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とある伯爵令嬢の復讐事件簿〜妹に婚約者を奪われたので、浮気探偵はじめます〜  作者: 地野千塩


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とある伯爵令嬢の復讐事件(9)

 鏡の中の私、メイドに化けていた。眉毛は太く、そばかすや黒子を描いてる。かつらとメガネも使えば、そこに伯爵令嬢・エステルの姿はない。


 現在、カミルの探偵事務所の一室でメイドに変装中だった。


「エステル、本当別人! 絶対バレないよ」


 アクレシアにも太鼓判を押された。


「お嬢様、あとは少し目線をさげ、背筋を丸めると完璧です! ええ、そんな感じで!」


 メイクブラックを片手にマーサもゴーサインを出し、準備は整った。


 今日は待ちに待ったXデーだ。今日の夕方夜にかけ、王都のホテルでパーティーが開かれる。ジークとイザベルの婚約パーティーだ。


 招待客はゆうに五百人をこえ、王族や貴族はもちろん、記者も来るという。


 おかげでメイドや給仕の単発仕事も募集されていた。私もメイドとしてパーティーに潜入し、ジークの浮気を暴露する計画。


 もちろん、一人じゃない。カミルもカツラとメガネなどで変装し、庶民に化け、給仕の単発仕事人として会場に入る。


 リリーやアリス、アクレシアたち被害者はパーティーの客として紛れ込む予定だった。招待状はカミルの実家経由で入手し、偽の身分証明書も使う計画だった。


 そんなXデー。リリーやアリスたちもドレスで着飾り、続々と会場へ向かっていた。ちなみにドレスもカミルの実家経由で用意したが、紫や赤で派手。レースもたっぷりだ。おそらくパーティーのヒロイン・イザベルより目立ちそうだが、意図的だろう。彼女たちも会場へ向かっていた。


 私とカミルは裏手の従業員入り口から入り、偽の身分証明書で侵入成功。


 バックヤードはすでに戦場だ。メイドたちも飲み物や食事の準備に追われ、誰も私たちの存在に気づいていない。


 廊下の端により、思わず隣にいるカミルを見上げてしまう。


「こ、これは大丈夫かな?」

「大丈夫だろ。まずは計画通り、メイドの仕事に専念しろ」

「え、ええ」

「健闘を祈る!」


 ここでカミルと別れた。


 広いホテルのバックヤード、迷子になりそうになりながらも、他のメイドたちと合流し、会場にせっせと食べ物や飲み物を運んでいく。


 不安がないわけじゃない。果たしてここでジークの浮気を暴露しても上手くいくは不確かだったが、さっきのカミル、相変わらず自信満々に笑っていた。腹黒そうにも見える笑顔だ。かえって頼もしい。不安になるのも馬鹿げている。今はただ目の前の仕事に集中した。


 その時だった。なぜか準備中の会場にジークが現れた。服は着替えていたが髪はまだボサボサだ。


 あろうことかメイドの一人にも馴れ馴れしく話しかけている。


「ねえ、仕事面白い?」


 浮ついた声が響くが、私には全く気づいていない。それどころか、「そこの地味なメイド、水でも持ってこいよ」と悪態もついてきた。


「ジーク様、お待たせいたしました」


 いくら身分が高くても格下の相手には本性が出るらしい。それを見抜けなかった自分が恥ずかしい。婚約中は全く気づけなかった。


「ッチ! 遅いな!」


 水を渡しても舌打ちしてきた。ますますジークへ失望してしまった。


 その後、控室に帰ってくれてホッとしたが、メイドの中でもジークの評判は最悪だった。


「王族だからって調子乗ってるのよ」

「庶民と女遊びしている噂だって」

「メイドにも偉そうで嫌い」


 そんな評判を耳にすると、もしかして、婚約破棄できて良かったのだろか。この点についてはイザベルに感謝するべき?


 そして会場の準備も終え、ようやく招待客たちが入ってきた。お高くとまった貴族の連中ばっかり。メイドというだけで見下し、偉そう。


 私の正体はバレていないが、笑顔を作れない。この騒動が終わったら、伯爵令嬢エステルに戻る。同時にあの貴族社会に戻ることになるが、本当にそれでいいかわからない。


 なぜかカミルの顔が頭に浮かんで消えない。彼は腹黒い。性格だって良くはないが、人によって態度を変えることはなかった。いつも公平だった。落ちぶれた令嬢の私にも、決して見捨てなかった。


「あ、カミル……」


 給仕に変装し、仕事中のカミルを見つけてしまった。回りは貴族ばっかりで騒がしいのに、なぜかカミルだけくっきり見える。今は猫背でわざとだらってした雰囲気を演じているにに、そこだけ特別に見えるのはなぜ?


 わからない。意味もわからず顔が赤くなってしまうが、その理由がわからない。


「何、私……」


 もう考えても仕方ない。それに今はそれどころじゃない。会場にはリリーたちも入場してる。計画完了まであと少しだ。


 ジークとイザベルのパーティーも始まった。前方のステージには着飾った二人が登場し、熱く見つめあっていた。記者の質問も始まり、イザベルはさっそく惚気てる。


「ジーク様は私のわがままなんでも聞いてくれて、優しいんです!」


 いつもより派手なメイクのイザベル。目の周りがテカテカだ。鮮やかなピンクのドレスもよく似合う。甘ったるい声が会場に響き、幸せを噛み締めているようだ。


 一方、イザベルの隣にいるジークはちょっと引いていた。記者に質問されても、小声で事実だけ言ってる。


 ジークは浮気をしている男だ。もしかして、本心ではイザベルの婚約に乗り気じゃない?


 とはいえ、一応愛想良くはしていたが、ジークの本性は読めない。


「そういえばイザベル。あなたはお姉さんにいじめられていたっていう話がでていたけれど、本当?」


 記者の質問に会場がざわつく。私も持っていたトレーを落としうになった。まさかこんな質問あるなんて。


「ええ! エステルお姉さん、私をいじめたんです! いつも優等生ぶっていたお姉さんですが、本当はとても意地悪で!」

「イザベル、それは本当?」


 記者は面白半分で話題を掘っていく。イザベルはそのたびに、鼻の穴を膨らませ、私を悪女のように語る。ジークはニヤニヤと笑うだけ。会場も薄ら笑いが響く。


「エステルお姉さんにはトイレで水をかけらえたり、ものを隠されたりしました!」


 違う。いじめなんてしていない。今は変装中なのに、濡れ衣を着せられている現実に叫びそう。


 思わず口元を押さえた時だった。別の大声が響いていた。


 ステージの方じゃない。会場の中央あたりだ。カミルだ。カミルの声だけが響く。


「それは違うぜ、イザベル嬢。いじめをしてたのは、お前の方だ!」

「な、何を? 給仕ごときが何を言ってるのよ!?」


 会場はイザベルの怒号が響く。今のイザベル、本性が出てる。いつもの可愛らしい雰囲気とは打って変わり、違う釣り上がった目と怒鳴り声。


「俺は給仕じゃないぜ?」


 一方、カミルは堂々としたものだ。大股でステージに近づき、かつらとメガネをとり、正体をあかす。


「な、どういう? 公爵家の!?」


 ジークはすでに顔が真っ青になり、小刻みに震えてる。


「そうだ。アクレシア、それに科学の先生。イザベルのいじめを証言したまえ」


 一方、カミルは攻撃開始していた。


「ええ。私、イザベルにいじめられました!」

「ぼ、僕も現場を見ました!」


 アクレシアたちが証言し、会場は余計にどよめく。ジークはその場の座り込んでいたが、イザベルはなかなか強い。つんと顎を上げ、胸を張ってた。


「そんな証拠はないわ。単なる妄言よ。いじめをしてたのはエステルお姉さんの方よ」


 この後に及んでも主張するイザベルだったが、カミルは笑ってた。


「リリーたち、もう全部ここで暴露しろ!」


 そのカミルの掛け声が合図となった。リリー、アリス、他ジークの被害者女性がステージに押しかけ、浮気の証拠を突きつけていた。


「これがあんたが送った手紙!」

「こっちは手切れ金!」

「よくも私たちの女心をもて遊んでくれたわ!」

「そうよ! 絶対許さない!」


 ジークは逃げようとしたが、女たちに捕まり、何度もビンタをくらっていた。顔は腫れ上がり、せっかく整った顔も台無しだ。


「な、何! どういうこと! ジーク様、まさか女遊びや浮気していたの!?」


 イザベルは泣き崩れ、あろうことかカミルの足元に擦り寄っていたが、無視されていた。綺麗な無視だった。


 もう会場はカオスだ。記者は面白がり、貴族たちは困惑し、ざわざわとどよめく。ジークの父の怒号も響くが、私の父はさっさと逃げたみたい。なんという逃げ足の速さ。


 とはいえ、泣いてるイザベルや顔が腫れ上がったジークを見ていたら、ちょっと笑ってしまう。楽しくなってきた。今はもう喜劇かもしれない。悲劇はとっくの昔に終わっていたらしい。


 私もかつらやメガネを取ると、ジークに一発不平手打ちをお見舞いした。パンっと気持ちのいい音が響く。


「ななな、なんだ!? エ、エステル!? お前が仕組んだのか!?」


 ようやく私の正体に気づいたジーク、イザベルと一緒に泣いているじゃない。負け犬みたいだ。この男のどこを気に入り婚約していたのか、もはや謎。


 私は泣いてるジークとイザベルを無視し、カミルの側に駆け寄る。いつも以上に腹黒そうな口元で笑ってるが、頼もしい。


「おお、エステル。よく負けなかった。偉い!」


 褒められ、頭もポンと叩かれた。まるで母のような優しい手つきで、視界がゆらりと滲む。


「言っただろ? 悪事は絶対表にでるって」


 今までで一番優しいカミルの声が響き、私は深く頷いていた。涙がこぼれないように、下唇を噛みながら。

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