表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よりみちねこのカフェ  作者: 末野愛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/22

第17話。野島さんとゆかりさん。

 内扉がゆっくりと開く。ボブスタイルの黒髪がさらりと揺れ、小柄な女性が入ってきた。


「いらっしゃいませ」

「いらっしゃ……あら、野島さん?

 いらっしゃいませ」

「あら、山辺さん。こんにちは、お久しぶりねぇ」


 ゆかりさんを見て目を丸くした野島さんが、ニコニコ笑顔を浮かべながらカウンターに近づいてくる。


「お知り合いですか?」

「ええ。子供が小学生の時の同級生で……」

「PTAの役とか一緒にやったのよね。勝也(かつや)くん元気?」

「ええ、おかげさまで。咲良(さくら)ちゃんは?」

「もー、元気元気。相変わらず気が強くってねぇ……」


 野島さんがはぁ……とため息を吐く。その姿にゆかりさんが「咲良ちゃんはしっかりものだから」と話している。

 朔夜(さくや)がトンと、カウンターに飛び乗ってきた。

 カウンターに置かれた野島さんの手をチョイチョイと触っている。


「あら、さくちゃん。こんにちは」


 野島さんが朔夜に手を伸ばし、撫でてくれる。その手に頭を擦りつけ、朔夜がゴロゴロと喉を鳴らした。


(……この猫かぶり)


 みのりは内心で鼻を鳴らす。歓迎はしてるだろうけど、絶対懐いてるとかそんな殊勝なものじゃない。これは――


「ごめんなさい、みのりさん。うっかり話し込んじゃって。

 今日も30分お願いできるかしら? 飲み物はコレで」

「はい、ありがとうございます。

 ドリンク、ご用意しますね」

「ええ、よろしくね」


 そう言って野島さんはゆかりさんにも頭を下げて、窓際の方へと歩いて行く。

 クッションで寝そべるノアに近づき、手のにおいを嗅がせた後、ゆっくりと撫でていた。ノアも気持ちよさそうにしている。

 野島さんを見送った後、朔夜がカウンターから降りる。ゆっくりと歩き、ノアから少し離れたクッションの上で丸くなる。その表情は「ふー、やれやれ」と言わんばかりだ。


「みのりさん、ドリンク私が出してきますね」

「あ、はい。お願いします」


 笑顔のゆかりさんがそう言ってスタッフルームに入っていく。

 ありがたく「今のうちに」とパソコンに向かう。注文について考えていると、ゆかりさんがペットボトルを持って戻ってきた。野島さんに近づいて少し話した後、通路の中に設置してある給水器を確認してくれている。


(ああ、やっぱりありがたいなぁ……)


 最初こそ自分一人で十分だと思っていたが、人手のありがたさを思い知る。特にゆかりさんは別店舗だったとはいえ、Mofitto(モフィット)の先輩だ。頼まなくても先回りして動いてくれる人がいるのは本当にありがたい。


(心配してたようなこともないし、ホントによかった……)


 Mofittoの元同僚から「ちょっとうっかりさん」だとか、「ゆかりさん目当てのファンがいた」とか、そんな話を聞いた時には内心どうなることかと心配していたが、今のところ何の問題もない。ただただゆかりさんの存在がありがたいばかりだ。

 今もハナちゃんが倒した猫じゃらしを拾って戻してくれている。心の中で手を合わせながら、みのりは注文メールを送信した。

 んー、と軽く伸びをして、顔を上げる。

 見回した店内ではノアの横に座った野島さんが、近づいてくるふゆきに指を出してご挨拶をしている。かえではキャットツリーのハンモックから見下ろし、ハナちゃんが壁面の階段を昇っている。ちーちゃんが寝ている今、店内はとても静かだ。ただ空気清浄機の音と、金橋さんのキーボードの音だけが店に響いている。


 野島さんが時計を見、ノアをひと撫でする。

 腰を上げてロッカーに近寄る姿を見て、カウンター内でゆかりさんと立ち上がった。

 会計を終えた野島さんを一緒に見送る。


「ありがとうございました」

「こちらこそ。

 じゃあ山辺さん、また連絡するわね」


 そう言って野島さんがお店から出て行く。いつもなら通り過ぎていく姿が――何故か、店の前で止まっていた。


「あれ? どうかしたのかな?」


 不思議に思って内扉に向かうと、ゆかりさんが「私が」と声をかけてくれる。それを断り、店の外に出た。まだ野島さんがそこに立っていた。反対側の歩道を見ているようだ。


「野島さん、どうかされました?」


 声をかければ、野島さんがこちらを見る。再び視線を歩道に戻した後、「うん……」と言いながらこちらに戻ってきた。眉が寄っている。


「さっき、向こう側でこっちを見てる人がいて……」

「え?」


 野島さんが見ていた方向を見るが、今は誰もいない。


「どの辺ですか?」

「ちょうどそっちの……」


 そう言って指さす方向は駅への出入口があるところだ。出口を間違えた人だろうか?


「出てきてから場所を確認してたんですかね?」

「うん……そうよね。

 ごめんなさい、変なこと言って」

「とんでもないです。

 でも気をつけて帰って下さいね?」


 ありがとう、と言って野島さんが歩いて行く。その姿を見送って店に戻った。


「野島さん、どうかされたんですか?」


 内扉を開けると、ゆかりさんが心配そうにそう声をかけてくる。


「ううん、なんでも。

 反対側の駅出入口の辺りに立ってた人がいたんですって。出口間違えたのかな?」

「慣れてないと地下から出てきた時に場所が分からなくなっちゃいますもんね」


 ホント出口分かんないと大変ですよね、この前も梅川駅で――そうゆかりさんと話しながら、みのりは報告事項として一応脳内でメモを取る。同時に「あー……」と内心で呻いた。


(どんな感じの人だったか聞いとけば良かったぁ……!)


 今更後悔してもどうしようもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ