とある伯爵令嬢の復讐事件(10)
久々に学園の門をくぐる。今回は伯爵令嬢エステルとしてた。清掃員として潜入した時とは違う。学園の門は立派で、豪華な噴水も見える。残念ながら、今は冬なので噴水の水は止まっていたが。
髪や制服の乱れがないかチェックし、背筋を伸ばし、教室へ向かう。すっかり庶民に染まり探偵もしていたが、こっちの方が落ち着く。
「エステル、お帰りなさい!」
「私は信じてたわ!」
「そうよ、エステルがいじめなんて絶対にしないから!」
教室に入ると、友達に暖かく歓迎された。ようやく帰ってこれたらしい。友達の笑顔を見ながら気が抜けてきた。
あの後、イザベルもジークも然るべき末路に落ち着いた。イザベルのいじめ、喫煙も全部明るみにでて退学。世間体をおそれた父はイザベルを地方の修道院へ送り、私も内密に学園に復学させることに落ち着いた。伯爵家にも帰ってこれたが、父はこの件の後始末に追われていた。
当然、ジークとイザベルの婚約も解消された。なぜかジークの父の薬物疑惑も表に出てしまい、一家丸ごと大変な状況らしい。ジークも浮気だけでなく薬物疑惑や父の罪を隠蔽していたと、警察に事情聴取を受けているらしい。調査の結果によっては逮捕もあり得るという話だった。
学園ではジークの後任の生徒会選挙で盛り上がっていたし、こうして復学できるだけで御の字だ。
前はさらっと聞いていた授業も真面目に聞き、復帰一日目は充実していた。友達と会えるだけで嬉しい。
アクレシアとも再会し、ランチやカフェの約束も取り付けた。アクレシアの再会も嬉しいはずだが、急に違和感が襲ってくる。
「エステル、どうしたの? なんか微妙な表情では?」
アクレシアと一緒に帰り、学園から駅までの街路を歩いていた。もうすっかり風が冷たい。街路樹の枝も寂しく、小鳥の鳴き声だけが響く。
「全部解決したけど、なにか物足りないっていうか」
「そう? ちょっとわかんないなぁ」
アクレシアは首を傾げ、学園のカフェテリアのケーキやクッキーの味を語っていた。アクレシアの明るい声を聞きながら、少し楽しくなってきたが、どうも何か違う気がする。
駅につき、アクレシアと別れると、違和感が全く抜けない。何かが足りない気がした時、なぜか頭にカミルの顔が浮かぶ。腹黒そうで、自信満々の口元を思い出すだけで、その違和感が消えた。
「そうか、私。もしかしてカミルに会いたいの?」
その感情は何か不明だったが、探偵業も楽しかった。庶民のフリして変装したり、必死に聞きこみをしていた時を思い出す。貴族のお世辞なんか聞くよりよっぽど楽しかった。それにいつも隣にカミルがいた。
私は駅を出ると、カミルの探偵事務所の方向に歩く。早歩きだ。少し息があがり、汗も滲んでくるが、どうでもいい。
それにカミル、私が家に帰ったため、失業してしまったマーサを事務員として雇っていた。猫のミルクも引き取っていた。そうだ、カミルに会いたいなんてちょっと恥ずかしいから、マーサや猫のミルクに会いに来たって言えばいい?
探偵事務所がある商業地区を走り、ついにカミルの探偵事務所の前まできた。ちょっと焦ってる。汗も止まらないが、もういい。カミルに会えるのなら。
「おお、エステル嬢。どうした?」
扉を開けるとカミルが立っていた。まるで私が来るのを知ってたみたいに余裕たっぷり。
「お嬢様! おかえりなさい!」
マーサにも暖かく出迎えられ、猫のミルクも足元にすりよってきた。もふもふとし、くすぐったいが、今はどうでもいい。カミルに会えたら、もうそれだけでいい。
「さあ、エステルには仕事をやってもらうぞ。まだまだ雇用契約中だからな。次は迷い猫の捜索をやってもらうし、浮気調査の相談だってきてる。これが資料だ」
カミルに重い資料を渡されたが、思わず笑顔になってしまう。またこの仕事を続けられるのも嬉しい。
カミルも声をあげて笑っていた。
「ミャー」
猫のミルクの鳴き声も響き、探偵事務所は今日も賑やか。
ご覧いただきありがとうございます。第一部完結です。春の異世恋推理’26に参加させていただいております。とても素敵な企画でドキドキと緊張気味です。
本作、4部で完結予定です。2部以降は4月下旬〜ゴールデンウイークぐらいに連載予定です。2部と3部は令嬢や妃の浮気調査、4部は美女コンテストにまつわる事件です。よろしくお願いします。




