第25話。スタッフ募集? してませんけど……
ブブブ、とお店用のスマートフォンが震えた。
店長である芦澤みのりが画面を見ると、表示されているのは知らない番号だ。
「お電話ありがとうございます。『よりみちねこのカフェ』でございます」
みのりの声に、猫たちの水や店内のトイレを確認してくれていたゆかりさんが顔を上げる。
カウンターに急ぎ足で来てくれるゆかりさんに頭を下げて、みのりはスタッフルームへと急いだ。
『……あの、すみません。おうかがいしたいんですが……』
「はい、どのようなことでしょうか?」
電話口から聞こえてきたのは若い男性の声だった。
お店の場所か営業時間の確認かしら――そう思った次の瞬間、みのりは耳を疑った。
『今現在スタッフの募集はされていらっしゃいますでしょうか?』
「……いえ、申し訳ございません。
現在スタッフ募集は行っておりません」
(求人なんて出した覚えないけど……)
猫たちの写真はSNSに投稿するようにしているが、そんな投稿はした覚えがない。
叔母さんが出したのかしら――そう思いながらも、みのりは相手にきっぱり断った。
そもそも人を雇えるほどの余裕はない。
『……女性お二人のお店で大変だとうかがっています。猫カフェ勤務の経験もあるのですが、雇ってはいただけませんか?』
「お気遣いありがとうございます。
ですが、現時点ではスタッフ増員の予定はございませんので。
もし募集となりましたら親会社と相談のうえ、当店のSNSなどで募集させていただくことになるかと思います。その後にご応募いただけますでしょうか?」
『……承知しました。失礼します』
「失礼しま……!」
プツッ、と通話が途切れた。
はぁ……とため息を吐いて、みのりはスタッフルームを出た。
「お疲れ様です。
……? なにかありました?」
「……いえ、大丈夫です。迷惑電話でした」
気遣って声をかけてくれたゆかりさんに、みのりは困った顔で笑う。
迷惑電話――うん、間違いではない。援助してくれている叔母さんに確認はしないといけないが、押しかけ募集はどうかと思う。……ゆかりさんの時と、あの電話の相手は別だ、うん。なにより向こうの対応が悪すぎる。
カウンターに戻ると、ゆかりさんが再びチェックへと戻ってくれる。
それに心の中で感謝しながら、みのりはパソコンに手を伸ばしかけ――自分のスマホに持ち替えた。
なんとなく。
うん、なんとなくゆかりさんに見られてはいけない気がしたのだ。
叔母さんにメッセージを送り、改めてパソコンに手を伸ばす。
注文予定を確認している時に、自分のスマホが震えた。叔母さんからの返信が来て、やはり募集はしてなかったと確認する。
ちらりと、みのりはゆかりさんを見た。ゆかりさんは近づいてきたちーちゃんに笑いかけた後、すっと立ち上がった。袋を持ってスタッフルームへと歩いていく。
んー……、とみのりは目をつぶって首を傾げ、再び自分のスマホを手に取った。
トトト……とメッセージを書いて送り、またため息を吐く。
その時、ベチリと頭に重みが載った。
「きゃっ……!」
おもわず声と顔を上げれば、いつの間にかカウンターに朔夜がいる。
どこか不機嫌そうに見える朔夜と見つめ合い――フン、と鼻息を鳴らして朔夜はカウンターから降りていった。
こちらに背を向けてクッションに音を立てて座る姿に、おもわず力が抜ける。
「……みのりさん?」
声が聞こえてハッと我に返る。
心配そうにこちらを見つめる金橋さんになんでもないと慌てて首を振り、頭を下げた。金橋さんは困ったような顔のまま頷いてくれる。
(ありがたいなぁ……)
優しい人たちに囲まれて本当に幸せだと思う。……飼い猫は鬼だけど。
ふぅと一息吐き、気分を入れ替える。ブブブ……と震えたスマホを確認し、またみのりはトトト……とメッセージを送った。




