第18話。……気にしすぎ?
「こんにちはー……ってあれ? どうしたの?」
「え、なになに?」
内扉から入ってきた山崎さんと夏川さんの首を傾げる姿に、店長・芦澤みのりとスタッフ・山辺ゆかりが顔を合わせる。
「いらっしゃいませ、山崎さん、夏川さん。
心配させてごめんなさい、なんでもないんです」
みのりが笑みを作ってそう言えば、
「いやいや、なんでもないって顔じゃないでしょ」
「なになに、気になるじゃん!」
二人からは納得いっていない声が上がる。
ゆかりさんと再度顔を見合わせて「あちゃー」と笑った。
「さっき野島さんが帰られる時に、向こう側の駅出入口付近でこっちを見てる人がいるっておっしゃっていて。
それで出口間違えたのかな、地下って分かんないよね、って話してたんです」
「あー、なるほどねー」
ゆかりさんの言葉に、二人がうんうんと頷いている。
「地下は分かんないよね。特に梅川とかもうダンジョンだし!
近道のつもりがかえって遠回りになったりもするよねー」
「この前きょーちゃん自信満々で行った割に間違えたよね」
「しょーがないでしょ! だって方角的にあっちじゃん!」
ニシシと笑いながら言う夏川さんに、きょーちゃんと呼ばれた山崎さんが口を尖らせながら言い返す。そのままきゃんきゃんと言い合う二人を、
(仲いいなぁ……)
ゆかりさんと二人でニコニコ見ていた。
「……っと、そんな話はいいんだよ。
ごめん、みのりさん。今日も一時間で、ドリンクはコレで」
「私も一緒で、私はこっちね」
「はい、ありがとうございます。
お二人とも1時間で、山崎さんはゆずみつドリンク、夏川さんはウーロン茶ですね」
「うん、よろしく~!」
そう言って二人はそれぞれちーちゃんとはなちゃんの元へと歩いていく。
「私が」と言ってスタッフルームに向かうゆかりさんに頭を下げて、みのりはカウンター内で腰掛けた。……少し考えて、パソコンに向かう。
なるべく客観的に――そう考えて、はたと気づく。
(それだと普通に出入口を間違えたって考えるのが普通よね……)
考えすぎなのかしら?――そう思って顔を上げると、山崎さん・夏川さんと目がばっちり合った。だが合った途端、そらされた。
おもわず首を傾げるが、山崎さんも夏川さんも猫たちに夢中だ。
気のせいよね、と頷いた時、なんだか見られている気がした。
顔を上げるが、山崎さんたちじゃない。金橋さんもパソコンに向かっているし、ゆかりさんもフロアにはいない。
少し首を傾げてパソコンに向かう。だが……
(……ッ、やっぱり見られてる気がする!)
ガバッと顔を上げた。店内はさっきと変わらない。窓の外を見ても、誰かが立ってる気配もない。窓はそもそも目隠しシートを貼っているから、普通の目線では見えるはずがないのだ。もちろんのぞき込めば見えるけど……それじゃあただのホラーだ。
(って、ホラー?!)
まさかまさかまさかまさか。
頭から背中までがサーッ……と冷える。
(どうしようお祓い? それともお札? お守りでいけるかしら?)
っていうか、そもそも神社なの? お寺なの?
「みのりさん、大丈夫ですか?」
肩に手を置かれ、「ヒッ!」とおもわず悲鳴を上げる。
急いで見上げれば、そこにいたのはゆかりさんだった。大きく開かれた目がすぐに戻り、心配そうに眉を寄せられる。
「大丈夫ですか? 気分が悪いなら……」
「いや、大丈夫! ごめんなさい!」
慌てて手を振って声を上げるが、ゆかりさんの表情は戻らない。それどころか山崎さんも夏川さんも、金橋さんもこちらを心配そうに見ている。
「……いや、ホントなんでも。
なんか見られてる気がして……」
「え、どこから?」
お客さんたちみんなが立ち上がり、窓や外を見てくれる。……ありがたいが申し訳ない。
「いえ、ホント大丈夫です。
ちょっと視線が……お店の中からあった気がして……」
「ひっ……!」
夏川さんが体を小さくして周囲を忙しそうに見回している。山崎さんは……何故かキラキラしてるけど。
(そういや山崎さん怪談系にハマってたって言ってたっけ……)
内心で苦笑いをしていると、外を見に行ってくれていた金橋さんがカウンターに近づいてきた。
「外は問題ないようでしたけど……どの辺から視線を?」
「えっと、そうですね……」
そう、たしか……
「こっち、ですかね……」
そう言って指をさす。その先には猫用の出入口があった。黒い穴から見えたのは――
「…………ノア?」
声を上げると、そこからするりと黒猫のノアが出てきた。こちらを見向きもせずに滑らかに歩き、お気に入りのクッションにトスンと座り込む。
「……みのりさん?」
「ご、ごめんなさい!!」
赤くなる顔を押さえながら頭を下げれば、みんながクスクスと笑いながら元の場所に戻っていった。ゆかりさんは山崎さんと夏川さんにペットボトルを渡している。
「~~~~!!」
頭を抱えて小さくなっていると、ぽすんと頭に重みが載った。
顔を上げれば、朔夜がそこにいた。そして……フンと鼻を鳴らした。




