第15話。常連さんとお客さん
外扉から人が入ってきたが、少し待っても内扉を開けて入ってこない。
初めての方かな? そう思いつつ、店内を確認したみのりが内扉を開ければ、そこにジャケットを着た男性が少し困ったように立っていた。バッチリと目が合い、みのりは内扉から出て猫が出てこないように扉を閉めた。
「いらっしゃいませ。どうかなさいましたか?」
「あ、あの……!」
焦ったように声を上げた男性が、キョロキョロと周りを見るが、店内は一応ここからのぞけないようになっている。もしかして……
「待ち合わせか、どなたかお探しですか?」
「……! はい、そうなんです!」
ふむ、とみのりは考える。今現在店内にいるのは研修で入ってもらっているゆかりさんと、さっき来店した金橋さんだ。
「お相手の方の、お名前をうかがってもよろしいですか?」
「あ、そうですね。中……いや、ちょっと待ってくださいね」
そう言った彼は、何故かスマホを取り出して慌てたように操作する。……怪しい。
「あ、あの金橋さん、という男性の方が中に……」
「確認いたします、少々お待ちくださいね。
あの、お名前うかがってもよろしいですか?」
「あ、はい! 山口と申します」
頭を下げて店内に戻る。
カウンターでこちらを見ていた朔夜の頭を撫で、金橋さんに近づいた。パソコンに向かっていた金橋さんが顔を上げる。
「あの、金橋さん。
今内扉の外に、山口さんという男性の方が……」
「!」
そう言えば、金橋さんが慌てたように立ち上がった。驚いて身を起こしたつむぎに「ご、ごめん!」と謝りながら、頭を撫でる。
パソコンを閉じたと思えば、それとスマホを持って内扉の向こうへと消えていった。
「……どうしたんでしょう?」
「……ねぇ?」
カウンターの内外で、ゆかりさんと一緒に首を傾げる。
しばらく通路で何か話してるな、と思っていると、おもむろに内扉が開いて金橋さんが顔をのぞかせた。
「みのりさん、ごめんなさい。少し出てきます」
「あ、はい。いってらっしゃい」
頭を下げた金橋さんが内扉の向こうに消え、外扉を出る音がする。……荷物も、持たずに。
ゆかりさんと顔を見合わせて首を傾げた。
でもまぁパソコンとスマホは持って出たみたいだし。山口さんもいるし、ねぇ?
なんとかなるかな?――そう思っていると、目隠しシート越しに立つ二人の姿が見えた。そしてその窓ガラスの側に、トトトとつむぎが近づいていくのが見える。
「……個室とか、用意した方がいいのかな?」
「でも場所や広さの問題もありますし。このお店はこれがいいと私は思いますよ?」
……ゆかりさんが優しい。
まぁ猫カフェだし、別に店内で話せないわけでもないし――そう自分をなぐさめていると、金橋さんが戻ってきた。「すみません」と頭を下げて、テーブル席へと戻っていく。山口さんは外に立って電話をしているようだ。
いいのかしら? そう思いつつゆかりさんと仕事をしていると、内扉が開いた。
「いらっしゃいませ……」
山口さんだ。また金橋さんかしら――そう思って金橋さんに声をかけようとすると、彼がカウンター前に立った。
「すみません。えっと……今からなら30分、かな? お願いします」
「ありがとうございます。ドリンクをこの中からお選びください」
「あ、はい。じゃあ……これで」
「承りました。
お席は自由ですので、お好きな場所でおくつろぎください」
頭を下げた山口さんが、やはり金橋さんの側に寄って行く。金橋さんの隣に少し距離を置いて座り、机の上に置いた注意書きを見てくれているのが見えた。
「……なんで外で話してたんでしょうね?」
「さぁ……?」
それなら最初から中で話せばいいのに。それとも――
「せ……金橋、さん」
スマホに目を落とした山口さんが、金橋さんに声をかけてスマホを差し出している。
金橋さんがそれを見て頷き、なにやら手で指し示していた。頷いた山口さんがスマホを操作している。
(ああ、そうか)
やっぱり、お仕事の外部に漏らせないお話だったんだ。
注文を受けたペットボトルを持っていくと、スマホを触りながら山口さんが「ありがとうございます」と頭を下げてくれた。
ゆかりさんと首を傾げながら目を交わすと、「おお、この子が……!」と声が聞こえる。振り返ると、山口さんがつむぎを見て笑っていた。
山口さんが手を伸ばすと、つむぎはその手を避けて金橋さんの反対側に回る。いつもとは逆の位置に昇ってこようとするつむぎを見て、金橋さんは困ったように笑いながら座る位置をずらした。山口さんの口からすごく残念そうな「あぁ……」の声が上がる。
そんな山口さんの姿が少しおかしくて、ゆかりさんと一緒にみのりは口角を上げた。
30分後、店の一時閉店に合わせて山口さんと金橋さんが店を出る。1時間後に戻ってきた金橋さんを見て、つむぎが満足そうに横に座った。
そんなつむぎの姿に、ゆかりさんとふふっと笑いあった。




