第29話。相談相手を間違えた!
「……ってことがあってさぁ……」
「別にいいんじゃないの? くれるって言うならもらったらいいじゃん」
「でもさぁー……」
とある昼下がり。
友人以外の来客がいないのを良いことに相談すると、高校以来の友人である中野佐枝は事もなげにそう言ってしまった。しかもちーちゃんと遊びながらだ。
いや、そうなんだ。そうなんだけど……
「やっぱり気を遣っちゃうし……。
なんか申し訳ない気がするし、なによりめんどくさい……」
「そりゃめんどくさいだろうけど、でもそれでみのりの負担は減るんでしょ?」
ぐぅの音も出ない。
カウンターでうだうだ愚痴っていた店長の芦澤みのりはおもわず黙り込んでしまった。
悩みの種は先日来店してくれたゆかりさんの旦那さんの一言――もしよろしければご検討いただけませんか?――だ。
あの時言った申し訳ない気がすることも、寄付より来店してもらった方がうれしいことも本心だ。でも、そこまで言ってくれるものを断るのもいかがなものか。それに正直そうしてもらえると助かるのは紛れもない事実なのだ。
「よそのお店とかもやってるんでしょ?」
「うん、やってるところは結構あるね……」
「優子さんはなんて?」
「……やるんだったら任せるって。ちゃんと計上さえしてくれたら文句はないよって言われた……」
「じゃあいいじゃん。やりなよ」
「でもなー……」
「でもじゃないでしょ、でもじゃ」
佐枝が立ち上がってのしのしとカウンターにやってくる。
おもわず一歩下がると、佐枝はカウンターの中に乗り込んできた。
「世間様もやってる。お客さんがやってくれって言ってる。
それでなにが「でも」なのよ!」
「えー……めんどくさ「『めんどくさい』は禁止!」」
……被されてしまった。
ジトリと上目で佐枝を見れば、ふんと大きく息を吐いた。
「アンタにそんな好意つっぱねるような余裕あんの?」
「…………ないです」
「じゃあ受けなよ。やりなよ」
「でもどこにそんなん載せるのさ。炎上とかいたずらされたら……」
「あー……」
不安を口にすれば、さすがに佐枝の眉間にもしわが寄った。
そう、怖いのだ。もちろんめんどくさいのはあるけれど、もし寄付リストを載せて怖い目にあったら、と思うと踏み出せない。そこは理屈じゃないのだ。現実になる前に考えたところで、という話もあるが。
佐枝を見ると、まだ「うーん……」と唸ってる。
なんとなくホッとして「ほらほら出た出た」と、佐枝をカウンター内から押し出した。
押されるままに歩いていた佐枝がふと振り返る。そしてなにかをじっと見つめていた。
「? なに? どうした?」
「……別に、ネットに載せなくてもいいんじゃない?」
「え?」
佐枝が見つめる先をなんとなく見ると、そこには電子決済用のコードがある。
「ネットに出すのが怖いならこういう感じでさ、店内に置いたら?
で、コレみたいに読み込んでもらったら?」
「でもゆかりさんの旦那さんは『なかなか来れないから』って言ったんだよ?」
「ゆかりさんに持って帰ってもらったらいいじゃん」
「ゆかりさんはスタッフさんだし、持って帰ってもらってって、なんか要求してるみたいじゃん」
「でも本人が言ったんだよね?」
「そりゃぁ……」
「持って帰るかどうか、持って帰って実際に寄付するかどうかはそれこそ山辺さん家次第でしょ?
アンタが背負う必要ないじゃん」
「そりゃそうだけど……」
「はい、決まり! グチグチ言わないの!
さっさとリスト作る!」
……こうなった佐枝はどれだけ誤魔化そうが絶対に引かない。
(相談先間違えたかな……)
みのりは内心ため息を吐きつつ、パソコンに向かった。
とりあえずリストだけでも作らないと佐枝は納得しないだろう。
「そのリストできたらURLちょうだい。
佐枝様がチラシを作ってきてしんぜよう!」
「え? ウソ、そんなこと佐枝できるの?」
「最近色々勉強してるんだから大丈夫! 生成AIもあるし、簡単にできるんだよ?
私のポートフォリオにもなるし、任せて!」
「えー……」
こりゃダメだ、渡すしかない。
うれしいような悲しいような、なんとも複雑な気分になりながら、ポチポチと作業をする。
鼻歌を歌いながら戻っていく佐枝を見て、みのりは再びはぁ……とため息を吐いた。




