第11話。「雇ってください?」
「ねぇ、みのり?」
「んー?」
カウンターにいる朔夜を撫でつつ、開店準備も助けてくれた友人・中野佐枝が声をかけてくる。
作業の手を止めて佐枝を見ると、こそっと耳打ちしてきた。
「アンタ、休憩とかどうしてんの?」
「え?」
キョトンとすれば、佐枝がさらに言葉を重ねてきた。
「いやだって、このお店アンタ一人でしょ? お店も不定休だし、どうしてんのかなって」
「休憩は一応取ってるよ。11時半~12時半一時閉店って出してるでしょ?」
「……アンタ、体調崩したらどうすんの?」
「大丈夫、ここ何年も体調崩してないし」
「いや、そういう問題じゃないでしょ?!」
何言ってんだコイツ、という顔をしながら佐枝が食らいついてくる。
その剣幕にビックリした朔夜がカウンターから飛び降りて逃げ出した。
「今はよくてもそれじゃダメでしょ?! 何があるか分かんないんだし!」
「でも人を雇えるほど余裕が……」
はぁ……と目の前で佐枝がため息を吐いた。
「それ、優子さんに相談した?」
「……してない」
佐枝がまたため息を吐いた。
「……バカじゃないの?」
「だってしょうがないじゃない。っていうか、お店でそんな話しないで」
睨み付ければ不満そうな目をしながらも佐枝が口をつぐむ。
そっと店内をうかがえば、金橋さんは知らんぷりをしてくれているが、何度か来店してくれたことがあるお客さんがこちらを気にするようにチラチラと見ている。
みのりが頭を下げると、驚いたように首を振っていた。
……みのりだって佐枝が心配してくれていることぐらい分かっている。だが実際問題ない袖は振れないのだ。そうなるとなんとかするしかないではないか。
佐枝を再び睨めば、居心地悪そうにした後、口を開いた。
「……私、手伝おうか?」
「佐枝も転職活動中でしょ」
ぐむむ……と佐枝が口をとがらせる。すると「あの……」と近付いてきたお客さんに、声をかけられた。
「申し訳ございません!」
佐枝と一緒に慌てて頭を下げれば、「いえ、違うんです」と慌ててお客さんが手を振った。それから佐枝と同じように、カウンターまで近付いてくる。少し垂れ目で、女性から見てもキレイなその顔が、どこか思い詰めているようにも見えて。
またカウンターに登ってきていた朔夜と一緒に、その顔を見た。
「もしよろしければ……私を雇ってもらえませんか?」
「「は?」」
佐枝と声がハモる。
「突然ごめんなさい」とお客さんが頭を下げる。さらりとロングの髪が肩から滑り落ちた。
「私、山辺ゆかりと申します。別の猫カフェで勤めていたんですが、先日退職しまして。
こちらがもし募集されるということであれば、是非お願いしたいんですが……」
「え、いや、ちょっと待って……!」
みのりも修行した大手猫カフェチェーンの別店舗で働いていたらしい、と聞いてもそれとこれとは話が違う。何より、まだ他にもお客さん(金橋さん)がいる!
「えーっと……確認して、後日連絡をさせていただいてもいいですか?
とりあえず連絡先を……」
そう言ってメモを差し出せば、「ありがとうございます」と携帯番号やメールアドレスを記入する。
「ご無理なら結構です。でももしよろしければお願いします」
胸元で手を組んだままぺこりと頭を下げる山辺さんに、佐枝と一緒に呆気にとられたまま頭を下げる。
再びクッション席まで戻った彼女を見、佐枝と目を合わせ……首を傾げた。
(……どういうこと?!)




