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よりみちねこのカフェ  作者: 末野愛


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19/22

第19話。知らないおじさん

 内扉が開き、「いらっしゃいませ」の声とともに頭を下げる。

 顔を上げると、そこには見知らぬ男性が立っていた。白髪でグレーがかって見える髪を七三分けに流し、キョロキョロと慣れないように見回しながらカウンターに近寄ってくる。


「あの、すみません。初めてなんですが……」

「ありがとうございます、ようこそ『よりみちねこのカフェ』へ。

 お時間は30分からで、ワンドリンク制でペットボトルの購入をお願いしております」


 そう店長・芦澤みのりはメニュー表とドリンク表をそっと差し出す。

 顎に手を当てて考えた男性が、「とりあえず30分で、ペットボトルはこれをお願いします」と指さしてくる。


「ありがとうございます。

 ペットボトルは後でお持ちしますね。お荷物をこちらのロッカーに入れて、おくつろぎください」


 頭を下げれば、男性もペコリと頭を下げてくれる。

「おっ」と声が上がったのでそちらを見れば、男性の足元に朔夜(さくや)がいた。


「立派な子だねぇ」


 男性がそっと屈み、朔夜にそっと手を伸ばす。

 一撫でされた後立ち去る朔夜に男性も立ち上がり、ロッカーに入れて窓際の方へと歩いて行った。


 何かがあるわけじゃない。

 でもなんとなく違和感がある。


(なんだろう……?)


 首を傾げつつカウンターを出ようとすると、スタッフルームからゆかりさんが出てきた。


「! 山辺さん!」


 みのりより先にゆかりを呼ぶ声がする。

 振り返ると、男性が立ち上がってうれしそうに手を振っていた。


「あら、中野様。

 いらっしゃいませ、ご無沙汰しております」

「久しぶり。山辺さんも元気だった?」

「はい、おかげさまで」


 ニコニコと話し合う二人にみのりが首を傾げると、それに気づいたゆかりさんが笑顔で説明してくれた。


「中野様は以前お世話になったお店の常連さんなんです。

 ……そういえばどうしてこちらに? お住まい、梅川の方じゃなかったでしたっけ?」


 不思議そうにゆかりさんが尋ねると、中野さんは少し慌てたように手を振った。


「いや、ちょっと用事でこっちまで来てね。

 猫カフェあるしのぞいたら、山辺さんの姿が見えたから久しぶりだなって……」

「まぁ、そうなんですね。ありがとうございます。

 ゆっくりしていってくださいね。

 あ、みのりさん。ドリンク私出してきますね」

「あ、はい。ウーロン茶をお願いします」


「はい」と返事した後、中野さんに頭を下げたゆかりさんがスタッフルームに戻っていく。

 それをニコニコと見送った中野さんは再び窓際へと向かい、「おおっ」と声を上げる。

 今度はなんだと思えば、クッションで丸まるサバトラ・しずくの側に屈んで指を差し出していた。


(和猫好きなのかな……?)


 朔夜の時よりうれしそうに撫でている気がする。

 ゆかりさんがペットボトルを渡しに行くと、中野さんはすごくうれしそうに受け取っていた。ただその後も、中野さんはゆかりさんの方をチラチラと見ている。その姿が妙に気になった。


(なんかおかしいのよね……)


 でも確認するほどのことじゃないし……。

 悶々としつつもカウンター内で作業をしていると、30分が過ぎた。

 声をかけに行こうかと顔を上げると、すでに荷物を持った中野さんがカウンターに近寄ってくる。


「いやぁ、しずくちゃんかわいいですね。また時間見てうかがいます。

 えっとお会計は……」

「30分とこちらのドリンクで850円になります」

「はいはい。あ、決済コードがあるから……」


 中野さんがスマホを取り出し、慣れた手つきで決済コードを読み込む。


「ありがとうございました」

「はい、ありがとう。

 じゃあ山辺さんまたね」

「はい、ありがとうございます」


 そう言って中野さんがひらひら手を振って帰っていく。

 出ていく姿を見送ってすぐ、今度は山崎さんと夏川さんが「いや、見たことあるって」「えー、でもどこだっけ?」と言い合いながら入ってくる。


「? いらっしゃいませ」

「ゆかりさん。さっきのおじさんって……」

「以前お世話になったお店の常連さんです。

 近くに来て見かけたからって立ち寄ってくださったんですって」

「へぇ……そうなんだ」


 山崎さんがそう頷くが、夏川さんが少し眉を寄せている。


「えーっと……今日は30分で。ドリンクはコレで」

「私はウーロン茶で」

「はい。ありがとうございます」


 ゆかりさんと一緒に頭を下げる。ゆかりさんがスタッフルームに入ると、「みのりさんみのりさん!」と山崎さんたちが駆け寄ってきた。

 ビックリしていると、山崎さんたちが顔を寄せてくる。


「さっきのおじさん、気を付けた方がいいよ!」

「え?」


 聞き返そうとした途端、山崎さんたちは窓際へと慌てたように戻っていく。

 ガチャリとドアが開く音がして、ゆかりさんがペットボトルを持って出てきた。山崎さんたちはゆかりさんからペットボトルを受け取り、ニコニコとしている。


(まさか……)


 山崎さんたちの言葉にいやな予感がして落ち着かなくなる。


(たしかに、なんか変だなって思った……)


『のぞいたらゆかりさんが見えた』って――目隠しシートを貼っているから、外からは足元からしか店内をのぞけないはずなのに。

 そわそわと指を組み替え、汗ばんだ手に風を当てた。

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