝りするみのりの耳に飛び込んできたのは、「いや、いいんじゃないですかね?」との予想外の言葉だった。


「はい?!」


 おもわず声を上げたみのりに、金橋さんがビクリと体を震わす。

 ごめんなさい、と謝るみのりに、金橋さんが笑いながら手を振った。


「いや、よそのお店や団体でもやってることですし、そんなに気にされなくても。

 実際経費としても餌代なんかは結構かかるでしょう? だから『助けてください』って声を上げるのはいいんじゃないですか?」

「でもお店にも来てくださるのにそんな……」


 みのりがしょぼんと肩を落として呟けば、金橋さんが「いやいや」とまた笑う。


「世の中には『推し商法』とかがあるんですから、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。

 やりたい人がやるものでしょうし、『この子のために……』って思えるならなにかを一回我慢するぐらいでしょう? 無駄に遣うよりいいんじゃないですかね?」

「そう言ってもらえるならありがたいんですけど……」

「少なくとも僕はそう思いますよ?」

「……ありがとうございます」


 金橋さんの心遣いが本当にありがたい。

 金橋さんに頭を下げると、目の端になにかが見えた。そちらに顔を向けると、カウンターに上がってきたらしい朔夜(さくや)がいる。――フンと鼻を鳴らし……心なしかドヤ顔に見えた。なんか腹立たしい。

 みのりが手を伸ばすと、その手が空を切った。音もなく床に降り立った朔夜が再びこちらを見、フンと鼻を鳴らす。……どうしてやろうか、あの猫。

 ククク……と声が聞こえて、みのりが我に返る。

 慌てて振り返れば、金橋さんが声を押し殺して肩を揺らしていた。


「……失礼しました」


 金橋さんは手だけを軽く振ってくる。


(……そんなに笑わなくても……)


 みのりが口をへの字に曲げれば、笑いのツボから帰ってきた金橋さんが「……それにしても」と声を漏らした。


「とてもきれいに作られてますね。これはみのりさんが?」

「いえ、友人が。

『生成AIもあるし、簡単にできるんだ』って言って、作ってくれたんです」


『私のポートフォリオにもなる』と言っていたことは……まぁ言わなくてもいいだろう。


「猫たちもきれいにならんで撮れてますね。まるで人間みたいだ」

「……あ、ありがとうございます」


 ギクリと心臓を鳴らしながら、みのりが金橋さんにお礼を言う。

 そんなみのりの様子に気づいた様子がない金橋さんは「ふむ」と頷いた後、みのりを振り返った。


「このチラシ、僕にもいただけますか?」

「……いいんですか?」

「いつもお世話になってますし、これぐらいは」

「はぁ……」


(お世話になってるのはこっちだと思うんだけど……?)


 首を傾げながらもみのりはパソコンに向かい、プリンタで印刷する。

 金橋さんに手渡しながら「ありがとうございます」と言えば、金橋さんは笑顔で「いえいえ」と受け取ってくれた。


「これ、何枚か印刷しておいてもいいと思いますよ?

 都度印刷も大変ですし、それにほら……ちーちゃんがとてもかわいく撮れてる」


 きっと山崎さんが欲しがると思いますよ?

 そう言われれば「そうかもな」と思う。だがそれをダシに配るのもなんだか申し訳ない……。

 表情を曇らせたみのりに、「寄付するかどうかは山崎さんの自由ですから」と金橋さんが困ったように笑う。


「……ありがとうございます」

「いえいえ。みのりさんも、あまり気になさらず。

 みんないい大人なんですから」

「はい……」


 みのりが頭を下げれば、金橋さんはチラシを手に持ったまま定位置のテーブル席へと向かう。

 みのりはふぅ……と息を吐き、ためらいながらも印刷ボタンをクリックした。

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