↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よりみちねこのカフェ  作者: 末野愛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/34

第26話。息子想いのゆかりさん。

「え? お休みですか?」


 店長の芦澤みのりは目を丸くして首を傾げた。

 目の前でスタッフの山辺ゆかりさんが申し訳なさそうに身をすくませている。


「お休み自体は問題ないですが……いつですか?」

「申し訳ないんですが、来週金曜日に……。

 あ、でも用事が終わったら午後からは入れると思います!」

「いえ、無理しなくても大丈夫ですよ」


 慌てたように声を上げるゆかりさんに、みのりもおもわず笑ってしまう。

 来週金曜日ですね。分かりました――そう言うと、ゆかりさんがホッとしたように息を吐いた。


「……ありがとうございます。

 あの、みのりさんは大丈夫ですか?」


 ゆかりさんのうかがうような声に、みのりはまた目を丸くした。

 心当たりがなさそうなみのりの様子に、ゆかりさんが申し訳なさそうに言葉を続ける。


「あの、その日……中林先生の新刊の発売日で、サイン会の整理券が……」

「中林先生?」

「小説家の、中林季節先生です。今度『はこにわ』って映画が公開される……」

「ああ!」


 そこまで言われて、ようやくみのりも理解した。

 中林季節――今売れっ子(らしい)の推理小説家で、今度ゆかりさんが言うように著作が映画化されるらしい。たしかコマーシャルで……


「あの、猫が出てたヤツですよね」

「! そうです、そうです。とても頭のいい猫ちゃんがアシスタント役の!」

「……ごめんなさい、小説あまり読んでなくて」


 パチンと嬉しそうに手を叩くゆかりさんに、みのりは申し訳なくなってしまう。

 みのりは小説を読むより漫画やドラマの方が好きで、ついでにアウトドア派だった。コマーシャルやポスターは見た気がするが、「猫が出るんだー」ぐらいにしか思っていなかった。


「……うん、大丈夫です。

 気にせず楽しんできてくださいね?」


 そう言えば、ゆかりさんが「実は私じゃなくて……」とこちらも何故か申し訳なさそうにしている。

 みのりがまた首を傾げれば、ゆかりさんが困ったように笑った。


「私も読むんですけど、実は息子が中林先生の大ファンで。

 発売日は息子が学校なんで、私が代わりに……」


 すみません、と頭を下げるゆかりさんに、みのりは手を振って「大丈夫です大丈夫です!」と声を上げる。

 そうか、息子くんがファンなのか。


「学校あるとたしかに難しいですよね。あれ? でも今ってたしか夏休み……」

「夏期講習なんです……」


 ああ、なるほど。

 みのりは深く頷いた。ゆかりさんの面接前に訪ねてきた息子さんは近くの高校――進学校だ――に通っている。

 大変だなぁ、ゆかりさん優しいなぁ、と思いつつ、みのりはニコニコと笑顔になった。


「大ファンならたしかにサイン会とか行きたいですよね。

 頑張って整理券ゲットしてきてくださいね!」

「……ありがとうございます」


 ニコニコ笑うみのりに安心したのか、ゆかりさんもホッとしたような笑顔を浮かべた。


「サイン会ってどこでやるんですか?」

「梅川百貨店の中の、あの大きい本屋さんらしいです。

 また今度調べに行ってきます」

「息子さん楽しみでしょうね。

 一緒に写真撮ったりとかできるんですかね?」

「……いえ、無理みたいですよ。

 たしか写真や動画禁止とか。そもそも中林先生、写真やメディアに出られないらしくて……」

「へー、そうなんですね」


 よく賞を受賞した作家さんがテレビに出ているのを見るが、そういうのもないのか。

 ふーん、とみのりは頷き、パソコンを開いた。叔母さんとも共有しているシフト表に、ゆかりさんのお休みを書き込む。

 その時。


「にゃうん」


 猫の声がした。

 顔を上げると、金橋さんの隣でつむぎがこちらを向いている。


「つむぎ?」


 声をかけると、にゃうんともう一度鳴き、くるんと丸まった。

 その姿にゆかりさんと金橋さんと3人で首を傾げる。

 みんなが首を振って笑い、作業に戻った。

 みのりがパソコン作業を終わらせて顔を上げようとした時に、


「きゃっ」


 のしっと頭に圧が載る。

 少し首をそらして頭を上げれば、そこにはフンと鼻息を吐く朔夜(さくや)がいる。


「さく?」


 そう声をかけてみのりが首を傾げれば、朔夜はゆるく首を振り、カウンターから降りていった。


(前にもこんなことあったような……)


「さぁくぅ~?」


 もう一度声をかけてみるが、朔夜は無視してクッションで丸くなる。

 はぁ、とため息を吐いて、みのりはまた椅子に腰かけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。